3−11 仲間の誓い
埒が明かない、そう思えた。
ハミルトン公爵の書斎の書類があまりに多い。
ゴードン家にもあまり通いたくない。
ゴードン家の馬車に乗り込むところを誰かに見られて、
家族が私の能力の価値でも知ったらどこに売られるか分からない。
だから少しでも早く証拠が見つかる様に、
ハミルトン公爵と直接接触しているライアン伯爵の方を
夜の間に調査を進める事にする。
という事で夜の覗き見中だけど、書斎の床下に書類等は無い。
そんな念入りに隠してある訳じゃなく、
机の引き出しの奥に書簡が隠してある…子供か…
送り主はゴースト某…
王都平民街西街の金物屋と連絡を取る様に指示がある。
そこを通して子と連絡を取る様に、
つまり子こと部下扱いの伯爵以下の貴族とは
金物屋を切ればライアン伯爵やその上のゴースト某とは
連絡が切れると言うやり方だ。
ゴースト某がハミルトン公爵かどうか分かる資料が欲しいんだけど…
もう一通は十を通して十二に蟻を渡す事、
王都近郊には置けない為、との事。
十と十二が何か分からないと誰に蟻を渡したか分からない。
裏帳簿とかがあるといいんだが…
この伯爵、微妙に仕事が粗い気がする。
他の引き出しの奥…じゃなくて引き出しが二重底だ…
隠し方が杜撰じゃないか…
それは兎も角、どうやら帳簿だ。
マリリン予算が支出にも収入にもあるぞ?
つまりライアン伯爵は誰かから受け取った予算を
誰かまたはプロジェクトに渡す役もしているんだ。
犬、という項目も収入と支出にある。
金物屋の用心棒から他の貴族への費用の中継の事だろうか…
とりあえず半年分を書き写す。
明日は書簡等ももっと調べたいが…
この人、多分ハミルトン公爵と直接会う人だから、
書簡等の指示は最低限しかもらってないんじゃないかな…
帳簿を書き写して頭が疲れたので今日はもう寝よう。
翌日、ゴードン家の侍女ジョディーが立つ馬車に乗り込み、
再度ゴードン家で捜査をする。
ジョディーが応接室に入って最初に尋ねる。
「何かご入用の品がございますでしょうか?」
「紙とインクとペンがあれば充分です。
ただ、グレアム様にお話ししたい事があり、
ご都合の良い時間に来て頂きたいと伝えて頂けますか?」
「すぐ連絡致します。」
ジョディーは部屋の外に立つ男に話しかけ、男はグレアムに連絡しに行った。
すぐにグレアムがやって来る。
「急ぎの用か?」
例のライアン伯爵家の裏帳簿の写しを渡す。
「昨晩、ライアン伯爵を調べたんだよ。
裏帳簿があり、マリリンの他に犬、というキーワードがあり、
ライアン伯爵経由でどこかに費用が流れていっているんだよ。」
グレアムが厳しい顔で写しを眺める。
「問題はどこから流れてきた金か、という点だな。」
「うん。ただ、ライアン伯爵はフレイザー男爵とは、
用心棒を通して連絡しているから、
上司とは多分直接話をしていて、書簡は最低限しか持ってなさそうなんだ。」
「とりあえずこの裏帳簿は早急に王家に渡す。
今日のハミルトン公爵邸の捜査も含めて一先ず報告をする。」
「分かった。
隠し部屋も少し見たほうが良いよね。」
「書斎の捜査に疎漏が無い様にな。」
「了解。」
そういう訳でハミルトン公爵の書斎は鍵付き引き出しの書類一覧を作って
一旦中止にした。
やはり一度隠し部屋を観察してみたかったんだ。
こんな部屋はメイドに掃除をさせないと思うが、
そこまで埃臭くなかった。公爵が出入りしているんだろう。
本棚と小さな机が一体となった家具に黒い蛾が止まっている…
暗い部屋に蛾が入り込んでいるとびっくりするよね…
その蛾が小さく羽根を動かす。うわぁ、びっくりしたよ。
蛾なんて人が近づいても動かないのに…
その蛾が止まっている家具に鍵のかかった引き出しがある。
そこを調べてみると…
写しを取るか。
カリカリ…
「そろそろ一休みされてはいかがでしょうか?」
侍女のジョディーが声をかけるが、
これを途中で止める訳にはいかない。
「もう少ししたら声をかけます。
そうしたらグレアム様をお呼びして下さい。」
「分かりました。」
何かクセの強い字が並んでるね。
まあ、特徴のある字を書かないといけないんだが。
そういう訳で少し書き写すのに苦労したが、
完成した。グレアムを呼ぼう。
「どうした、何かあったか?」
その書き写したぐるりと円形に文字が並んでいる紙を渡す。
「悪いもんだよ。
血判状があった。」
「何だと!」
血判状にはハミルトン公爵以下、伯爵、子爵。男爵の名前が
22名並んでいる。
「本物なのか!?」
「名前の横に焦げ茶っぽい丸いシミが付いていたから、
本物だったと思うよ。」
「どこにそんな物があった!?」
「隠し部屋の本棚と机が一体になった家具の鍵の付いた引き出しの中。」
「それはさすがに説得力があるな…」
「サインを真似するのに疲れたよ。」
「似せて書けたのか?」
「ごめん、あんまり似てない。」
「まあ、良い。これは流石に重要だ。
すぐ王宮に持って行く。
お前は調査を続けてくれ。」
「一先ずお茶をもらうよ。
後、時間になったら帰るからね。」
「そうしろ。
今日は良くやった。」
「あんたに褒めてもらったのは初めてだよ。
人に付いてきて欲しかったら、もっと褒めると良いよ。」
「お前以外ならもっと褒めてるぞ。」
「はいはい。」
この血判状が悪いもの、と伝えたのは、
ライアン伯爵、ラムゼイ伯爵、ケイス伯爵、センベロ子爵、
フレイザー男爵以外に、
ゴードン家と領地を接する4家の当主の名前があったからだ。
そのうちの一つはグレンヴィル子爵、
つまりライラの父親だった。
血判状に円形に名前を並べても、
爵位が判れば丸く書く意味がないですね…