3−9 大物の影
監視を続けるフレイザー男爵の館を出入りする男に見覚えがあった。
例のフレイザー男爵とラムゼイ伯爵の間の連絡を取っていたらしい人物だ。
この男を追ってみる。
彼は平民街北街まで歩いて行き、そこにある商家に入る。
そして番頭と話をし始める。
「まだ上から指示はないから、そのまま世話を続けて欲しいんだが。」
「困りますね。まあその筋の人達に頼んで管理してもらってますが、
やはり相手が人間だと何で騒がれるか分かりません。」
「管理費は出してもらう。
それについては指示待ちだから、現状までの請求書を出してくれ。」
「分かりました。明後日にまたご来店頂けますか?」
「ああ、そうするよ。」
…文脈からすると蟻さんの話なんだろうけどね…
後でこの商家も調べよう。
当面は男がどこに行くかを見届けよう。
男は今度は平民街西街に歩いて行った。
これ、用心棒事務所の表の金物屋だ。
「まだ時間がかかるなら、追加の管理費が必要だ。
上に話を付けてくれ。」
「話はしますが、同志なら費用の立替えぐらいはして欲しいですね。」
「どれだけ期間がかかるか分からない。
こちらは預かっているだけなのだから、
費用負担までは出来ないぞ。」
「まあ、話はしてみますよ。」
「頼んだぞ。」
どうやら、上はケチくさい奴らしい。
まあどう見ても侯爵家以上の奴だから、
男爵家なんていざとなれば切り捨てるつもりなんだろう。
だから、直接接触はしない。
この金物屋の裏の用心棒組織が一番の監視対象だね。
とりあえず一息つこう。
翌日、金物屋に接触したのはまた別の貴族、ライアン伯爵の家人だった。
この家人が戻った家でライアン伯爵と会話した。
「上にお伺いするしかないな。」
直後に他の家人が向かったのがハミルトン公爵の館だった。
困った。フレイザー男爵絡みだから、報告し辛いが…
そうして報告の日が来た。
「ラムゼイ伯爵の書斎には蟻やらウサギやらの話の書いてある書類とかは無かったよ。
一方、フレイザー男爵の書斎にも今のところ怪しい書類は見つかっていない。
ただ、フレイザー男爵の家人と思われる男が平民街の北街の商家と
平民街の西街の用心棒組織の表の稼業の金物屋に出入りしていて、
その金物屋に出入りしているのがライアン伯爵の家人だった。
この家の他の家人が出入りしたのがハミルトン公爵の館だった。
そこの裏は取れてない。
ただ、そういう人の流れがあったと言うだけだよ。」
ハミルトン公爵の名前にグレアムもエディも緊張の色が隠せなかった。
ハミルトン公爵は先王の弟だ。
先王はあまり良い王ではなかったが、
ハミルトン公爵が良く支えてくれたんだ。
そのハミルトン公爵はまだ大きな影響力を持ち、
現王の政策批判も少なからず行っていた。
「証拠はあるのか?」
グレアムが声を絞り出すが、そんなのある訳ないじゃん。
私の監視結果だけだよ。
しかも、私の能力でこいつらに示しているのは光学関係だけだ。
話も聞ける事は流石に明かせない。
「だから、裏は取れてない。
ラムゼイ伯爵もフレイザー男爵も調査は不十分だし、
ライアン伯爵に至っては昨日の夕方に関係が出てきたから
全然調べられてないよ。」
この際、どう考えても本命候補のハミルトン公爵を調べるのが早いけど、
最初の問題に突き当たる。
でも、エディはやはり本命が気にかかる様だ。
「ハミルトン公爵の書斎は調べられないか?」
大きくため息をついて見せる私。
この言葉が欲しい筈だ。言ってやるよ。
「距離が遠すぎて調べられない。」
やはりその言葉を待っていた様だ。
躊躇いなく答えが返ってきた。
「こちらで場所を用意する。
騎士団総本部と魔法院と王宮と、
どこが良い?」
騎士団本部で盗み見しているところを見せろと?
魔法院で魔法を使っているところを見せろと?
王宮でこの能力を使っているところを見せろと?
「もうちょっと好意的な提案が欲しいんだけど?」
「どこもハミルトン邸から1マイルも離れていないと思うけど?」
「距離の問題じゃないでしょ?」
エディは本気の好意でその場所を提案していた。
多分、距離の問題で苦労しているなら、
仕事を斡旋した自分の方から協力をしようと思っていたんだ。
グレアムはキャサリンがその能力をひたすら隠そうとしているから、
公な場所で能力を使いたくない事くらいは理解した。
「じゃあ、うちでやるか?」
キャサリンとしては、例の誰かを助けた場所が
ゴードン領だったかそうじゃないかを確信出来ていなかったから、
ゴードン邸の騎士はあまり信用していなかった。
だから、フードの下から見える口が強張ってしまった。
「何か文句があるのか!?」
「いや、何かあんたん家の騎士って微妙に横暴そうな気がして。」
「…どういう意味だよ!」
グレアムは自分が横暴な男と言われたと勘違いした。
いや、あんたって横暴な感じに見えると思うよ。
エディは残念そうな顔をした。
「仲が良いグレアムの家が良ければそちらでも良いよ。」
「待てよ、別に仲は良くないぞ!」
「うん、仲は良くないって。」
エディの誤解は解けたか不明だが、
結局ゴードン家で捜査をする事になった。
今日は金物屋こと裏組織に出入りする人間一覧を最後に提出して終わった。
すいません。値落ちしてました。