3−7 能力の限界
ケイス伯爵は北部の上位貴族である。
つまり、南部の下位貴族街にタウンハウスがあるプリムローズ家からは少し遠い。
今後、侯爵家などもっと高位の貴族の調査等が来たら
もう5マイルくらい離れてしまい、調査不能だ。
と伝えれば馬車でも出してくれるだろう。
そうして私の能力を少しずつ調査する、
そういう意味もある依頼だろう。
こちらの能力情報を出さずに創意工夫で調査が出来るのだろうか…
って言うか、試験勉強ばかりしてたんで覗き見スキルが低下中だよ。
普通の女の子に成り下がってる…いや、トム子さんの方が下だ。
品位という点ではね。
という事で、駄目なら平民街の用心棒他の組織の観察をする事にする。
リハビリだ。
なにせ冬休みだから、こちらは食事と入浴以外では基本は暇だ。
午前中だけ貴族家と貴族領の情報を調べて、
午後と夜には覗き見…じゃなくて街角観察をする。
ケイス伯爵は北東部に領地を持つ。
北西部のラムゼイ伯爵等とは関係がなさそうだ。
タウンハウスの位置も確認した。
じゃあ、見てみるか…
駄目だ、間にある他の伯爵家までしかコントロール出来ない。
途中のルートを何通りか変えてみるが、
どうしても途中でコントロールが出来なくなる。
大体、2マイルまで魔法のコントロールが出来るなんて話を
聞いた事がない。あり得ない事なんだぞ。
グレアム達は私がどうすると思っているんだろう。
…音を上げて能力の情報を出すのを待っているんだろう。
腹黒どもめ。
何とか工夫をするか。
机や紙の間をすり抜ける時の様に魔力を細くしてみる。
そうしてもコントロールの距離に変わりは無かった。
そもそも2マイル先に能力が伝わるなんておかしいが、
多分、私のコントロールが長いのは魔法伝達にコントロールが
乗っているんだろう。
それが2マイル先でコントロール出来なくなる…
明らかに減衰してるんだ。
じゃあ、届ける量を増やしたら?
この能力は多分光学関係の能力で、
光学といえばつい最近に光を集めた事があった。
ああいう風に私の近傍では幅広く、先で細めたらどうだろう。
…やった!
3マイル先で曲げられた。
でも、曲げ回数は限られてしまう…
大体、こんなに大規模に魔法を使っていたら
魔法感受性の高い人間がいたらばれないか?
とりあえずケイス伯爵館の間取りを調べよう。
10分くらい捜索したら一度止めたほうが良いだろう。
誰かに気づかれたらまずいから。
とりあえず1階の間取りを簡単にメモする。
2階は夜にしよう。
後は、あまり魔力に優れた者がいない平民街の用心棒組織を調べよう。
そもそも平民街の誘拐犯は周囲の組織と何か話を付けていたと思う。
でなければトラブルになって、最悪密告される可能性もあった筈だ。
ただ、前に見た夜の様に、昼にはあまりパトロールをやってないよね。
用心棒達は。
昼は騎士団の見回りもあるからそういう裏の見回りは不要なのだろうか。
夜のケイス伯爵館を見るが…
しまった、昼のうちに書斎がどこか確認しておくべきだった。
人がいるのはそれっぽい部屋では無い。
冬休みは北部は雪で交通が遮断される事もあるから、
あまり業務はないらしく、書類仕事をしているのは1階の侍従くらいだ。
それっぽい部屋を見てみるが…
能力の曲げ回数が足りなくなる。
机の中を覗こうとしても、コントロールが出来なくなる。
うーん、ルートを考えないと書類のチェックは出来そうにない。
日中に窓から外を見て、ルートを考え直そう。
じゃあ、平民街の用心棒チェックだ。
西街の用心棒組織その1のメンバーをメモしておこう。
燕のマサ、剛力のボブ、スケコマシのジギー…
ろくな名前の奴がいないな。まあいつか何かの役にたつかもしれない。
メモしておこう。
そんな具合で、ケイス伯爵館の調査は間取り調査と
魔力コントロールの仕方の練習で殆ど進まず、
平民街の用心棒組織の名簿だけが進んだ。
これは、グレアムがキレるな、と思ったが、
何事にも準備が必要だから仕方がないと諦めた。
そして、1週間後の約束の日、キャサリンがグレアム達に提出したのは
平民街西街の用心棒組織の名簿、その上位組織の関係図だった。
グレアムが予想通りキレた。
「調べろと言われたものを調べないで何を余所事をやっていやがる!
やる気がないのかよ!
一大事なんだぞ!」
「分かってるよ。でも、こっちにも準備ってものが必要でね。」
「全部終わってから調査結果が出ても仕方ないだろ!
いいか、3日でまず調べて来い!!」
「3日で調べられる事なんて、間取りぐらいだよ。」
実は間取りはもう調べてあるから、出せと言われれば3日後どころか
明日だって良いんだ。
エディはそこまで切羽詰まっている様ではなかった。
「そうだね、まず3日で結果を一度報告して欲しい。
その後で、重要視している組織があるなら平民街の組織も
大きい方の2つは調べても良い。
でも、ケイス伯爵の調査を優先して欲しい。」
「うん、分かった。まず3日後に経過報告はするよ。」
キャサリンからすれば、グレアムは考えなしだから文句だけ言ってるが、
理解を示しているエディは、
私の能力が光学的なものだから距離に関係して制限がある事に感づいているんだろう。
むしろエディの方が警戒すべき相手だと感じていた。
ミッション・インポッシブルだったと思いますが、
証拠を手に入れるのにワイヤーでぶら下がって作業をするシーンがありました。
そんなのいいからガンファイトとかすれば良いのに、
と思って見ていました。
自分で作品を書くとなると、
毎回バトルばっかりというのは大分抵抗があります。
制作側と観衆側で思う事は異なって、
あくまで受ける事だけ考えると毎回ざまぁものを書いたりするんだろうな、
とは思うけど…