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3−4 目覚め

 上水道の繭に関する情報は王にまで届いた。

王は上水道をこれ以上汚染しない様に、

繭へ危害を加える事を禁じた。

それは現場のエディ達と役人達の認識と一緒だったから、

彼等はともかく貯水池の水位を下げる努力をした。

貯水池は一定以上水位を下げる事は基本的に出来ない。

それが出来れば、上水道は逆流して下水が混じる可能性すらあるからだ。

それでもこれ以上繭が水に浸っていれば、

繭の中身が腐って死ぬか、溺死して腐るかどちらかだから、

水位を下げる為に西取水口からの上水道の供給を止める事にした。

その後に貯水池のすぐ下流にある水門を閉じ、

数年毎の堆積物掃除の際に使う貯水池のドレン弁を開いて排水した。

こうして何とか繭の浸水を防いだ。

魔法院と科学院の生物研究者が呼ばれたが、

このサイズの繭の事を知っている人間はいなかった。

研究者達と水道局の役人達は手分けして文献を調べ始めたが、

すぐ情報が入るとは思えなかった。

王都内では上水道の西側が供給を停止している為、

井戸の利用が指示された。

そもそも、西側の上水道を使用しているのは平民と下位貴族だったので、

強硬な苦情は上がってこなかった。

王宮と上位貴族は東取水口からの上水道を使用していたからだ。


 そして、

上位貴族でありながら下位貴族地区にタウンハウスを持つこの家でも、

苦労しているのは水汲みや洗濯に従事する下男下女であり、

貴族達には影響は無かった。

ディナーの席で夫人が噂話をした。

「あなた聞きました?上水道が緊急清掃の為に止まっているんですって。」

「ああ、今朝から水に糸が混じっていた件の対応で、

 数日は井戸を使えという指示が出たそうだ。」

「王家も北部貴族もあんなに威張り散らしているんだから、

 そういう公共事業はしっかりやってもらわないと困りますわ。」

「これこれ、そういう事を外で言ってはいけないよ。

 まあ、皆忖度をして高位の者には何も言わないから、

 自分達が至らない事に気付いていないのだろうけどね。」

「誰しも自分の事は見えないものですからね。」

キャサリンから見れば、何を他人事みたいに言っているのか、と思う。

この夫婦、もう4年も領地に帰っていない。

領地の公共事業は完全に陪臣任せだ。

「アレクシア、コクラン伯爵家に次に伺うのは何時になっている?」

「土曜に伺う事になっています。」

「来年には結婚の予定とはいえ、直前に喧嘩別れをする例もあるから、

 油断せずに何かと彼に相談する様に、気を付けてくれ。」

「はい、分かりました。」

「アンソニーはモニカ嬢とは仲良くやっているか?」

「はい、問題なくつきあっております。」

「お前は少しおっとりしているから、

 少し強気にリードする様な事も意識しなさい。」

「はい。分かっております。」

モニカ嬢とは長男の婚約者のモニカ・シンクレア伯爵令嬢の事だ。

長男がおっとりしている?

説教と小言が多い嫌な奴だが。親の前では借りてきた猫だからな。

こうして長女と長男には話を振るが、

食事中に次女と私に話が振られることはない。

特に話をしたい相手でもないから問題ないが。


 食後に入浴をして布団に入る。

この真冬に繭を作った虫は、これからどうするつもりだろうか。

冬眠代わりに繭に包まったのだろうか。

あそこで冬が越せるんだろうか。

まあそこはお偉いさん達の考える事だ。

……

………

 寒い…

誰か少女の心の中のつぶやきを聞いた気がした。

ボロ布だけを纏った少女が頭に浮かぶ。

寒いよ。寒い。家に帰りたい。早く家に帰りたい。

悲しそうな呟きが聞こえてくる。

そんな思いを聞かされたら、とても我慢が出来なかった。

半身を布団から跳ね上げる。

泣きながら売られていった少女達の事を思い出してしまう。

無理だよ!

私みたいに力の無い者ではあなた達を助けられなかった。

そんなの領主の責任だし、

騎士団の責任だし、

王家の責任じゃないか!

いくら言い訳をしても、自分が彼女達を見捨てた事は変わらない。

私の中には無い感情、帰郷を願う心、

家、HOMEに帰りたいという心で胸が一杯になる。

だって、だって仕方無いじゃない…

私には力が無いんだから…

言い訳をしても胸一杯になった思いは消えない。

顔を両手で覆って、流れる涙に耐える。

いくら耐えても溢れてくる思いが止められない。

次に襲ってくるのは衝動だ。

何か出来る事があるんじゃないか、

ベッドから飛び降りて平民用の防寒具を着る。

空は白んでいる。

下手にジャンプしたら誰かに見られるのじゃないか、

その点は気になったが、とりあえず確認だ。

貴族街と平民街の間にある公園の木陰を意識する。

人気はない。

真冬の未明に動いているのは王家の許可をもらって営業しているパン屋くらいだ。

そうして、公園にジャンプする。

衝動の指向している相手が売られていった少女達なのか、

それとも他の何かなのかをキャサリンは気づく事なく、

もう一度西の外れにジャンプする。

 明日は長めになる筈…

来週分が全然進んでいませんが。


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