表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/100

3−2 糸

 冬休みのある朝、

侍女が持ってきた洗顔用のたらいを見て眉を顰めてしまう。

その時、屋敷のどこかで騒ぐ声が聞こえた。

ガーベラという私付きの侍女が口を開く。

「何か騒がしいですねぇ…」

「これじゃない?」

とたらいを指差す。

「ただのぬるま湯ですけど?」

…良く見ろよ…

仕方がないので櫛の持ち手側をたらいの中に入れ、

それをかすめ取る。

「ほら、これ。」

「何ですか?これ。」

「この細さなら虫の糸でしょ。

 どこから持ってきた水よ、これ。」

「いつも通り上水道から汲んできた水を温めたんですよ。」

上水道というのは各貴族邸や平民街を通る蓋の付いた小川だ。

「じゃあ、井戸から汲んできた水を温めて持ってきて。」

「えー、嫌ですよ。その湯を使えば良いじゃないですか。」

「そう、じゃあ、こうしてみる?」

キャサリンはガーベラの腕を掴んでたらいに突っ込もうとする。

「何するんですか!止めて下さい!」

「あなたはこの糸の入った水が平気なんでしょ?

 ちょっと手入れてみて?」

「普通、嫌に決まってるじゃないですか!

 侍女虐待に反対します!」

「だからそんな水で顔洗えないでしょ、普通。

 井戸から汲んで来て。」


 そうしてガーベラはぶつぶつ言いながら屋外の井戸へ歩いていく。

すると長女付きの侍女が井戸で水を汲んでいる。

「あ、そちらにも糸が入ってたんですか?」

長女付きの侍女は苦笑いをした。

「迂闊にも糸が入っているのに気づかなくてね。

 井戸水を使う様にアレクシア様からの指示で汲んでいるの。

 そちらも?」

「はい。糸が入った水はイヤ、と文句を言われて。」

長女付きの侍女からすれば、文句を言われて当然の案件だ。

侍女のくせに主人に文句がありそうな言い方をするこの娘は問題だな、

と思ったし、

アレクシアと同様にすぐに指示を出すキャサリンも

中々頭の回転が速いのではないか、と思った。

騒いでいた伯爵夫人はまだ井戸から汲む指示を出していないんだから。


 侍女が水を汲みに行っている間に、

キャサリンは上水道を遡って原因を見ようとした。

プリムローズ伯爵のタウンハウスは下位貴族エリアにあり、

平民街と共通の上水道は西側の取水口から取り込んだ水を流しているんだ。

上水道とその蓋の間の空間を通して視界を上流に進めてみたが、

多分もう少し上流に大きな貯水池状の箇所がある、

と思われるところで見る事が出来なくなった。

…魔力で妨害されている?


 侍女が井戸水を鍋で少しだけ温めて持ってくる。

じっと水面を見つめるキャサリンに、

侍女は「ちゃんと確認したから糸はありませんよ!」と言うが、

つまりいつもは水の濁りとか異物を確認してないんだな、

とキャサリンは理解した。

これからは湯冷ましの水なども一応視認した方が良さそうだ…


 午前中は書庫から北部貴族の一覧や領地の特徴などが書かれた

資料を持ってきて頭に入れる。

ラムゼイ伯爵やフレイザー男爵の様に不審な貴族がいれば

頭に入れておきたいと思っているんだ。

不審というか無能な南部貴族ならひとつ知っているが。

昼を食べた後に平民用防寒服に身を包んで表に出る。

誰にも文句は言わせない。

私用に貴族向けの防寒コートを買う予算などどこにも無いからだ。


 さて、上水道に魔法がかかっていて外部からの魔力による調査を

妨害するという事があるだろうか。

むしろ魔法で上水道に細工をされるのを防ぐ用途で魔法妨害をしている

可能性の方が高いだろう。

とりあえず平民街で売っているスープを飲む。

飲むフリをして近場の上水道を遡って確認しているんだ。

能力で。

能力の視界を上流に遡ろうとするが、家からとは流れるルートが違う。

とにかく上流に遡って見ようとすれば良いのだが。

上水道の取水口は西に一つ、東に一つしかない。

破壊工作がされない様に、その二つの取水口を厳重に監視している。

段々水路が広くなってきた。

何らかの魔力を感じるが、この距離ならまだ私の能力の方が強い。

そうして取水口に近づくと、

屋根で覆った広い空間に貯水池があるのが見える。

そこは天井が高くなっており、

明らかに魔力が高い物体が存在した。

比較する物がないからどのくらいの大きさかは分からないが、

人間より大きいとは思う。

それは白い繭で、

天井にぶら下がっていたのが重さで天井から落ちかかっており、

全体の2割程が水面に浸っていた。

何の繭?

それに、あんなに水に浸っていたら、腐って死ぬのではないだろうか。

そうしたら上水道は台無しだ。

 キャサリンは頭の回転が速いのではなく、

自分で判断して行動しないと

誰も何もしてくれないと認識しているだけです。

…と言う事は、

出来が良いと言われる長女も何らかの認識がある訳ですね。

家族に対して。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ