2−9 試験結果と冬至祭前パーティー
勉強会のおかげで3人共毎日勉強を続けたため、
試験は全般的に不安なく回答できた。
こういう事はやはり試験情報が豊富な者が有利だ。
だから経験豊富な家庭教師を付けている上位貴族、
裕福な商家などの子供がやはり成績が上になる。
そういう者は入学時から1組になり、
それほどの教師を雇えない家の者が2組になり、
教育があまり受けられない者が3〜5組に入れられている。
キャサリンも魔法実技以外は2組では劣る方だったのだが、
今回は3人で勉強したお陰で全般的にクラスの上位になりそうだった。
試験が終わったので、日曜に3人でまた出かける事になった。
ブティックや服飾雑貨のお店をまわったが、
「すみません、蛇の目羽根扇子は予約分も入荷していない状況でして、
店舗での販売分はありません。」
結局12月になっても羽根扇子の流通は回復していないのだった。
休憩の為入った店でシェリルが愚痴る。
「もぉ、何で12月になっても蛇の目の羽根扇子が手に入らないの!
冬至祭には間に合わせないと売る方も困るでしょうに!」
「王都に入ってこないんじゃ仕方ないよ。
でも、私も普通の羽根扇子になりそうだなぁ。」
「え、アイリーンはお母様の扇子を借りるんじゃなかったの?」
「それがね、聞いたら少し羽根が抜け落ちてるんで買い替えないと人前では
使えないみたいなの。」
「それはがっかりだねえ。」
まあ保険はかけてあるんだけど、
モノが良いか悪いか私には分からないから、
当日に二人に見てもらって判断してもらおう。
「この焼き菓子変わってるね。
なんか微妙な食感が面白い。」
「スコーンって言うんだって。
最近王都で話題になってるから、一回食べてみたかったんだ。」
「そっか、流行の最先端なんだね!」
もぐもぐ、確かに変わった食感だけど、
お代を考えたら次に食べられるのは半年後くらいだよ。
少しでも防寒性の高い服を買っておかないと、
いざっていう時に逃げられないからね。
そうなると間食に使えるお金なんて雀の涙だよ。
そうしてこの日は何軒か小物屋などを回ったが、
何せ西からの流通が少なくなっていて、物価も上がっており、
何にしろおいそれと買えない状況だった。
上期の終わりに成績表を受け取ったが、
成績は全般良かった。
「アイリーンは魔法理論は評価どうだった?」
「4だよ。シェリルは?」
「一緒で4だよ!
キャサリンは?」
「同じ勉強したんだから一緒で4だよ。」
「よかったねぇ!ところで魔法実技はどうだった?
私3だった。」
「えへへ、私4だったよ。」
「アイリーン凄い!私は火属性だけど火が怖いんで3なんだよ。」
確かに落ち着きがないシェリルが火魔法が得意だったら結構怖いよ。
「ごめん、私も実技は4だった…」
「えぇぇ!キャサリン意外と凄いんだね!?」
「あなたは私を何だと思ってるのよ…」
「ごめん、別に変な事思ってないよ!」
多分、同類だと思ってたんだな…
シェリルよりは私の方が落ち着いていると思うよ。
成績表を親に渡すが、ちらと見て終わりだった。
「2組ならこんなものだろう。」
だとさ。
まあ変に期待されても返す恩もないから期待には応えないけどね。
親の受領のサインだけもらって後は新学期が始まった時に学校に返すだけだ。
翌日の午後は学院では冬至祭前日のパーティだ。
長男と次女と3人で馬車に乗って学院へ向かう。
毎度毎度、長男がお説教らしき事を言うが、
次女も私もはいはいと聞き流すだけだ。
懲りずに何か言う長男もある意味大したものだと思う。
教室でシェリルとアイリーンと待ち合わせしてからホールへ向かう。
「えーと、良かったら使って、という程度なんだけど、
蛇の目羽根扇子らしきものを手に入れました。」
「え!どこで!?」
「そうだよ、どこにも売ってなかったんだよ?」
「旅の商人から買ったんで、保証はないんだ。
イミテーションかもしれない。」
「ええ!?見せて見せて!」
「はい、これ。」
二人に手渡すと、しげしげと見つめている。
広げて裏表を確認する。
「えええええ!凄い、なんかちゃんとしてるよ!?」
「本当、本物みたい。」
「ごめん、本物を見たことがないからこれで良いのか分からないんだ。
ただ、よく見ても後から色を付けたって感じじゃないから、良いかなと思って。」
「うん、良いよ。使おうよ。」
「うん、でも、高くなかった?」
「旅の商人だから貴族向け価格じゃなかったから、
気にしないで良いよ。」
「そっか、でも今度お茶菓子を奢るからね。」
「私も何か奢るよ!ありがとうキャサリン!」
「どういたしまして。イミテーションだったらごめんね。」
「気にしないよ!それっぽいもん!」
「うん、気にならないくらいそれっぽいよ。」
それっぽいよ、ってイミテーションだと思ってるって事じゃないか。
会場では上級生はともかく、
1年生は蛇の目じゃない羽根扇子を持つ者が多かった。
だから南部の金満貴族でない3人が蛇の目羽根の扇子を持っているのは目立った。
「シェリル、よく蛇の目の羽根扇子なんか手に入ったね?」
「うん、謎の外国人から買ったんだ!」
「あれ、シェリル、蛇の目の扇子いいじゃない。どこから買ったの?」
「えへへ、謎の南部のご隠居から買ったんだ!」
「あんた、さっき外国人から買ったって言ったじゃない…」
シェリルはお調子者と思われているのでこういう時は上手くごまかせた。
そうして私もシェリルに気を取られていて、油断していたんだ。
「よく蛇の目の羽根扇子なんて手に入れられたな?」
と後ろから声をかけられるまで全く気が付かなかった。
振り向くとグレアムがライラをくっつけてやって来ていたんだ。
「えーと、旅の商人から買いまして。
イミテーションかもしれませんが。」
「どれ、見せてみろ。」
いや、別にあんたの目利きなんて信用してないから見なくていいよ。
と人前では口に出せない。相手は次期侯爵だ。
「はい、どうぞ。」
グレアムがじっと蛇の目部分を見つめる。それ以外の羽根の付け根も見ている。
分かってんのかよ、こいつ。
「…本物だな。すこし色が薄いから2級品だと思うが。
どこで手に入れた?」
さっき言っただろ!もうボケてきたのかよ!
「旅の商人から買ったんで、イミテーションだと思ってたんですが。」
そこでシェリルが割り込む。あんた、一応次期侯爵に割り込んだらまずいから…
「あの、すみません、これも見てもらえますか?」
「ああ。」
…
「これも本物だな。2級品だと思うが。」
「ありがとうございます!」
アイリーンも見てもらいたそうだけど、グレアムに話しかけられない。
見た目怖いからな、こいつ。
なのでアイリーンの扇子をすい、と抜き取り、グレアムに渡す。
「これもお願いします。」
ちろ、と睨まれるが2枚見るのも3枚見るのも一緒だろ、
細かいこと気にすんなよ。
…
「本物だろう。2級品だと思うが。」
「ありがとうございます。
扇子も目利きなんて出来るんですね。」
「うちを通って南部にも流れるからな。
貴族相手の商品は一応見方を覚えてる。」
「さすがですね、ありがとうございました。」
また睨まれた。さすがとか思ってないだろ、と視線で非難されたんだ。
もちろんさすがなんて思ってないよ。
この視線のやりとりを見てまたライラに睨まれた。
勘違いしないでよ、この緊張関係は見れば分かるでしょ?
グレアムが去った後、シェリルとアイリーンに抱きつかれる。
「凄いよキャサリン、本物だったよ!」
「うん、ありがとうキャサリン!」
うん、本当に本物だとは思ってなかったんだね、二人共。
という事で、2章完了です。
明日から激闘の冬休み編突入です。