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1−1 魔法学院入学前

 当日は遅くなって侍女長に怒られた。

翌日になって気分が落ちついてくると改めて腹が立ってきた。

(人助けをしたのに殺そうとするなんて、あのあたりの騎士はろくでなし揃いだよね。

 あっちには二度と行かない!

 それに人助けなんてしても逆に怒られるんなら、

 もう人なんて困ってても見捨ててやる!)

元々他人から良くしてもらった事がないキャサリンは人付き合いが悪いが、

この件で更に冷たい女になった。

子供だから感情が抑えられないので、思わず庭の木を蹴った。

びくともしないので更に腹が立って続けて蹴ったが跳ね返されるだけだ。

回し蹴りならどうだろう、と後ろ回し蹴りをしようとして気付いた。

(目で見ていない後ろも見える!)

今までは目で見た離れた場所が細かく見える事はあったが、

目で見ていない場所でも意識を向けただけで見えるのは初めてだった。

見ていないのに後ろ回し蹴りの狙いがつくのが面白くて

右足と左足で後ろ回し蹴りを10回ずつやったところで

侍女長がやって来て怒られた。

「スカートで回し蹴りをするのははしたないのでやってはいけません!」

ケンカキックなら良いのか?と思ったが間違いなく怒られるので黙っていた。

こうして見えない場所が見える事が分かったので、

暫くは見えない場所を見る遊びで暇を潰した。


 そうしている内に秋になり、キャサリンも王都に移った。

とりあえず厳しい行儀作法の教師が付けられた。

今までは侍女長に簡単な礼儀を教えてもらうだけだった為、

ともかく基礎的な礼儀を無理やり身に付けさせられた。

一方、風魔法の教師も付けられた。

これは王都の魔法院に登録された教師であり、

この教師の評価と入学前試験の結果でクラス分けが決まる。

ほぼ一から教えなければいけないキャサリンに、

教師も初めは顔を顰めたが、

教えた事は割とすぐに身につける器用さを褒めてくれた。

一方、魔法理論も一から覚えないといけないので、

こちらは教科書を毎日一定ページ読むように言われた。

「魔法は魔法子により魔力から魔法現象に変換されます。

 魔法子は3次元空間にある為、空間を歪める事や、

 時間を進めたり戻したりする事は出来ません。

 だから誰もが、次々と過ぎてゆく時間を有効に使わないといけません。」

教師は魔法の授業をしながら

毎日しっかり勉強しないといけないと説教をしてくれた。

真面目な教師はちょっと堅苦しい気がするが、

キャサリンをしっかり見ていてくれるので好感を持った。

だから魔法の練習と教科書の勉強は熱を持って進められた。

魔法学院の入学前試験もそこそこ出来たのだが、

学院から送られてきた「2組相当」という結果を見て、

両親は「やっぱり駄目だな」と言い放った。

長女と長男は1組だったのだ。

半年も指導を受けていないキャサリンと、

10才で魔法検査を受けてすぐ魔法の教師を付けられた長男長女とでは

条件が違う事など彼等は気にも留めなかった。

ちなみにやはり半年しか魔法指導を受けなかった次女は3組だった。


 そうして一息ついた所で、

長女の婚約者の家のコクラン伯爵家と会食の機会があった。

両親は初めて連れてこられたキャサリンを

「この子は出来が悪いし中々領地から出てこようとしなかったから」

とキャサリンの事を紹介した。

(はあ?出てこいとか言った事なんてないじゃん!)

キャサリンも、

この両親は自分の事を「出来が悪く王都に呼んでも来ない」という事にして

領地に放置したのは親が悪い訳では無いと言い訳している事を理解した。

相手の家族も品定めする目でキャサリンを一瞥した後、

話を振る事はなかった。

それでもこれは良い方で、

長男の婚約者の家のシンクレア伯爵家との会食の際には

キャサリンは部屋に閉じ込められて、

顔を合わせる事さえ許されなかった。

つまり、キャサリンは長男の婚約者とは無縁に終わるという意味だ。

こいつらは多分、貴族の義務の魔法学院さえ出したら

キャサリンの事は問答無用で家から放り出すつもりだろうという事も理解した。

(王都で何か手に職を付けないと…)

そうしてキャサリンは町娘の格好をして度々家から抜け出し、

女官試験の教科書が置いてある平民向けの図書館に通う様になった。

そういう訳でキャサリンは小銭が必要になった。

家令にキャサリン向けの予算の事を聞くと、

長女が10、長男が9、次女が2、キャサリンが1の割合で予算がある

と言われた。

つまり、キャサリンの扱いはそういうものだとこの機会に宣言したのだ。

長女の1割しか貰えなくても平民の月収よりは多いから、

キャサリンは現金で受け取った。

ちなみに毎月の予算の余りは中央山脈の中腹に壺に入れて隠した。

いざという時に家から持ち出せないと困るからである。

そうして平民街に出る為の服装や小物を買い集め、

王都暮らしを彼女なりに楽しんだ。

平民並のささやかな楽しみ方だが。

何しろ貴族付き合いをさせてもらえず、

貴族の友人が出来る筈もなかったのだから仕方がない。

とりあえず図書館で女官試験の勉強をするのがメインだったが、

何しろ15才以上相当の試験内容である。

理解出来ずに居眠りをしている事の方が多かった。

さすがキャサリン、田舎娘だけに緊迫感がない。


 そうして残り半年を過ごし、魔法学院の入学を迎えた。

 南部貴族というのは歴史的に立場が弱く、

また中央山脈の東と西は王家の藩塀と言われる侯爵家がいるので

北部貴族は南部と結託する事が基本的に出来ません。

そういう理由で長女長男の婚約者の家はどちらも南部貴族です。

両親はこの二人の婚約については頑張っています。

根が悪い人ではないので特別、虐待している訳ではないんですが…

多分、家風なんでしょうね。

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