2−6 人身売買
土曜の午後に家族は茶会に行った。
次女は友人の家に行っている。
そんな状況だから誰も私を呼んだりしないだろうが、
一応、自室の扉に「睡眠中、起こすな」との札をぶら下げて
中から閂をかける。
そうして男爵領まで次々とジャンプを続ける。
もうルーティン作業だよ。
男爵の領主館の敷地内に幌馬車が2台止まっている。
応接室には平民らしき男達がいる。
そこに猿ぐつわを着けられた少女が両側の男に両腕を掴まれて連れてこられる。
ボロ布一枚をかけられていたが、
部屋の扉が閉じられた後、その布を剥がされる。
少女は何も身につけていない。
つまり応接室にいた男達が人身売買業者で、品定めをしているんだ。
猿ぐつわをされているので叫べないからんーんーと唸りながら
身を捩って体の前を見せない様にしようとするが、
犯罪組織の一員と思われる男が足を掴んで動けない様にする。
恥辱に耐えかねて少女は泣き出した。
品定めする売買業者も、取り押さえている男達ももう馴れたもので、
少女をからかったりいやらしい目で見たりしない。
つまり、もう家畜の子を売買する時の品定めと一緒のビジネスモードなのだ。
少女の心中は良く分かる。
恥ずかしさと悔しさと悲しみと怒りでいっぱいだが、
それをどうする事も出来ないから涙を流すしかない。
流石にキャサリンもその理不尽さに頭にきていた。
人を人として見てもらえない屈辱、
女を女として見てもらえない恥辱。
同じ目にあったらどれだけ頭にくる事か。
かつては誘拐犯に対してもし攻撃魔法があっても皆殺しなど出来ないと思っていたが、
今なら、もし攻撃魔法があったら領主館ごと吹き飛ばしてやるのに!
そう思いながらそれが叶わない自分の無力さに泣いた。
次々と連れてこられた5人の少女達は皆、泣いていた。
何とかしてやりたいけど、非力な私が突入しても商品が一人増えるだけだ。
こんな場面が再現されない様に、なんとか情報を外部に伝えるしかない。
品定めが終わり、後ろ手に縛られた少女達が幌馬車に乗せられて、
北へ進んでいく。
北の貴族も仲間なんだろうか。
あれ、男爵の書斎に報告の為に男が入っていく。
会話を聞くか。
「ウサギの買い取りは終わりました。
後日、蟻2匹を寄越してくれるとの事です。」
「5羽売って蟻2匹か。
相場が変わったのか?少ないじゃないか。」
「ウサギが貧相な個体が多かったので、安かったのです。」
「子爵領も大した事はないな。貧乏揃いか。」
「子持ちなら豊満な女もおりますが、むしろ買取価格が下がります。」
「そうだな。来週は一休みして、
それからまた誘拐を再開してくれ。」
「分かりました。それではこれが買取証です。」
男爵は受け取った証文を引き出しに押し込んで乱暴に閉めた。
隣の部屋に行って、壺から酒をコップに注いでぐいっと飲み干す。
なんか凄く臭い酒だな。蒸留酒かな。
すぐ酔いそうな濃度だけど、大丈夫なのかね。
心配したい相手でもないけど。
手下は手慣れていたが、男爵はまだ人身売買を行う事に馴れていない様だ。
業者の買い取り作業の最中も書斎の中で落ち着きなくぐるぐる歩き回っていた。
緊張から解放されて、酒に頼りたくなったんだろう。
また酒をコップに注ぐ。
あれ、暫く酒を飲み続けるつもりか?
引き出しに鍵をかけてないのに…
…今なら証文を取り出せる?
書斎のある2階には人が少ない。
こんなチャンスは二度と無いかもしれない…
あんな風に女の子達が泣くのはもう見たくない!
よし、ジャンプ!
…隣の部屋の男爵はまたコップに酒を注いている。
そっと机の引き出しを開けて、書類を10枚くらいまとめて抜き出す。
懐に入れて、じゃあ、また雑木林へジャンプ!
ああ、胸がまだバクバクしてる!
懐から書類を引き出す。
一番上の書類は
「女性5人ここに買い取る。
対価として男性2人を納める。
期限、本日から7日以内。」
よし、売買の証文そのものだ。
背嚢に書類を入れる。
私は手に持ったものは一緒にジャンプ出来ないんだよ。
手に持っている物は自分以外の物と判断されるらしく、
服の中に入れるとか、背負っている鞄等に入れないと
ジャンプの時に置いていってしまうんだ。
で、これをどうするか。
勿論、子爵に押し付ける!
被害が出ているんだから、領主として何とかしなさいよ。
子爵領との間にある森へジャンプし、
領主館付近の雑木林へ連続ジャンプする。
子爵は領主館にいないよ…
こんな時に何やってんだ…
っていうか、またチャンスじゃないか。
書斎にジャンプし、持ってきた書類を机の上にバサッと置く。
説明不足だな。一筆書こう。
「怪盗フットプリント参上!
貴領の女性が誘拐され、人身売買されている証拠だ。
告発に利用されたし。」
という説明文を置いてある白紙に殴り書きした。
この間の写本会は私の筆跡を確認する為だった可能性があると
後から気付いたんだ。
この殴り書きなら分かるまい。
後は子爵次第だよ。
こんな情報、信用出来ないだろうけど、情報は情報だ。
ちゃんと調べる必要はある筈だ。
それでも何もしないと言うなら人口がどんどん減るだけだ。
それで良いなら何もしなければ良い。
じゃあね。私はこの件からもう手を引くからね。
貴族らしく領民をちゃんと守ってよ!
…プリムローズ家の人間にだけは言われたくない言葉だろうけど。
本文と関係ないですが、
久しぶりにネットカフェに行きました。
おすすめコーナーには異世界系漫画は男性向けしか置いてなかったので、
話題になっていたK獣8号を読んでみました。
…後悔した。
◯ンパンマンのコピー品だった。
出来れば何らかの勝ち負けは理由を付けて欲しいです。