2−5 ハイファックス子爵領
次の日の夜はフレイザー男爵領からハイファックス子爵領の方を見てみる。
つまり、蟻がどこから来て、ウサギが何処に隠されているのか、
ハイファックス子爵が関わっている可能性が気になったんだ。
また伯爵領から男爵領を経由して子爵領の間の森にジャンプし、
子爵領を見ようとするが…
男爵領側の農家の納屋が明るい。
中を見ると3人の少女が縛られて猿ぐつわをされている。
他に一人が縛られたまま俯いて涙を流している。
更に一人が首と腰に縄をかけられた状態でパンとスープを口にしている。
食事中の少女を二人の男が監視し、
納屋の大きな扉の外と中に一人ずつ男が立っている。
誰も喋らないから状況が分からないが…
多分、子爵領から少女を拐ってきてそれを売る、
というやり方なんだろう。
食事の終わった少女にまた猿ぐつわを着け、両手を後手で縛って寝転がす。
泣いている少女が次の食事の順番の様で、
猿ぐつわを外され首と腰に縄をかけてから後手に縛られていた両手の縄を外す。
「それ、いつまでも泣いてると食事を下げちまうぞ。」
「…お願い、家に帰して…」
「そんな事出来るわけないだろ。
もうお前は俺達の顔を見ちまった。
だから外国に連れて行かれるか、口を塞がれるかどっちかだ。」
…まあ犯罪者のやり方はそんなもんだろうが、
何様のつもりかね。
少女はべそをかきながら食事を口にする。
なんとかしてあげたいけど、
ここに誘拐組織の人間が4人、農家の方にも仲間らしき男達がいる。
私一人じゃ絶対に負ける。
この状況なら子爵に通報するのが一番良さそうだけど、
話を聞いてもらえるとは思えない。
子爵が伯爵・男爵の仲間でないという証拠もない。
とりあえず時間切れだ。
子爵は無関係で領民を盗まれている被害者の可能性があると
分かっただけ進展があった。
明日は子爵の方を調べてみよう。
ハイファックス子爵領は幹線道路に接している。
つまり、私なら中央山脈から直接移動が可能なんだ。
最近寝不足だから
一々ラムゼイ伯爵領を経由する様な手間がかからないのは助かる。
子爵の領主館は実家の領主館より大きい。
幹線道路を使った流通で稼いでいるんだろう。
子爵は書斎と思われる部屋にはいない。
別の部屋で夫婦で話をしている。
私はこんな能力はあるけれど覗き見趣味はないから
こちらは見ないでおこう。
書斎の鍵付き引き出しの中を見る。
中に日記があった。
まあ隙間があれば見れるから読むか…
頑張って最近20日分を読むが、
アリもキリギリスもウサギもカメも出てこなかった。
平民女性の行方不明があるとは書いてあったが、
逃亡して王都に行く例が昔からあるからそういう事ではないか、
と考察されていた。
…しっかりしろよ。
まあ、その言葉は我が家の親にこそ言わなければいけない言葉なんだが。
その他は封筒に入った証文とかだった。
訳わからない単語が並んでいる。
こういう専門用語を見ると眠くなるんだよ。勘弁してよ。
翌日はハイファックス領内を調査する。
何で私がこんな事を毎晩しないといけないのか。
腹が立ってきた。
こちらの領主館の近くの集落に大店はない。
むしろ宿屋が多い。
つまり流通の中継点で、ここを起点に商売をしている商家はいないのだろう。
そりゃそうだ。伯爵領の方が起点なら、隣の子爵領に拠点を作る理由は無い。
そういう事で蔵の様な建物も少ない。
蟻やらウサギやらを隠す場所も少ない様だ。
農家の納屋も見るかなぁ…
明るい納屋は無い。
農家の方は集落から離れた家は少ない。
都市から離れて一軒家というのも防犯上よろしくないからだろう。
ただ、国内の治安は割と良いと思うんだ。
野盗が暴れているという話は聞かないし、
南部でも犯罪者集団は見たことが無い。
集落から離れた農家はむしろそういう集団の拠点に向いてはいるが。
あれ、そうなると蟻は何に使うのか。
国内では公式には奴隷は認められていないから、
販売用の在庫を買う訳ではない。
犯罪者集団が多人数を使って悪さをしているという噂もないから、
そういう集団への販売用でもない。
という事はやっぱり反乱の準備だろうか。
私には貴族間の緊張関係が分からない。だから誰が怪しいか分からない。
社交を全くやっていないからだ。
でも、蟻の話はゴードン家を通じて王都の騎士団には伝わっていると思う。
だから、ここいらの人身売買も王都に情報が入れば調査が始まると思うんだが。
何せこの地域の問題の情報を私が王都に伝えたら
流石に能力がバレる。
女官になって普通の人生を送ろうという生活設計が台無しになってしまう。
通報するとしたら、やっぱり被害がある子爵に通報して、
そちらから王都に情報が行くのが理想だろうなぁ。