表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/100

2−2 ラムゼイ伯爵領(1)

 日曜の午後、王都の外に出て山裾を見る。

大分用心深く後を付けている者がいないか確認したが、

今日はいない様だ。

なにせ、前回、北図書館までグレアム達がやって来たという事は

家から付けられていた可能性がある。

下手にジャンプするところを見られたら大変だ。

雑木林の中に入り込み、そこから山を見つめる。

高い場所ではもう紅葉が始まっている。

こう、こっちに出っ張っている場所が良いんだけど。

出っ張っている場所と出っ張っている場所の間をジャンプするのが

一番距離が稼げるから。

そんな出っ張りの山裾の、あの辺りが少し木が少なくなってるな…

じっとその場所を見つめる。

そうすると目の前にその場所があるかの様に詳細が見える。

人一人が立てる以上の場所がありそうだ。

じゃあ、ジャンプ!


 この場所を今後西部方面にジャンプする際の中継点としよう。

木の枝を鉈で切り落として、木肌に傷を付けて目印とする。

ついでに根元に石でも集めておこう。

王都側に出っ張っている山裾だから、西側も見やすくなっている。

高い所から見ると街と畑の区別も付きやすい。

蛇の目の羽根をもつピーコックの産地と言えば随分西よりの

ラムゼイ伯爵の領地だ。

4回のジャンプでそれらしい地域に着いた。

中央山脈の尾根から一番大きい都市の近くの里山にジャンプする。

ここからなら歩いてすぐだ。

今回は男物の服を着ている。

私らしき人物の目撃証言があるとグレアム達に気づかれる怖れがあるから、

髪を結い上げてフードで隠して少年に見せかけようとしているんだ。

とは言え、貴族向けの商会にこんな平民服では入れない。

地方に見慣れない貴族がうろついているのもまずいので平民風にするしかないし。

この都市の中を歩きながら観察する。

敷地の大きな商会は馬車で移動する仲買商人や貴族相手の店だろう。

領主館と思われる大きな屋敷に近いところはそういう大手が固まっている。

平民向けは領主館から離れた場所にある長屋形式の場所と

小さめの一軒家の商家の連なる場所だろう。

一軒家の洋品店で適当な理由で扇がないか聞いてみよう。

「こんにちは〜。

 すいません、蛇の目羽根の扇子を探しているんだけど、

 置いてますか?」

ちろ、と私の顔を見た店主が返答する。

「あるよ、どんなのが良い?」

「地元に帰ったらいとこに渡したいんです。

 すこし上等な品がありますか?」

「ああ、ちょっと待ってな。」

あるんだ。何で王都に入ってこないんだろう。

店主が木箱を持って来た。

手袋をして5本ほど広げてくれる。

「売り物なんでな、触らないでくれ。」

「ちょっと眺めていいですか?」

「ああ、触らなければ見ていいよ。」

触る必要なんてない。見つめれば詳細が見えるんだ。

蛇の目柄のところは色を染めた様な形跡は無い。

多分本物だ。

5本中、3本はあまり汚れや傷は無いが、

2本はよく見るとすこし細かい羽根が切れている。

「3本買います。

 これとこれとこれ。

 包んでもらえます?」

「ああ。」

これで目的は済ませたが…

世間話でもした方が良いかな。

「ところで、東の方では扇子が入ってこないって噂が流れているんですが、

 何ででしょうね?

 ここでは普通に売ってるのに?」

店主が眉をぴくっと動かした。変な事を聞いたかな?

「馬車道が閉鎖されてるんだよ。

 一部が崩れているらしくて。

 領主様が騎士団と人夫を動かして埋め立ててるらしい。」

「そうですか。僕は山を回って南に帰るんですが、

 そっちは大丈夫ですか?」

「そっちは普通に物が流れてるよ。」

「そうですか、それは良かった。じゃあ、失礼します。」

「ああ、毎度あり。」

店主は見慣れない少年だったので、

イミテーションを売りつけてやろうかとも思ったが、

顔つきが綺麗な少年だったので金持ちの息子かもしれず、

ちゃんと買ってくれるかもしれないと思い本物を出したんだ。

買ったとたんに流通の話が出た事から、

ああ、こいつは他所の貴族の手下か何かで、調査に来たのか、

本物を売っといてよかった、と思って眉を動かしたんだ。


 さて、道路修復の進み具合でこの買った扇子の出番が無くなる。

一応確認しておきましょうか。

街から馬車用幹線道路の入口は騎士が立ち、立ち入りを禁止している。

山側に作ってあるんだ。

山沿いの集落に向かって歩くふりをして進み、

途中の木陰で道路より山側の適当な位置を見てジャンプする。

幹線道路を見て、そこから道なりに視線を移動する。

大きな石はなく、よく整備されている道路の様だ。

こんな山よりの場所に道路を作ったのは、

やはり南部への侵攻に利用する為に、より少ない距離で山を回る為だろう。

この道路を使って南部が逆襲してくる可能性もあるが、

その場合両側が山林のこの道路なら待ち伏せ攻撃がしやすいし、

農地・集落付近を進軍されるより生産力に対する被害が少ないと考えたんだろう。

長いワインディングロード上を視線を東に進めるが、

2マイル程進んだところで視界がボケてきた。

この辺りが限界か。

その付近の山林内を確認し、ジャンプ出来そうな場所を確認し、移動する。

そんな事を10回繰り返した。

時々見張りの人間がいるが、

修復が必要な箇所は道路にはなく、つまり修復をしている場所はなかった。

この日はここまで確認したところで時間切れになった。

 自在に高速で飛べるドローンが使えたら便利ですね。

そういうイメージからこんな話が出来た訳ではないのですが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ