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 事件のあった1ヶ月ほど後、

キャサリンの制服が替わった。

「え!どうしたのキャサリン!可愛いじゃない!」

「本当にどうしたの?」

キャサリンは少し照れながら答えた。

「その…実は家名が変わってね。」

貴族の令嬢は、普通は独自に仕上げた改造デザインの制服を着ていた。

どこかに家紋を入れるのだ。

これまでキャサリンは吊るしの制服に家紋のピンを付けていただけだった。

そんなキャサリンの制服が替わり、家名が変わったという。

周囲にいる者達の耳が大きくなった。

思わずシェリルもアイリーンもキャサリンの顔に顔を近づけた。

そうしてシェリルは声を顰めて尋ねた。

「養子に出たって事?どこの家の子になったの?」

「マーチ子爵。」

マーチ子爵家は、

中央山脈の南北を統一する前から王家に侍従・侍女を提供し続けた、

王家が最も信頼する家臣の一家である。

一方、そういう事で子女の教育に厳しい家とも知られていた。

「えっ、それ、大丈夫?」

「大丈夫だよ。お義母様は教育が終わると毎日、よく頑張りましたね、

 って抱きしめてくれるし、夕食後にお喋りもしてくれるし、

 お小遣いだって増えたんだから。」

周囲の者は言葉が無かった。

シェリルとて思う。

(普通、ママをお母様と呼び替える10才くらいにはもう

 お母様に抱きしめられるのは少し恥ずかしくなるのに…

 実母にはして貰えなかったんだね…)

アイリーンは別の事を想った。

(よく出来ました、ではなくよく頑張った、なんだね…

 お義母様も先生もキャサリンも相当大変だ…)

そして周囲の者は、

伯爵家の実子が子爵家の養子より小遣いが少ない事に衝撃を受けた。

そこまでキャサリンの扱いは酷かったのか…

そういう訳で、周囲の者は暫くキャサリンに優しく接した。


 一方、キャサリンの光魔法の調査と教育も進んだ。

教会対策で治療魔法を使えるというアピールが必要だったが、

キャサリンが光魔法を使える事は周囲に明かしていない為、

フードを被ったまま治療を行っていた。

治療魔法の腕は良かった。

何せ2マイル先を調査しようと細かい魔法制御を続けて来たんだ。

目の前の人間に対する魔法の制御くらいお手の物だった。

腕の良さも、フードで顔を隠している事も神秘性を感じさせ、

フードの聖女などと呼ばれる様になった。

…が、キャサリンの受け止め方は違った。

(あんた達、顔が半分隠れているから綺麗に見える、って言うんだね。

 せっかく治してやってるのに!)

と魔法院の裏庭の木を度々蹴りに行っていた。


 ほぼ1年の後、魔法院の聖魔法部から王に調査結果が報告された。

「キャサリン嬢の光魔法の力は国一番と思われます。

 発光魔法は人並みですが、光の反射などはあり得ない規模で行います。

 治療魔法も傑出しています。」

「それで、遠視魔法と移動魔法の調査は進んだか?」

「あまり進んでおりません。

 前代未聞の魔法ですし、

 自分以外の物体の移動が出来ない事から、

 限られた試験しか行えておりません。」

「その中で分かった事で良いから報告せよ。」

「はい。

 キャサリン嬢の光魔法は、作用点が異なる様です。

 普通の者は手の先から魔法を作用させますが、

 彼女は明らかに頭部、眼球あたりが作用点と思われます。

 その証拠に彼女は治療魔法の為に手を差し出しません。」 

「なるほど、普通の治療師は手を患部に近づけるものだな。」

「はい。

 他には、彼女の魔法干渉力の及ぶ距離が長い事も、

 作用点が頭部で体内の魔法経路が短い事により体内の減衰が少ないから、

 と推測されます。」

「他に気付いた事はないか?」

「これも推測となり申し訳ありませんが、

 視線照準で魔法の目標を決められる事も魔法の作用点が眼球付近と推測させる

 根拠です。

 その視線照準の先に魔法を転送出来る事から、

 …あくまで推測なのですが、

 視線照準の魔法と、普通の魔法の制御により目標を決める魔法では、

 成り立ちが違うのではないかと思われます。

 例えば魔法を介在するものが違う、等が考えられます。」

「普通は魔法を介在するのは魔法子と言われているが?」

「はい。

 視線照準で魔法を送信して魔法の制御距離を伸ばせるのは、

 視線照準は魔法子以外を介在させているからではないか、

 と考えるのです。

 それは多分、光子で、それ故魔法子と減衰の仕方が違うのではないか、

 と推測するのです。」

「なるほど、2マイルの壁の有無は魔法を介在するものが違うから、

 と言うのは一理あるな。」

「はい。

 但し、光子が魔法を介在するという話は聞いた事がありません。」

「その考えは人間が移動出来る事も説明出来るのか?」

「説明出来る、とまでは申しません。

 但し、質量を光情報に変換する事が出来れば、

 後は他の空間情報を送信する事、魔法を送信する事と同様に

 情報送信と復元で説明出来ると考えます。」

「おとぎ話では、瞬間移動というのは空間を切り裂いて移動すると言われているが。」

「その場合、

 3次元空間を亜空間または4次元以上の高次空間で加工する事になります。

 魔法子は3次元上に存在しますので、

 非3次元空間である亜空間および高次空間では作用しない筈です。」

「なるほど、3次元空間の生き物が、

 亜空間や高次空間の魔法介在物質を使えるというのは

 ルール違反に聞こえるな。」

「では光子が魔法を介在できるのか、と言えばそれも根拠がありませんし、

 あるいは彼女はいつも光子を介して魔法を使っているかもしれず、

 調査が進まずに誠に申し訳ありません。」

「良い。

 参考になった。ありがとう。」

「勿体ないお言葉です。」


 斯くして1年が過ぎた。

マーチ子爵夫人はキャサリンの教育が一区切りついた事を王に報告した。

野良猫が飼い猫のふりが出来る程度の進化だが。

そしてキャサリンの家名がまた変わった。

新しい義母はキャサリンに出会って最初にこう言った。

「最初のお義母様をまだ慕っているのは構いませんが、

 あたらしい母の事も同じくらい慕って貰わないといけませんよ。」

と言ってキャサリンを抱きしめた。

マーチ子爵夫人は

まだキャサリンが母の温もりを求める子供である事を教えていたんだ。

そして実母に温もりを与えられなかったこの娘を、

その穴埋め以上に愛してあげよう、とこの義母も思ったのだ。


 そして3年に進級して、キャサリンは1組に上がった。

クラスに入るキャサリンを見つけたエドガー王子がキャサリンに手招きした。

…この男のフェイクを入れたがる点は趣味が合わないが、

私を一番大切にしてくれる男だから、

多少の趣味には付き合ってやるか…

「久しぶりだね。

 せっかくだから皆の前で挨拶をしてくれないか。」

はいはい。

キャサリンは見事なカーテシーを決めて、こう言った。

「ロジャー・マウントローズの娘、キャサリンにございます。

 以後、お見知りおきをお願いします。」

マウントローズ公爵家は第3王子エドガーが婿入りする予定と噂される家だ。

その家には年頃の娘がいなかったから、

いずれ養女を迎えるだろうと噂されていたが、

その養女が明らかになった。

つまりエドガーは、この挨拶を通じてクラスに婚約者を発表した訳だ。


 エドガーはあの暗殺未遂の時、

王太子に及ばない第2王子フレドリックにすら自分が及ばない事を痛感した。

誰かの助けが必要だ。

…あの気まぐれでお人好しな女の子が助けてくれたら頑張れるのではないか、

と密かに思い、彼女を探した。

再会した彼女は思っていた通りの女の子だったから、

もう離さない、と決めていたんだ。

 キャサリンの物語にお付き合いして頂き、ありがとうございました。


・キャサリンの魔法について

 魔法子(魔素)を使う魔法がこの世界のデフォルトなので、

 魔法院の人の報告はあえてぼかしています。設定は以下の通りです。

 キャサリンの固有魔法は光データ通信魔法です。

 視線照準の監視魔法は、光データの目的地の情報を入手し

 データ化して送り返す魔法でした。

 その目的地に更に長距離の監視魔法を送るのが2段階魔法、

 術者本人の人体構成データを送るのが移動魔法です。

 質量保存?多分光エネルギー化して…殺人レーザーになりそうだけど、

 そこはハイファンタジーだから!

 前作の召喚門の構想から移動魔法を考えたのがキャサリンの魔法なんです。

 そういう訳で、タイトルの「光の速さで」は光速移動を意味しています。

 光速データで送信するのだから光速移動です。

 また、「逃げろ」は最終章でフレドリックから逃げ回る事を意味しています。 


・姮蛾について

 元は嫦娥(女ヘン)の伝説から…蛾(虫ヘン)と勘違いしてたんです。

 まあ、漢字が違うから別人なので、改変しても良いよね?

 という事でただの蛾の魔獣になりました。

 本来、寒い暗闇で羽化して人間を憎む闇の魔獣になる筈でしたが、

 凍える彼女を温めてくれた人間がいたので闇の魔獣にはなりませんでした。

 でも、こんな目に合わせた連中への恨みは忘れてないので…

 直接手を下すと彼女も闇に落ちてしまうので、

 情報を出して破滅させようとしました。女の恨みは怖いのよ。


・本作の執筆動機について

 本作を執筆する動機の一つが、

 前作が好評だった事で、前作の読者にサービスの意味で同様な雰囲気の作品を

 執筆しようと思ったんです。

 但し、前作は主人公が無双してたんで本作の主人公は攻撃力無しにしました。

 情報戦…にしてはおとぎ話レベルですが…も面白いかな、と思ったんです。

 もう一つ動機があって、

 前作でテンプレな悪役としてほとんど心情を書かなかった女の子の気持ちも

 書いてあげたかったんです。

 ただボーイ・ミーツ・ガールの話なので大分設定が前作と変わりましたが。

 前作は籠の鳥だから鳥かごの周りを突くしか出来なかった彼女に

 自由に飛ぶ羽根を与えたかった、というのが移動魔法を与えた理由です。

 後は、前作は自分の陰に追われる女の子の話だったので、

 家族関係が書けなかったから、

 今作は家族ネタを盛ってみたかった、というのも動機です。


 と言う事で、次回作はこれら2作と作風が変わって、

実験作として短めの中編になる予定です。

お気に召さない話になったらごめんなさい。


8/14追記

 注目度ランキングのお陰で本当に多くの方に読んで頂き、

ありがとうございました。

ポイントを入れていただいた方のおかげですが、

もちろん、更新中に毎日お読み頂いた方がいたから完結出来ました。

読んで頂いた皆様に感謝しております。

一つ謝罪があります。

ファントム=phantom

ですので王侯貴族の言葉遊びとしては失格でした。

不注意に単語を使ってしまい、申し訳ありません。

これだけの方に読んでもらっているので、修正は難しいかな…

あと、エディは不人気ですね。

キャサリンはエディが自分の能力を知りたがった理由が分かったので、

そこまで不快には思ってないんですが。

また、毎度助けてくれてることには感謝しているんです。

タイミングが気に入らないのも、

親しい人だから怒ってしまうだけなんです。

あと、キャラクター設定としてエディは前髪サラサラ金髪王子様なので

作者的にプラス判定なんです。

外観設定書いてなかった気がしますね、すいません。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 完結後のあとがきに対する一言な点 [一言] 気を許してて、だから怒るという設定で押し通したいのならば、ボーイミーツガール要素全面に出して、嫌いなのに気になる、嫌な事されるのに、嫌いにな…
[良い点] キャサリンが頑張ってて素敵。 第2王子の悪役っぷりと屑っぷりが、とても際立ってて素晴らしい。 ハラハラして、すかっとして、とても面白かったです。 [気になる点] エディとくっつけたこと。 …
[良い点] 面白くて一気読みしました。 キャサリンが頑張って色々切り抜けて、輝いていました。 [気になる点] エディの行動というか、対応。 かばう、助ける、のがおそい件。キャサリンの見せどころになる…
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