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湖西線から南へ


季節は少し前のこと。

真夏の頃、京都に行く機会があった。


用事は夕方に終わったので、夕飯くらい食べてから帰ろうと思っていたのだが、色々あって、ふと、琵琶湖を近くから見てみたくなった。

前々から一度、見てみたかったのだ。


ほかの地方のことは知らないが、関東人からしたら琵琶湖というのは日本一広い湖で、滋賀県にあるというくらいしか知らない。

あと、近くにひこにゃんの彦根城があるということくらいか。


東海道新幹線で南を通り過ぎる時でも、それらしい湖は見えたとしても、住宅地や野山のはるか向こうにチラッと見えるくらいで、あまり全貌が掴めない。

グーグルマップによると、湖を囲むように道路や線路が伸びていて、西側から北側にかけては比叡山や丹波高原が連なって、日本海側と滋賀県を隔てている。


この山や湖岸から見た琵琶湖はどんなだらう。夕陽の時間に見たら、きっと綺麗だろう。


そんなわけで、明日も明後日も休みという時だったので、前から気になっていたルートである湖西線をめぐり、ぐるっと琵琶湖の北から東に回って米原あたりに行き、ひこにゃんを見てからひかりで帰る、または、北上して日本海側の福井県に抜けるというのをしてみることにした。



さて、どちらにしよう。


福井県に関しては、ほぼ情報がない。恐竜とか、山寺とか、朝倉氏の城があった谷や、紫式部ゆかりの地ということが思い浮かぶ。

京都駅で路線図を見ると、特急サンダーバードが敦賀まで湖西線ルートで行くらしいことが分かった。


敦賀といえば、つい最近、北陸新幹線が伸びた駅だ。つまり、ここから金沢や富山を回って東京に帰ることもできるということだ。

それは面白いかもしれない。

でもきっとお金はかかるし、金沢や富山をただ通り過ぎるだけなんてもったいない。どうしようかな。


なんとなくアプリで乗り換え案内を調べていたら、ちょうど20分後にサンダーバード敦賀行きが出ることが分かった。

乗っちゃう……?

急いで○ゃらんさんで敦賀のビジネスホテルを調べてみれば、そこそこ空いている。


えいっ、とどちらも予約してしまった。

勢いで。


うちに電話を入れたら、いいんじゃない?とのこと。

家人が寛大でよかった。


そんなこんなで湖西線の旅が始まった。


わーい! 誰にも気兼ねなく、気ままに楽しむ時間が来た!





うっかりしていた。

いくら夏だからって、夏至の日みたいにはいかない。つまり、暗くなりゆく夜空を眺めながらの初サンダーバードである。

琵琶湖が見える頃には夜も更けて、湖が全然見えなかった。せっかく窓際の席にしたのに。


しかたないから仕事の書類作りを進めることにした…はずが、気づいたらパソコンを前に寝落ちしていて、無理はやめようと思った。それから終点までは、スマホしたりなろうのランキング作品を覗いたりして過ごしたのだが、なぜかそういう時には眠くならない。自分は天性の怠け者なんだろうか。



敦賀駅に降りた最初の感想は、空が広い、だった。

昔からある港町のはずだが、大阪みたいに栄えなかったのはどうしてだろう。


ホテルにチェックインして、さっそくフロントの方からいただいた飲食店マップ片手に夜の敦賀の街を散策してみた。


飲食店は大通り沿いにあり、少し裏道に入ればすぐに普通の住宅地に出た。それも一軒家ばかりの住宅地だった。道には街灯はあるが結構暗く、まだ8時なのに人がほとんど歩いていなかった。

新幹線が止まるからと言って、そんなに開発が進むというわけじゃないらしい。

これくらいの規模は住みやすくていいと思うが、ちょっと驚く。


名物は海鮮と越前そば、ソースカツ丼らしい。

夜遅かったので居酒屋しか開いてない。おひとりさまにそれは敷居も財布的にもお高いので、スーパーでお惣菜を買って戻り、ホテルでサービスで出している夜食ラーメンとともに食した。

温かいものをクーラーが効いた屋内で食べられるのはありがたかった。


翌朝、チェックアウトして、フロントで荷物を預かってもらう。


いざ、朝の町へ!

行くべき場所は、氣比神宮、気比の松原、鉄道資料館に、えーと、まあ、いろいろである。つまりは行き当たりばったりということである。


暑い、暑い。朝から溶けそうに蒸し暑い。直射の日差しが照りつける。

予定では朝の爽やかな時間を歩いて神社か松原まで行くつもりだったが、とても爽やかじゃないのでバス停まで戻って乗車した。快適である。


ネットによると、気比の松原というのは、日本三大松原のひとつらしい。残る二つは静岡の三保の松原、佐賀の虹の松原とのこと。

氣比神宮は、越前國一の宮とか北陸道の総鎮守とか書かれていた。


神社か松原か、どちらを先にするかで迷う。

朝の松原と静かな砂浜。いいね。

朝の神社と静かな境内。いいですね。


散々迷うが、神社を過ぎようとした時に、なんとなく直感がして、降車ボタンを押して降りてみた。





氣比神宮ができたのは飛鳥時代といわれる。バス停から近くに向かうと、江戸時代に建てられたという丹塗りの大鳥居が迎えてくれた。

くぐるときには一礼。


入ってすぐ左手には猿田彦神のお社があり、まっすぐ行けば左手に本殿、ご祭神は伊奢沙別命いざさわけのみこと、右手は松尾芭蕉の碑があるらしい。


猿田彦神は、道ひらきの神様である。今まさに、新しい道を行こうとしている(メタファー的な意味でも)自分に必要な神様であるので、自分史上最大級にピシッとした気分でお参りした。


どうか道を誤りませんように。

自分の動きで、誰かを傷つけることがありませんように。

みなが思い思いの通りによき到達地点に辿り着けますように。


まあ、そんな感じで。





参拝が終わり、いよいよ松原に向かう。

まだ朝と言っていい時間。

早起きは三文の徳とは、まさにそうである。

さて、歩いて行きますか!

…。暑い、暑い、とても無理。


というわけで、またまたバス(お金で解決)である。待つ間さえ、ただ立ってるだけなのに汗だくになった。夏ですねえ。


朝の道路は空いていて、人影も車もほとんどない。朝早いというわけでもないのに。地方は人がいないんだなと実感してしまう。

 

そうこうするうちに、涼む間もなく目的地に着いてしまう。

バスの窓から見えた交通標識が印象的だった。


──────────────

         ↑   

 ←敦賀原発  気比の松原 

──────────────


原発はさらに先らしい。

別に、用はないけど。





松原はバス停を降りたすぐ目の前だった。


同じバス停で降りたのは、単独で観光に来ていると思われる、たぶん韓国人の女の子おひとり。


なんとなく、互いの邪魔にならないように、松の写真など撮りながら車間距離ならぬ、人間距離をとって進む。

ちいちゃな松ぼっくりがたくさん落ちていたので、激写するうちに、そこそこ離れたので、両側に松原の道を、海岸に向かって進んだ。


途中、横道から地元のジョギングのおじいさんが現れて、おかげで小道の存在を知ることができた。

おじいさんは70代から80代くらい。

わたしの片方の血は確かこのあたりの出身なので、なんとなく親戚めいた近さを感じる。顔の骨格や、体型なんかに。


おじいさんは普通にさりげなく、わたしの横をさっと通り過ぎていった。

何事も、このくらいさりげないといいんだけど。



松原を歩く。まるで原生林みたい。

爽やかで、木陰が涼しくて、気持ちいい。

ときどき虫が飛んでいる。蝶も。


整えられた道は平坦で、とても歩きやすかった。整備してくださる方に感謝である。


十分くらいしたら、急に視界が開けて、松原の向こうに白砂の浜と、青い空と海、半島の緑が現れた。


遠くには釣り客、海水浴を楽しみに来た人たち。砂浜にはうみかもめが一羽、休んでいた。

白くてちょんとしていて、羽なんか動かしていて、とても癒される。

しばらく波の音を聴いて、ぼうっとしていた。





帰りのバスがいくら待ってもこないので、海沿いの道を歩いて、次の目的地に行くことにした。


暑いけど、もうすでに立ってるだけで汗だくなので、さらに汗だくになろうと大差はない。

むしろ、日陰を歩いている方が、日向のバス停よりはるかにましだと思う、

ここでもグーグルマップさん頼りだ。

マップ様様である。


途中、自販機があったので、アイスコーヒーを買った。

生き返る。


港の近くは、時間的に漁は終わったのか、休日だったからか、ちらほら歩いているおじちゃんがいるくらいで、車しか来ない。


お寺さんの近くが唯一、歩いている人をみた場所だった。時期的にもこれは多い方かもしれない。


年配のご夫婦がいた。

墓参りらしい。

すれ違う時に会釈されたので、わたしも返した。

もしかすると、遠縁かもしれないし。


ご夫婦…兄弟かもですが、駐車場に向かっていかれた。

わたしも住民なら、断然車だよねえと思う。

炎天下を歩くなんて、無理があるけど、まあ結構楽しめるからいいや。



鉄道資料館に着く。汗だくだ。

涼みに入ってみれば、こじんまりした木の建物内にいろいろ面白い展示があった。

冊子を買おうとしたら売り切れとのこと。

代わりにマンホールカードをもらった。

集めている友人に自慢しよう。





いろいろ他にも寄ってはみたが、あまりにくどくど書いてもしょうがないのでやめにする。疲れてきたし。


ひとりで旅をするのは、なかなか楽しい。

特に、日常的に気遣いをして、つねに人に譲ってばかりでなかなか思い通りに動けないことが続くと、たまにこうして自分を解放してあげる必要があるんだと思う。

ぱーっと。


敦賀はなかなか、良い街だった。

というわけで、終わり


タイトルに書いた、帰りの南下ルートまで行き着けなかったので、それはまた別の機会に。







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