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法善寺横丁から通天閣まで


大阪の御堂筋線に、なんばという駅がある。他にもいくつかの路線が乗り入れている大きな駅なので、関西の方なら説明はいらないと思う。


この駅から少し離れたところには道頓堀川があって、近くには飲食店街が広がっている。目抜き通りがあり、派手な大きな看板のお店があったり、ビリケンさんの金ピカのお像がニカニカっと笑っていたり、よく分からない何かが店の軒の上でワシワシと不思議な動きをしていたりするので、見ていて飽きない。


お店の多くは串カツ屋だったりたこ焼き屋だったり、いかにも大阪な食べ物屋さんで、とにかく大勢の観光客で賑わっている。そういう感じに活気のある町だが、そのお隣には法善寺横丁という通りがある。


名前からお察しの通り、お寺の門前町として栄えてきた、東京でいえば浅草みたいなところだが、こちらは建物の様子や町並みに風情が残っていて、京都の先斗町に似た趣きがある。




何年か前に、大阪駅に仕事で当時の上司さんにおともして行ったことがあった。

初大阪だった。


初日は梅田という大阪的に品のいい地区で、上司さんに串カツをご馳走していただいた。上司さんのセレクトに合わせて自分も十串のセットにした。

待つことしばし。

お店は有名なチェーンのお店らしく、そこかしこに名前を見かけたところだった。店内には、帰りがけにちょっと一杯、みたいなサラリーマンさんが多い。


しばらく待って、会話の話題も尽きる頃になってようやく、揚げたての串カツセットが運ばれてきた。うずらのたまごとか、おいもとか、ちょこちょこしていてかわいらしい。

食べてみると、さすが有名になるだけあって、カツはカリカリで、たれも何種類かあっておいしい。

が、しかし。

メニュー的には脂っこくて、どう考えてもビールが欲しくなるのだが、上司さんはお酒を呑まれない方なので、自分だけ呑むわけにはいかず。…………。


隣のテーブルのリーマンさんたちが、ワイシャツ姿でくーっと実においしそうにもこもこ白い泡の乗った黄金色のビールを呑んでいるのを眺めては、恨めしい気分を抱えながら、視線がそっちに向かうのを我慢するという、変な修行みたいな夕飯となった。



翌日はいよいよ、大事なお客さまとの打ち合わせだった。と言っても上司さんと先方の上層部の人たちとは昔からの知り合いらしく、打ち解けた感じでお話されている。


わたしは空気は読めるコミュ障なので、極力無言でにこにこしていた。きっと、頭の弱いかわいそうな人と思われたことだろうが、よけいなことを言うより、黙って資料をさし出した方がまだましだと思う。


そんな一日。打ち合わせはいったんお開きになり、上司さんと先方のみなさまは、後ほど合流して会食することになったらしい。自分は呼ばれてない。


なにげに、先方はヒラまで参加されるらしいので軽くショックだったが、まあ。自分は当時の出勤先の正社員じゃなかったから、ね。


ただ、いずれ出て行く人だから、と突き詰められた気分になり、寒くもないのにこころが冷える。上司さんはすまなそうにされていたから、いい人なんだろうと思った。


いえいえ、観光してますからどうぞお構いなく、とお伝えして、その場はお別れした。


まあ、でも。その会に出たらきっと気疲れでしんでしまいそうだし、またまたビールがおあずけっていうのはがっかりだし、間違いなく接待用の小洒落た店になるので、焼き立てあつあつのたこ焼きもお好み焼きも出ないだろうから、双方のために別行動が望ましいとは思った。物事には、いい面も悪い面もあるのだ。(たかが夕飯にそんな教訓はいらないか)



いざ、自由時間!

駅前にあった『るるぶFREE』を片手に、しばし熟考した。


通天閣、あべのハルカスと迷ったが、法善寺横丁なる場所がなんだか良さそうだったので、せっかくだから行ってみて、時間があれば他もまわることにした。



そんなわけで夕方6時、法善寺横丁に立つ。車なら一台しか通れないくらいの幅の通りがあって『法善寺横丁』の看板がかかっていたので写真を撮った。人が途切れることがなく、どうしても知らない観光客さんが写り込んでしまう。平日なのに!(コロナ前だったが)


しかたないので写真は諦めて、観光客に混ざって横丁歩きをする。


おひとりさまなんていやしない。なんだかむなしい。が、これで逃げ帰ったら負け犬なので、とりあえずどこか良さげなお好み焼き屋さんを探して、引き戸を開けてみた。


ガラガラガラっ


「いらっしゃーい」

「一人なんですけど、入れますか?」

「ご予約はいただいていますか?」

「あ、ないです」(無理かな…)

「カウンターなら空き次第ご案内できまーす!」


見ると先客が三組くらい店内に立って待っている。外国人のカップルが二組に、一見日本人に見えるけど髪型や顔立ちは韓国かもしれない男性ひとり。カウンターは八席くらいだが、空く気配なし。


「どれくらい待ちますか?」

「うーん、ちょっと。お客さんしだいなんで」


かなり待ちそうなので、あきらめて出た。しょぼーん。


結局、横丁を端から端まで見ていったが、良さげなお店はみな、行列しているか、ご予約でいっぱいか、鰻屋みたいにやたら高いかだったので、どこにも入らないで出てきてしまった。


もう新大阪の駅にあった串カツ屋にするか。でもなんだか敗北感が重くのしかかる気がして、せっかくここまで来たのに残念すぎる。

というわけで、二番目に惹かれた新世界というところまで行ってみることにした。




新世界というのは地名で、御堂筋線の動物園前という駅から歩いていける距離にある。

『るるぶFREE』によると、串カツ、たこ焼きの店が並ぶ、昔ながらの町らしい。


グーグルマップさんで行き方を調べていたところ、駅から新世界を通り抜けた先には通天閣があるということが分かった。

素晴らしい!どちらも見たかったところだったからちょうどいいじゃない。



動物園前駅は、なんばに比べて結構かなり空いていた。

駅を降りてしばらく普通の道を歩くと、高層ビルが見えたから、たぶんあれが噂のあべのハルカスだと思う。


さらに、確か交差点を渡ると、いよいよ新世界だ。ただ、名前に反して昭和レトロ感が漂う通りだと思った。

建物は平屋か二階建てで、食べ物屋に混ざって射的なんかで遊ばせてくれる店があったと思う。


食べ物屋はどこもそれほど混んでなくて、入ろうと思えば入れそうだった。内容としては、たこ焼き専門から、ビールを飲むための串カツ屋など。選び放題である。


ただ、お客はどちらかと言うと、呑みにきた地元のおっちゃんにニイサン、おねえちゃんといったところ。

なんとなく入りにくい。

観光客にやさしい、頼み方が分からなくても親切にしてくれて、おひとりさまを気遣ってくれそうなところはないものか。

でも、地元の人が見向きもしない、おいしくない店はイヤだ。

せっかくの、これで最後かもしれない食い倒れ体験を、いまいちで終わらせては残念だし。(←勝手なことばかり言ってるかもしれない)


そういうわけで、とりあえず一通り見てまわり、何軒かあたりをつけた。


そのうちの一軒目に入ってみた。

メニュー表によると、ごくふつうの、串カツとかおでん、カレーとかを出す店らしかった。

ただ、入ってはみたものの誰も案内の人がいない。

少し店内をうろうろしてみたが、強面のオジサマに、なんだこいつは、というようにじろっと見られてしまい、あわあわと退散してしまった。


ああ、わたしがもっとナイスバディの若い女だったら何か違っていたのだろうか?

それとも、堂々としていたらよかったのかな。

なかなか、たかがごはんを食べるのも難しい。


弱り気味な気分で他の店にも行ってみるが、なんとなくもうお店の扉を開ける気力がなくてスルーしてしまう。


最後の一軒もなくなり、帰るかー、と沈む気分を引きずりながら、せめて通天閣を一目みようとそちらに向かっていると、新世界の外れの端っこに一軒、屋台みたいな串カツ屋さんがあった。


なんとなくメニューを眺めながら横を通り過ぎようとしていると、お姉さんが一人、さっと入っていって、ビールとあと何かを注文した。


あっ、と思った。

おひとりさまに優しそう。


このタイミングを逃すと入る勇気がなくなりそうだったので、えいっと自分も入ってみた。


「すみません、入れますか?」


「もうすぐ閉店なんでー。

今でラストオーダーになりますが、それでもいいですか?」


やったー!

もちろんいいですよ!


まあ、そうやってなんとか入ることができたわけでした。



カウンターしかないそのお店は、メニューもいたってシンプルで、寿司屋みたいに100円はたまねぎ、いも、ピーマン、150円はウインナー、ゲソ、というふうになっていた。


お財布もそんな豊かじゃないので、腹持ちが良さそうなお芋やお野菜に、面白そうなウインナーを入れた四串と、念願のビール、ではなくて血迷ってレモンサワーを頼んでしまった。


先に入ったお姉さんのビールを見て、あれにすればよかったと後ほど後悔することになるが、注文したときはたくさん歩き回って汗だくだったから、少しさっぱりしたかったのだ。


待っていると、カウンターの内側でおじちゃんが揚げてくれて、ほいっとまとめて出してくれた。


ありがとうございます。(もしかして、おおきに、と言うべき?)


そんな葛藤しているとも知らずにおじちゃんは、たった四串というしけた注文をする私を心配してか、単なる営業かはわからないが、上目遣いぎみにこちらを見ると、「足りる?」と聞いてくださった。


ちいちゃな串四つじゃとても足りそうにないが(前日の串カツ屋さんよりひとまわりずつ小さかった)、さっきの店員さんはもうラストオーダーって言ってたし、なんか悪いしと思って、大丈夫です。と痩せ我慢した。

が、やっぱり足りない。

はあ、と内心ため息をついていると、その横を、お店のなじみ客みたいな人がふらっと入ってきて、新たに注文をし始めた。


え、いいの?

なら、私もお願いしたい。


そう思ってだめ元で店員さんに聞いてみると、OKだという。


なんだか不思議だが、とにかくありがたい。今度はいろいろ、タコとかイカとかも頼んでしまう。


待っているとまたおじちゃんが出してくれて、また「足りる?」と上目遣いで聞いてくれたから、さっき迷っていたウインナーに、締めのかぼちゃを追加でお願いした。


三回目もまた上目遣いで「足りる?」と聞かれた時は、ちょっと面白かった。


笑いそうになりながら、もう大丈夫ですというと「そう?」と残念そうな声で、だけどちっとも残念じゃなさそうにちらっと見られてしまった。


これって大阪的に、よくあるやりとりなの??

もしかして、あまりにもしょぼんとしていたから、からかわれたのかな…?

何かオモロイ返しをした方がよかったのか??


そんな疑問が残ったが、なんだかほっこりした気分になってお会計を済ませ(あえて値段は考えるまい)、すぐそばの通天閣をチラ見したら、来た道を戻って無事に駅に戻りましたとさ。


あのおじちゃんには元気でいて欲しいと思う。

いいところに行けて、よかった。








読み返してみると、法善寺横丁のことはたいして書かないで、新世界ばかりになってしまった。タイトル詐欺というやつかもしれない。

でもまあ。だって。

もしご興味がありましたら、ぜひご自分で行って確かめていただければ。


追記)新世界という所、どうやら夜遅くは治安が良くないらしいですね。自分は九時前には帰り、その時間までは何も問題ありませんでしたが。

夜遅くは、お店もしまってしまうかもしれないです。お気をつけて。


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