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御伽噺なんか要らない  作者: 朝倉メイ
Someday My Prince Will Come
2/2

シンディ・エラ

 子爵家の使用人達の朝は早い。 だが、そんな彼らよりも早く起きて活動を始める者がいる。

誰よりも早く起きて邸内の掃除を始める少女、それがこの家の娘のエラだ。

日課である朝の掃除を一通り終えたエラはエプロンを外し、鏡の前でくるりと一回りして身嗜(みだしな)みをチェックし終えると急いで食堂に向かう。


「おはようございます。 お継母様(かあさま)、お義姉様(ねえさま)

食堂の入り口でエラは席に着いている三人に対して優雅に一礼をして自分の席へと移動する。

「エラ、何時(いつ)まで使用人の真似事をしているの? いい加減にやめて頂戴」

「そうよ、まるでお母様が継子苛(ままこいじ)めしてるみたいじゃないの」

「最近では灰被りエラ(シンディ・エラ)なんて呼ばれているらしいわね。 変な格好で邸内を彷徨(うろつ)かないで欲しいわ」


 母娘おやこ三人の流れる様なお小言も馬耳東風、入り口に一番近い席に辿り着いたエラは引かれた椅子に音もなく着席すると給仕に目で合図をした。

エラの合図で朝食のサーブが開始され、継母が右手をグラスに添えると同時に一斉に食事を始める。

 食堂の一番奥にある当主の席は前子爵夫人(エラの母)が亡くなってからはずっと空席のままだった。


 無言で黙々と食事をするエラとは対照的に楽しそうに歓談しつつ食事をする三人だったが、話に気を取られた上の義姉(シャルロット)のフォークが皿に当たってカチャリ、と小さな音を立てた。 その瞬間エラはツイっと片眉を上げてゆっくりとシャルロットの手元に目を向ける。

エラの視線に気付いたシャルロットは顔を赤くし、カトラリーを両手に持ったままキッとエラを睨んで口を開く。

「な、何よ。 私は貴女と違ってマナーがなっていないって言いたいの?」


 義姉の抗議を受けたエラはカトラリーを皿の両縁に音を立てない様にそっと置き、咀嚼していた物を飲み込み終えてから申し訳なさそうに目を伏せ首を振って応える。

「いいえ、滅相も無いことで御座いますお義姉様。 手が滑るなど誰にでもあることです。 (わたくし)の態度が御不快でしたら申し訳ない事をいたしました」

そう言い終わり軽く頭を下げてから、何事も無かったかの様に食事を再開した。


 シャルロットはそんなエラの態度が気に入らなかったが、何と言い返せば良いのか思い付かず唇を噛んでカトラリーを持つ手にぎゅっと力を入れてエラを睨んだ。


「ま、まぁまぁ…っ 確かにっ、食器の音を立ててしまったシャルが悪いのだけどっ、エラの言い方も慇懃無礼よね。 お互いに気を付ける、と言う…こと、で―…」

不穏な空気を打ち消そうと下の義姉が精一杯明るく(おど)けた感じで話し始めたのだが、シャルロットとエラの両方から視線を受けて途中で口籠もり、最後まで言い切れず眼を泳がせてしまう。


「詰まらない争いはそこまでにして頂戴。 さっさと食事を終わらせてサロンに移動するわよ。 大切な話があるのだから」

子爵婦人の一声で食事は再開されたが、会話もなく雰囲気は最悪だ。


 (やが)て食事も終わり席を立とうとしたエラに継母が話しかける。

「エラもサロンに移動してね。 あぁ、貴女がお茶の用意をする必要はないわよ?」

「畏まりました。 お継母(かあ)様」

そう言って一礼するエラを子爵婦人は苦虫を噛み潰したような顔で見て溜め息を吐いた。

「本当に何時になったら私たちに打ち解けてくれるのかしらねぇ……」



グリム童話のシンデレラ(灰被り)は裕福な商人の娘で貴族ではありません

ペローのサンドリヨン(灰被り姫)は公爵令嬢です

間を取って裕福な下流貴族の令嬢としました


姉の名前はペローではジャボット(シャルロット)となっていますが、継母と下の継姉の名前は解りませんでした


すなぎもりこ様にご提案いただいた名前は版権に厳しいDなので今回は使用しませんでした

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