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呪いの館 ~宝くじで1等を当てた俺は、仕事をやめて田舎にある館にのんびりと暮らすことにする~

ここまで開いてくれてありがとうございます。少しでも面白いと思ってくれれば嬉しいです。

ジャンルホラーですがそんなに怖くないです。

※誤字チェックはしていますが、それでも誤字があった場合は誤字報告をして頂けるととても助かります。


俺の名前は北乃 滝(きたのたき)、歳は今年で33歳で既婚済み、3人の愛すべき娘達に恵まれている。あとはポメラニアンの《ココア》。


住んでいるところは都会の高層マンションで、俺の人生は俗に言う勝ち組だった。


なぜこんないい暮らしをしているのか?あぁ宝くじを当てたから、では無いぞ?


自分で言うのもあれだが、単純に俺が優秀な人間だからだ。


務めているIT関係の会社では、それなりのポジションに就いており、それなりの給料を貰っている。俺が勝ち組の理由はこれだけだ。


俺はこの生活に満足していた、もう少し働いて貯金を貯めたら仕事をやめてゆっくり暮らそうとも考えていた。


そんな生活をしているある日。


こんなに裕福な生活をしている俺は、成人したあたりからずっと、宝くじを買い続けていた。そりゃあ宝くじを買い続けている理由なんて夢を見たいから、それだけでいいだろう。


まぁ今更宝くじなんて買わなくても、もういいちゃいいのだが、長い間買っていたため、癖というか依存というか、とにかく買い続けていた。


そして、今日、俺は当ててしまったのだ。年末ジャンボ、7億円を。



「あ、あ、当たったぁぁぁぁぁぁ!!!」


何年ぶりか、こんなに叫んだのは。


「どうしたの?そんなに叫んで」


テレビの前に置いてあるソファで雄叫びをあげた俺に、後ろで洗濯物を畳んでいた妻である絵美(えみ)は少し不機嫌そうに俺の事を見る。


いかん、そういえば妻には俺が宝ぐじを買っていることは秘密にしていたんだった。


だが、当たってしまったからには隠すことはできない、それに当たったのなら許してくれるだろう……


「おとーさんどーしたの?そんなに叫んで」


別の部屋にいた娘達もぞろぞろと俺の元へと集まってきた。


一番歳下の、来年から小学生になる美波(みなみ)は俺の隣にちょこんと座り、俺の顔を不思議そうに見上げてくる。


「あ、あぁ、みんな驚かないで聞いてくれ、実は、年末ジャンボ、7億円が当たった」


「ななおくえん?」


妻は手に持っていた畳んだ洗濯物を落とした。


娘たちの中でも、一番年上の来年小3になる(さき)には、7億円がどれほどの巨額なのか、理解できたようだ。


咲は1番歳上ということもあり、娘達の中で1番大人びている。というか小学校2年生とは思えないほど真面目で優秀な子だ。


「な、7億円!?ほんとに!?」


「あぁ、ほんとだ」


「す、すごい、宝くじってほんとに当たるんだ……」


来年小2になる二番目の娘、愛花(あいか)はなぜ驚いているのか、理解出来ずにいた。


「ねぇなんでそんなに驚いてるの!?ななおくえん?ってアイス何個買えるの?」


「そうだな……えーっと350万個くらいかな」


「ほんとかしら……」


「350まん?よくわかんない」


あはは、あまりにも非現実過ぎて俺も実感が湧かないな。それにしても7億か、よし。


仕事やめるか。





今まで宝くじを買っていたことを、妻は簡単には許してくれないだろうと思っていたのだが、以外にもあーだこーだは言われず、すんなりと許してくれた。というか怒っている感じもしなかった。


どうやらいつも静かで冷静な妻も、今回ばかりは7億に興奮している様子だった。


「どこかのどかなところに引っ越したいわねー」


最初に、田舎に引っ越そうと言ったのは、妻だった。


どうやら妻は、俺には言っていなかったが、都会暮らしが嫌だったらしい。


まぁ確かに人は信じられないほど多いし、静かになることは無い喧騒な町だ。妻の性格を考えると嫌になるのも分かる気がする。


田舎に引っ越すなら、一番下の娘が小学生にあがるときにすると、妻と話し合い、娘達には反対される覚悟で話をしたが、妻に似て、すんなり受け入れた。どうやら娘達も都会暮らしが嫌だったと言う、俺はそんなに嫌いじゃないんだけどね。


さて、田舎と言ってもどこに住むか、どこというのは県とかいう話ではなく、マイホームを建てるのかそれともまたマンションに住むのか、そういう話である。



「私はおっきー家に住みたい!」


一番下の美波が住みたい家は、おっきい家らしい。


「おっきい家かー、それはつまりマイホームってことか?」


「うーん、この前テレビでやってた感じのやつ!」


この前テレビでやってたやつ、なんだそれは。


「あー、館特集のこと?」


二人のお姉ちゃんの咲が言うのならばそうなのだろう、え?館って?


「そうそれ!美波館に住みたい!」


「館かぁ、なかなかハードル高いな」


館って日本にあるのか?ゲームやアニメにはよく出てくるけど、実際に見たことないな。


まぁとりあえずみんなの意見聞こう。


「愛花は?住みたい家、何がいい?」


ソファの上で愛犬のココアと戯れている愛花は、うーんと唸ってから言う。


「私も館がいい」


「愛花も館がいいのか」


「あ、愛花ずるい!私もココアと遊ぶ!」


美波はテーブルから離れ、愛花が座っているソファの方へ行く。


「咲はどう?」


妻は隣に座っている咲に優しい声で聞く。


「私はここ以外なら別にどこでもいいよ」


そんなにここ嫌だったのか、このマンション、結構高い家賃するしいいところなんだけどな。


「ココアも、引っ越ししていいか?」


俺がそうココアの名前を言って聞いてみると。


「ワン!」


と返事をしてくれた。


「みんながいいなら館にするか……じゃあちょっと調べてくるよ」


「あ、お願いします」


俺は自室にあるパソコンを開き、その館というものを調べた。





次の年の春。


元の家から、新幹線に揺られること4時間、そこから普通列車に乗りさらに1時間、そしてタクシーに乗って20分。


そんな長旅をしてやっと新しい我が家に到着した。


全員が賛成した通り、新しい我が家は普通の家とは大きく違い、まるで映画の舞台に使われそうな大きな館になった。


パソコンで調べてみると、意外にも館は多く売られていた。


それこそ南は沖縄、北は北海道まで、だいたいの都道府県に売っていた。そもそも俺たちが引越しをするのは都会が嫌で、ゆっくり暮らしたいからだ。


俺はその中から、田舎過ぎず、近くに買い物ができる場所や学校などがある館を選んだ。


「わー!すごい!すごいすごい!」


「ワンワン!」


ゲージに入れていた愛犬のココアを出し、何度もそう連呼しながら美波はココアと館の周りを走り回る。


「あんま遠くに行くなよー」


「おっきー、これが私達の家!?」


愛花もこの家の大きさには驚く。


館は少しだけ山奥にあり、辺りには森が広がっている。都会ではこんなに自然にに触れることはなかった。


いやーそれにしても、改めて見ても立派な建物だな。


1度見学として来た時はあるのだが、それでもまたこの迫力に驚かされる。


「さて、じゃあ早速中に入ろうか、引っ越し業者に頼んだから荷物は全部中に入っているはずだ」


「こんなに広いと私たちどこかの貴族になった気分ね」


妻の言う通りだな、こんな大きな家、それこそ宝くじでも当てないと住めないぞ。



館は外観だけでなく、中も凄かった。


まず玄関から違う。一体何人が入る想定をして作ったのか、全く想像出来ないほど大きな玄関。中に入るとすぐに見えるのは何メートルも上にある天井に、キラキラと輝くシャンデリアが見える。


正面には2階に続く大きな階段があり、左右には長い廊下が続いている。


部屋数も多く、5人で住むには多すぎるほどだ。


だがまぁ、家族が満足しているので、後悔は無い。死ぬまで自分の好きなことでもして、もしくは新しい趣味でも見つけてのんびり暮らそう、それが俺の、大人になってからの夢なのだから。





館に住み始めてから1ヶ月。


娘達も新しい小学校に慣れ始め、俺はたかだか10年程だが、仕事の疲れを癒すため、毎日ぼーっとしている日々を過ごしていた


だが、さすがに運動のしなさすぎと妻に言われ、今日は散歩しようと思い、今は近くの森をハイキングしているところだ。


昼前に館を出たが、そろそろ17時になる、娘達ももう帰って来ているだろうし、暗くなる前に帰ろうと思っていたが、


俺のスマホに電話がかかってきた。


なんだ、絵美からかな?


「もしもし?」


「お父さん大変!お母さんが!」


電話越しに聞こえてきたのは必死に叫ぶ咲の声だった。


「どうした!?何かあったのか!?」


「お母さんが倒れてる!」


絵美が倒れている!?倒れているってどういうことだ?


「待て、今すぐ戻る、意識はあるのか?」


「さっきから名前呼んでるけど全然反応しないの!」


やばい、マジで早く帰らないと大変なことになる。


「咲、急いで救急車を呼んでくれ」


「救急車呼んだよ!もうすぐ来るって」


さすが咲、既に救急車を呼んでいるとは、まだ小学3年生なのに冷静に対応できている。


俺が急いで館へ向かっていると、途中救急車のサイレンの音が聞こえた。どうやら俺より先に救急車の方が到着しそうだ。


だが咲ならきっと大丈夫だろう、どういう状況なのか、しっかり説明出来るはずだ。


俺はもう急ぎで家に走った。



館に到着した時には、既に絵美を乗せた救急車はいなくなっていた。


俺の帰りを待っていたのか、玄関に救急隊員が何人かまだ残っていた。


ココアはいきなり何人もの人が来て驚いているのだろう、何度も吠えていた。


「おとーさん、おかーさんどうしたの……」


泣きそうになりながら美波は聞いてくる。


救急隊員の話によると、なぜ倒れたのかはまだ不明で、これから病院で検査をするらしい。そこで俺にも病院に来て欲しいということだ。


「分かりました、娘達を置いていく訳にも行かないので、一緒に連れて行っても大丈夫ですか?」


「もちろん大丈夫ですよ、では、支度が出来次第、春山病院に来てください」


春山病院、車で約10分のところにある、最寄りの小さな病院だ。


支度か、いつ帰られるか分からないし、一応色々持っていくか。


それにしても、突然絵美が倒れるなんて、今まで一度も無かったのに。急な環境の変化に疲れが溜まっていたのか?


はぁ、そんなことにも気づかなかった俺は、夫失格だな……


「咲、すぐに救急車を呼んでくれてありがとうな、もう少し遅かったら危なかったらしい」


まぁそんな弱気なことを言っていても仕方ない、今は優秀な活躍をした娘を褒めよう。


「当たり前のことをしただけだよ、それより早く病院にいこ」


「美波お腹空いた……」


「あぁ、もう5時か」


時刻は17時過ぎ、俺は腹の減りより妻の方が心配だったため、空腹感は無かったが、娘達はお腹が空いているらしく、病院に行く前にコンビニに寄り、夜ご飯となるものを買った。


情けないが俺は家事をほとんどできず、妻に任せっぱなしだった。今更後悔しても遅いが、もっと手伝っておけばよかったと思う。


コンビニを出て、俺は急いで病院へと向かった。


「お母さん、大丈夫かな……」


助手席に座っている愛花は心配そうに呟いた。


「大丈夫、きっと大丈夫だ」


少しでも安心させる為に言ったが、本当は俺だって冷静じゃないんだ。娘達にはそれを悟られないために、冷静なフリをしている。今娘達が頼れるのは、俺だけなのだから。


病院に到着して、受付に行くと、ある病診察室へと案内された。


「あー北乃さん、どうぞ座って、お嬢ちゃん達も」


なんとなくベテランのように見える50代くらいの医者が、その部屋にはいた。その正面には、パソコンやモニターが置いてあり、ひとつのモニターに恐らく脳であろうレントゲン写真が写っている。


まさか、倒れたのは疲労とかではなく、脳に異常があったのか?


「あの先生、妻は……大丈夫でしょうか……」


「旦那さん、お気持ちは分かりますが、落ち着いて聞いてください」


おいおい、そんな言い方はしないでくれ、それじゃあまるで────妻が亡くなったみたいじゃないか。


「奥さんは、今、“意識不明の重体“です。診察した結果、“てんかん“という病気が発症していることが分かりました」


てんかん……?てんかんって確か乳幼児や高齢者に多く発症する病気じゃなかったか。それに妻が……


「残念ながらてんかんを病院で手術することはできないので、こことは別の市立病院で手術することになります」


その後も医者は淡々と病気の事やこれからの事などを説明をしていたが、正直、全く頭に入ってこなかった。


あらかたの話が終わった後、俺は医者に聞いた。


「その、てんかんはどれくらいで治る病気なんですか」


妻がいないとなると、ろくに家事が出来ない俺だけで、娘3人を育てていかなければならない。


金があっても困ることはあるんだな、なんてしょうもないことを学んだ。


「そうですね、てんかんの治療には2年から5年はかかりますね……」


は────。2年、から、5年?そんなにかかるのか……あー、今日から家事できるようにならないとダメだな。


────────と、1ヶ月前は思っていた。





「信じられない!まるで初めてからかかっていなかった様にあとかたもなく治っている!」


突然病院に呼び出され、何かと思って急いで来てみると、そこには妻が元気そうに立っていた。


医者曰く、なんと、てんかんが治ったという。なんの前触れも無く、突然。それこそ奇跡のように。


医者達は何が起きたのか理解できなかったという。


俺も理解できない、やっと家事に慣れてきたとこだったが、妻が戻ってくるなら一番いい。


俺は妻を抱きしめる。


「よかった、本当によかった」


「ごめんなさい、心配かけて」


「いいんだ、俺の方こそ、君に全部を任せてごめん」


「何よそれ?そんなこと謝る必要無いわよ、今は違うけど、前まではあなたは私達のために、お仕事頑張ってくれてたじゃない」


あぁ、確かにそうだな、仕事をしていた時の俺は、毎日毎日、仕事尽くめの毎日だった。


「じゃあ、家に帰ろうか」


いきなりてんかんを発症し、いきなり治る。まるで何が起きたのか分からなかったが、妻が無事ならなんでもいい。本当によかった、今はそれしか考えることができなかった。





「あなたも随分料理が出来ようになってきたわね」


妻が退院してから早1ヶ月が経過した。妻が入院中、家事のやり方を必死で覚えた俺は、あらかたの家事はできるようになっていた。


今まで全くやってこなかった料理も、案外やってみると楽しく、最近はよく妻と一緒に料理をしている。


ただひとつ、一般的な家に比べておかしなことがある。それはキッチンの大きさだ。


キッチンの大きさだけで前に住んでいたマンションのリビングより大きいのだ。それこそレストランの厨房のような見た目である。


こんなに広くても使っているスペースはほんのわすがで、なかなかにおかしな絵面になっているだろう。


今は今日の夕食を作っており、子供達は遊んでいる。


なんせこんなにバカ広いんだから、かくれんぼでも鬼ごっこでも大体の遊びはなんでも出来る。


「あーそうやって切った方がいいのか」


「そうそう、にんじんとかはこの方がいいよ」


なんて、いつもと通りに料理をしていたその時。


ドン、と、キッチンの外から誰かが階段から落ちたような音がした。


「なんだ?今の音」


「さぁ?なにかしら」


と、俺が言った瞬間、今度は愛花の叫び声が聞こえてきた。


「おかーさん!美波が階段から落ちた!」


美波が階段から落ちた、刹那でその意味を理解した俺は、無意識に音した方へ走っていた。


キッチンから出て玄関の方向にある階段下に、美波が倒れていた。


「美波!」


あぁクソ!またか、また家族が傷ついた。


「美波!美波!」


美波は頭から血を流し、俺や妻がいくら名前を呼んでもなんの反応も示さなかった。


俺は急いで救急車を呼んだ。ついこの間見たばかりの救急隊員がやって来た。


やってきた救急隊員は、手際よく娘を運び出し、サイレンを鳴らして元来た道を引き返して行った。


「愛花、美波は階段から落ちたのか?」


「うん、3人で鬼ごっこしてたんだけど、その時美波が階段から足滑らせて……」


話している途中、愛花は涙を流した。


「ごめんなさい、私が鬼ごっこしようなんて言ったから……」


妹をあんなことにさせたと、大きく責任を感じているのだろう。


「いいや、愛花は悪くないよ、気にしなくていい」


そう、これは事故だ。なんでもないただの事故。それ以下でも、それ以上でもない。


その後は1ヶ月前と同じように、俺は春山病院へと向かった。





それからの話をしよう。


美波について病院で聞かされた事は、まず、階段から落ちたことにより、足を骨折したこと、そして、意識が無い事だった。


やはり家族の意識が無いなんて言われると何度聞いても心臓が痛くなる。妻はそれを聞いた時泣いていた。


それを聞かされた日から2日後、美波は意識を取り戻し、さらに1ヶ月後、折れた足も治り、病院から退院した。


そして現在、俺は自分の書斎である事を調べていた。


それは、この館のことである。


自分でもバカなことをしている自覚はある。だが、やはり考えてしまうのだ。この館はもしかして、“普通の館“では無いのかもしれないと。


つまり、ゲームでよくある元の居住者が惨殺されたとか、何か大きな秘密があるとかだ。


だが、どれだけ調べてもこの館、この地で凶悪事件があったなんて情報は無かった。


この館自体、作られたのはまだ20年ほどしかたっておらず、前の居住者については不明である。


やっぱりそ事件などは無いか……というかこの地に関する情報がほとんどない。地元の人に聞いた方が良さそうだな……


ネットにはほとんど情報が無かったため、俺は地元に住んでいる人に話を聞くことにした。



市役所や近所の家、近くにある神社にも話を聞きに行ったが、1人だけ、不可解なことを言った家以外でこの館について知っている人はいなかった。


「あーあの館に引っ越してきた人か、あんた、あの館に住み始めてから、何か見たか?」


70代くらいに見えるおじいさんは、黄ばんだ歯を見せながら意味深にそんなことを聞いてきた。


何かを見たか、一体何の話かと思って聞くと。


「いやぁ俺も詳しいことはしらんがなぁ、巷ではあの館は、《呪いの館》なんて言われているらしいぞ」


何が巷だ、俺は今まで一度も呪いの館なんて聞いた時がなかったので、このおじいさんはボケているか、適当なことを言っているとその時は思った。


…………だが、やっぱりこの館はおかしい、妻が病院にかかったり、娘が骨折したり、そして今日────愛花が行方不明になった。


近くの森で遊んでいた娘達だったが、いつの間にか愛花がいなくなっていたという。


「警察には連絡したわ、すぐに駆けつけるって」


「そうか……」


愛花……無事でいてくれよ。


「それにしても、この館に来てから、何かおかしくない?不運なことばかり起こっている」


「お父さん、やっぱりこの館にはお化けがいるんだよ!」


妻や美波は怯えるようにそう言う。


「あぁ、俺も思っていた、この館は普通じゃない。不幸になる、呪いの館だ」


これ以上家族に何か起こるのはもう耐えられない。


「引っ越しも考えた方がいいか……」


こんな理由で引越しなんてしたくないが、明らかにこの館に住み始めてからおかしいのだ、このまま住み続け、もっと酷いことが起こってからでは遅いのだ。考えておいて悪いことはないだろう。





「あ、あい、か?」


愛花が行方不明になってから2日後。


太陽が出てきた6時過ぎ、愛花が行方不明になってから俺はぐっすり眠ることが出来ず、今日も朝早く起きてしまったので、何となく館の周りを歩いていたのだが。


草むらに、愛花が倒れていた。


「愛花!愛花!」


俺は必死に愛花の名前を呼んだ。すると。


「ん、あ、おとーさん、あれ、私、なにして──」


────っ!よかった!無事で!


俺の叫び声を聞いてか、妻や娘達が俺の元へと駆けつけてきた。


「あぁ!愛花!よかった!」


「あいかー!うあぁぁよかったぁぁ!」


美波は涙を流しながら大切なお姉ちゃんの元へと向かってきた。


その後、俺達は家族全員で抱き合った。家族というパズルに、愛花というピースが無かった時間を埋めるかのように、何分も、何分も。


これではっきりした、引っ越ししよう。急に行方不明になって急に見つかる、そんなこと偶然じゃない、なにか他の力が働いているとしか思えない。





「それじゃあお父さんとお母さんからみんなに話したいことがあるんだけど」


愛花が行方不明になってから2週間後、あれからこれといった事件は起こっていないが、やはり俺と妻の話し合いの結果、この館から引っ越そうと言う話になった。


今はそれを娘達に伝えるところだ。


テーブルを挟んで置いてあるソファに向かい合って俺達は座った。


「俺と絵美は、この館から、引っ越したいと思っているんだ、みんなどう思う?」


「美波は別にいいよ、もう怖い思いはしたくないから」


「引っ越すってどこに?まさかまた遠いとこいくの?」


そう聞くのは咲だ。


「いや、さすがにまた小学校を転校させるのはあれだから、この館以外で小学校に通えるところにするつもりだ」


つまりこの地域から去るのではなく、この家から去るという引っ越しになる。


「それなら私はいいよ、小学校転校するなら嫌だけど」


俺の説明を聞いて引っ越しに賛同したのは愛花だ。


「咲はどうだ?引越ししてもいいか?」


「私は……私は別、に────」


と、言っている途中に咲は俯いて声を消す。


「別に?大丈夫か?」


俺がそう聞いても咲は俯いて黙り込んでいる。


咲?


と、俺が不思議に思ったその時、咲は急に立ち上がり部屋から出て行った。


「おい咲?どうしたんだ?」


「さぁ、どうしたのかしら……もしかしてまだ迷っているのかも知れないわ」


迷っているから、よく考えるために部屋から出て行ったのか?うーん、わざわざ出ていく必要は無いと思うが。


「ちょっと俺、咲の事見てくるわ」


「あ、わかったわ」


廊下に出ると、なぜがキッチンの方から音がした。


キッチンにいる?お腹でも空いているのか?


今は20時過ぎ、夕食を食べたのは18時頃だが……


とりあえず行ってみるか。


窓しかない真っ白な壁紙で出来ている廊下を歩き、キッチンの入口まで来た。


「おーい、咲?何してるんだ?」


俺はそう言い、キッチンの扉を開けた。そこには。


────包丁を手に持った咲が立っていた。


「さ、咲、なぜそんなに物を持っている……」


「…………」


咲は何も話さない。


理解できなかった。今まであんなに真面目でいい子だった咲が、なぜ急にそんな物騒なものを持って俺の前に立っているんだ。


「咲、とりあえずそれを置きなさい。危ないぞ」


と、俺が言った途端、咲は子供とは思えない速度で俺の元へと走ってきた。


俺は間一髪、それを避けた。


咲は扉に当たり、扉にはナイフが刺さった。


「咲!どうしたんだ!いや、お前は、誰だ」


今目の前にいるのは咲じゃない、俺だって一応父親だ。今まで咲のことをずっと見続けてきた。だから分かる、今目の前にいるのは、咲じゃない。


咲、では無い何かは、扉に刺さったナイフを外し、もう一度構える。


その目は正気も殺気も何も感じない、死人の目だった。


再度咲は、猛スピードで俺の方へと走ってくる。


俺はそれから逃げる。ステンレス製の作業机を乗り越え、盾になりそうなフライパンを手に取る。


咲は作業机の上を走り、俺の元へ最短距離で迫ってくる。


「やめろ!どうしてこんなことする!お前はなんなんだ!」


俺は必死に叫ぶ、だが、やはりなんの反応も無い。ただ黙って、俺を殺すようにプログラムされたロボットのように、俺を殺そうとしてくる。


「うおっ!」


俺の元へと来た咲は、作業机の上から思いっきり包丁を振り下ろした。


俺はそれをフライパンでガードする。


バン!と、大きな音が鳴る。


なんと、包丁がフライパンを貫通していた。


そんなことありえるか!怪力とかじゃない、何か、もっと未知の力が働いていないとこんなことは出来ない。


次に何をするのかと思うと、なんと咲は包丁を上に上げ、フライパンを切り裂いた。


そしてまた、包丁を持ち直し、俺を狙う。


あークソ!なんなんだよこれ!夢か?夢なのか!?館に来てからおかしなことばかりだ、俺は長い夢でも見ているのか!?


「お前は何がしたい、俺達がここに引っ越してきたのが悪かったんだろ!?もうここを去るからこんなことはやめてくれ!」


俺がそう叫ぶと、咲は動揺したのか、一瞬フリーズする。


その僅かな隙に、俺は咲から距離を取り、入口の方へと向かう。


だが、その隙は一瞬で、また咲は動き出す。


全力で走っているため、後ろの様子は分からないが、間違いなく咲は俺を殺そうと迫ってきている。


ここから出ることさえ出来れば、ここに咲を閉じ込めて、警察を呼べる……でも警察を呼んでどうすんだ、こんな化け物、いや、そんなことは今はどうでもいいとにかく今ここから逃げなくては。


だが、扉まで後少しのところで、扉は開いた。


そう、妻が入ってきた。


「あなた?どうしたの?」


「バカ!今入ってくるな!」


俺の真後ろまで咲は来ている、このままじゃ妻は刺される。


ああクソ!どうすればいい!これ以上家族が傷つくのは耐えられない……


────くっ、すまない、絵美、そもそもの発端は、俺が宝くじなんて当てたからだ。


俺は咲の方に振り向く。


「あなた!?咲!?一体なにがっ!」


咲は包丁を構え、俺の元へと向かってくる。


絵美を守るためなら死ぬ気で守る。俺が咲を止める、それしか絵美を助ける方法は無い!


────────『あの館は、《呪いの館》なんて言われているらしいぞ』


刺される直前に、いつだか聞いたそんな言葉を今思い出す。


そうか、やっぱりこの館は《呪いの館》だったんだ。


それを考えたのが最後。自分の腹が熱くなっていくことを感じながら、俺の意識は暗黒に落ちていった。





ピ、ピ、ピ、と、一定のリズムで音を鳴らす電子音で、俺は目を覚ました。


「ん……ここは……」


「あなた!よかった!」


「え、み?」


あれ俺は何して……あぁ、そうだ。刺されたのか。


「一時はどうなるかと思ったのよ!本当によかった」


どうやら俺は咲、と言いたくないが、咲に刺され、2日間意識を失ってたらしい。


「……お父さん、ごめんなさい」


泣きそうな咲の声が聞こえてきた方向を見ると、そこには俺の娘の咲が立っていた。


「咲、なぜ謝る、俺は全く怒っていないよ」


そう、咲が俺に謝罪する必要なんて無い。


あの時、俺を刺したのは咲じゃないなにかだ。そしてそうなったのは俺の責任でもある。だから咲が謝る必要は無い。


「いや、私っ、お父さんを殺そうとしたんだよっ!謝って許されることじゃ──」


「違う、あの時、俺を殺そうとしたのは咲じゃない、だから気にするな」


俺は咲を抱きしめた。


咲は涙を流す。


「咲、引っ越そう、あの館は呪いの館だ」


「うんっ、もう、あんな家帰りたくない」


「えぇ、もう、あんな家には一生行かないわ」


こうして、俺達は家族は館に来て早4ヶ月で、引越しすることになった。





「これで、この館からおさらばできるな」


3日後、引っ越しの準備を全て終えた俺と妻は、館の玄関から少し歩いたところに立ち、館を見ていた。


後ろの車には既に娘達が乗っている。


「えぇ、まさか本当にこんなことが起きる館があるなんて……アニメやゲームじゃないのに」


あぁ本当にそう思う。住んだら家族に不幸が訪れる、館が舞台のゲームなら、過去にそれが原因で家族が亡くなったというあるあるの設定だ。


だが、俺達は誰も亡くなってなんかいない、それが唯一の救いだった。


結構この館がなんだったのかは分からないが、もうどうでもいい、一生ここに戻ってくることはないのだから。


「んじゃ、行くか」


「そうね、早く新しい家でゆっくりしたいわ」


新しい家はここから車で40分程で、ここより少し発展している街にある。


「そうだな……」


妻は先に車に戻るが、俺はまだ館を見ていた。なぜか?


自分でも分からない。だが、何かを忘れている気がする……それが何かは分からないが……なんだ、何が気がかりなんだ?


「…………はぁ、まぁいいや、じゃあな、呪いの館。雷に撃たれて燃えちまえ」


俺はそう言い放ち、妻と娘が乗っている車へと向かって歩いた。





館から引っ越しをして2週間。新しい家に来てから、これといった問題は何も起こっておらず、家族は至って平和であった。


家族の話でもあの館の話題は上がらず、みんなあの館の事は忘れようと必死なのだろう。俺もそうだが。


だが、あんなことがあってもあの館で俺達は4ヶ月暮らしたのだ、少し、懐かしいと思い、妻に少し話をしようと思った。


「あの館、今は誰か住んでいるのかな、不動産屋さんに呪いの館だって言っといた方がよかったかもな」


なんて冗談を言ってみるが、


「あの館?なんの事?」


妻も冗談を言っているのか知らないフリをする。


「あはは、そうか、すまん、やっぱ忘れた方がいいよな」


「あなた?────────さっきからなんの話をしているの?」


「え」


その妻の表情は、本当に俺が何を言っているのか理解出来ていない表情だった。


俺は慌てて娘達にも同じことを言う、だが。


「おとーさんなんのはなし?」


「館?そんなの知らないの?」


「お父さん、もう酔っ払ってるの?」


誰も、館のことを覚えていなかった。


「あなた、大丈夫?引っ越しでバタバタしてたから疲れているんじゃない?館なんて、私たちは()()()()()()()


────────館なんて行ってない……


────────────────────


あれ、俺は────────


「何を言っているんだ?」

ここまで読んでいただきありがとうございました。評価やブックマークは小説を書く大きなモチベーションになります。可能な方はぜひよろしくお願いします。


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