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入り口のそばにいるスパイ  作者: 西松清一郎
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「人身売買の疑いで、男二人を逮捕」


 検索サイトのトップページでこのような見出しを見たのは、バーを最後に出た翌日の朝であった。


「お前、流れ弾に当たらなくて、本当に運が良かったな」友人が洗ったばかりの髪を拭きながら、自室に戻ってきた。床に座ったままの私は、携帯から顔を上げた。


「テレビでもニュースでやってるよ」私は言った。あれから時間が経ち、心は随分落ち着いていた。

 友人はテレビをつけ、タオルを肩にかけたままベッドに腰かけた。ニュース速報で公開された二人の逮捕者は、バーの奥にいた二人組に違いなかった。報道によると、ラオスやタイで子供をさらい、国境近くで売りさばく人身売買集団の一味であった。


 ニュースには続きがあり、次の事柄も補足として付け加えられた。


「事件現場の飲食店の店員は撃たれて重体。警察は回復を待って事情を訊く方針」


「バーの女主人は撃たれたのか?」友人がテレビに問いかけるように言った。

「違うよ」私は持っていた携帯を床に置いた。「後で警察と一緒に現場に行って、見ただろ。撃たれたのは、俺らがスパイだと言ってたあの男さ」


 友人はさらなる説明を求めて、私に顔を向けた。私は質問が出る前に口を開いた。「俺がバーに入って、お前に『適当』なメッセージを送っただろ。たしか、こんなんだったな。『今からする通話を録音しておけ』って。そして俺は、お前との通話を切らないまま、携帯をバーの席に置いておいた。もちろん、奥の二人の会話を録音するためだよ。録音したデータを警察が解析すれば、奴らの会話を復元することなんて朝飯前だろう。俺は奥の男二人を見た瞬間、犯罪の匂いを嗅ぎとった。録音データは犯罪の確固たる証拠になる、と思ったんだ。だけど、俺が帰ったあと、あの女主人が二人に携帯を見せたのか、俺の計画は勘づかれたんだろうな。携帯を取り返すのは一か八かだったけど、やるしかなかった。俺が店に戻って、携帯を取り戻してからすぐに逃げようとしたら、連中に捕まりそうになった」


「そこをお前はうまく逃げ出して来た」

「そう。店の外に控えていた例の男は、俺を撃とうした。俺はそいつの脇も、飼育小屋のうさぎよろしくすり抜けて、お前のところへ必死で戻った。そして繫華街の交番に駆け込み、連中を確保するよう要請した。奴らの会話データも持ち込んだ上でね。万が一監禁でもされたら、外で待っているお前に警察を呼んでもらおうと思っていた」


「あの店の前にいた男は、あの二人の男を撃とうとしたんじゃなかったのか」

「違う。あいつは俺を撃とうとした。だけど失敗して、逆に懲罰としてあの二人の男に撃たれた。あいつはスパイじゃなくて店のバウンサー、つまり用心棒だった。俺は、あいつが俺の方に銃を向けたと気づくまで、あいつをまだ犯人を見張るスパイだと勘違いしてたがね」


 言葉を切り友人に視線を送ると、彼の物思いにふける顔をうかがえた。

「バーに入ったときから、お前は犯人逮捕の計画を練っていたんだな」

「あのバーの入り口のそば(・・・・・・)に座っていたとき思いついただけさ。たまたま、ね」


 友人は深いため息をついた。「まったく、お前は大したスパイだよ」

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