大体1人はツンデレヒロイン
さあてさあて! はじまったぞ! ぜろちゃんの戦闘シーンが!!
って言っても、この前のマーメイドガールとの戦闘を思い出してみると、結局オレはいちごちゃんの手を借りてなんとかしてもらうしかなかったわけで。
時間停止なしでの戦い方、そんなもの、やったことない。そもそも、通常攻撃って皆どうしてるんだろ?
「出でよ! 名刀『桜河坂』!!」
とりあえず、ぜろちゃん愛用の最強剣『桜河坂』をこの手に顕現させる。
まあ、はたからみたら急にオレの手に漆黒の大剣が出現しているように見えているのかもしれないが、実際はオレが時間停止を使って『桜河坂』の保管場所まで猛ダッシュ。『桜河坂』を確保したら即現場に戻って来て、息を整えて万全な状態になった上で時間停止を解除し、あたかも何もない場からめちゃくちゃかっこいい暗黒剣を出現させたように見せたのだ。
え、そこまでして取りに行ってるくらいだから、『桜河坂』はそれはそれは素晴らしい剣なんだろうなって?
………ぶっちゃけ、『桜河坂』はそんな強くはない。まあ、魔法少女の武器ではあるから、魔獣特攻が多少なりとも付いてはいるはずだけど、ぶっちゃけ対魔法少女戦においてその効力を発揮するわけじゃない。
それに、実際は時間停止中にボコスカ殴ってダメージ蓄積させて、解除した時に累積されたダメージで攻撃して、あたかも『桜河坂』の一発一発の攻撃が凄まじいかのように見せてるだけだし。
「ぜろちゃん、手を貸す。一緒に協力しよ!」
「悪いないちごちゃん。手出しは無用だ。ここいらでこのぜろちゃん様の実力を見せておきたいしな!」
「…いけるの?」
「余裕すぎて赤ちゃんになっちゃうくらいには余裕!」
「……?」
いちごちゃんが協力しようと言ってくれるが、オレはオレ個人でどこまでやれるのか、どう戦えば良いのか、それを試したいのだ。だからこそ、いちごちゃんには今回介入しないでもらうことにした。
まあ、山桜花蓮ちゃんはそんな悪い子じゃなさそうだし、そこまで痛い目には合わないだろう。マーメイドガールはマジで容赦しなさそうだから、あいつがまた襲って来たらいちごちゃんヘルピング案件かもしれないけど。
「流石に何度も逃げられてるからね。今度こそ逃しはしないわ! 手加減なんて出来ないから、怪我させちゃったりしたらごめんね!!」
ちょーーーっとまってね?
花蓮ちゃん、なんか凄い本気じゃないか? 今までと熱量が全然違うんですけど、普通に怖くなって来たんですが??
いや、違うだろ!! ぜろちゃんは最強だぞ!! 誰がお前なんかに負けるもんか!!
(いちごちゃん……やっぱやばくなったら助けて。いや、その、さ、ほら、あるじゃん? 別に怖いとかじゃなくてさ、ほら、体力温存したい時とかもあるし……)
(………なんとなく、ぜろちゃんのことわかって来た気がする……。うん、いいよ、危なくなったら手を貸すね)
よし、保険はかけ終わった!
いや、保険だよ? 決してビビってるとかではなくてですね、まあ、オレは今は1人じゃないし? 場合によってはにこちゃんとか守らなきゃだし? そりゃあねえ、リスクケアとしていちごちゃんを頼ることもありますよねー。
ていうか~。オレが山桜花蓮ちゃんと接敵してる時って大抵西條吹雪もどこからともなくやってくることが多いし〜、まあ? 仮にも最強の魔法少女とか謳われてる西條吹雪が出て来たら流石のぜろちゃんも戦闘続行不可能だし? そのカバーをいちごちゃんに要求するくらい許されて良いじゃんねー。なんて。
「悪いけど、もう包囲させてもらってるわ。今度こそ、私が保護してあげる!!」
……って……。
「もう逃がさないですよ、茶柱抹茶さん」
「へーこいつが噂の……。さてさて、西條吹雪の手から逃れたとかいうその実力はどおれほどのもんかね」
「やあやあクズクソアマ。テメーがあんまりにも逃げやがるもんですから、他の魔法少女に協力要請して来ちゃった。これだけの人数相手にして、逃げられるかな〜?」
「さてさて、この策が吉と出るか、凶と出るか。いずれにせよ、西條吹雪がここに来る前に、短期決戦で終わらせるとしましょう」
どうやら、ぜろちゃんに求愛してくれるのは花蓮ちゃんだけじゃないらしい。
視診 美鈴と海賊ガールとマーメイドガールは既知だが、初めましての、好戦的な笑みを浮かべた割と地元でブイブイ言わせてんだぜ系のアネさんもいる。
美鈴ちゃんは多分そこまで戦闘特化な子じゃなかったはずだが、アネさんは未知数、海賊ガールもぶん殴った記憶しかないから魔法については全く知らない。
てか1番やべーのはマーメイドガールなんだよなぁ。一回追い払ったと思ったら、お仲間連れて参戦ってさぁ。あいつの『無効詠唱』があるんじゃ、オレの時間停止は意味をなさない。そりゃ、お仲間さんも魔法を扱えなくはなるだろうが、あくまで『固有魔法』に限られるし、人数じゃこっちが不利。うわ、やべーなこれ。
「やっほー! 深海魔策所属の魔法少女オクト⭐︎パシーだよー! キミも私の魅力に溺れちゃいな!」
「くふっ、ひひっ……捕まえたら、好きにして良いんですよね…? ふひっ……ふひひひひっ!」
………追加で2名入りまーす。
(じゃねえええええ!! いちごちゃんヘルプミー!!! 流石に数が多すぎる!! これはやばいよぉぉぉぉぉ!?)
(ま、待ってよ! 余裕すぎて赤ちゃんになっちゃうんじゃなかったの?)
(赤ちゃんになっちゃうよ! このままじゃ輪廻転生して赤ちゃんから人生リスタートだよ!!)
(わ、わかったから落ち着いて! と、とにかく、戦闘じゃなく逃げる方向性で考えていこ?)
(逃げようにもあのマーメイドガールがいるんじゃ時間停止も使えないしな……)
(それは……)
「何よそ見してるの〜? キミが見るべきは、この…………私なんだから!!」
「なっ………」
何かヌメヌメとしたものがオレの腕にまとわりつく。これは……タコの足?
「ぜろちゃん!」
「やあ1号。お前の相手はこの私だよ」
いちごちゃんがオレのカバーに入ろうとするが、海賊ガールにそれを阻まれる。助けを求めるのは難しそうだ。
「驚いた? これが私の固有魔法だよ、0号」
魔法少女オクト⭐︎パシー。彼女の固有魔法は、どうやらタコの触手を出すものらしい。けど……。
「ふっ、この名刀『桜河坂』に切れぬものなど!」
オレには『桜河坂』がある!
確かに、めちゃんこ強いわけじゃない。でも、このくらいの触手なら、切れないことはないはずだ。
「ふひひひひひっ! 捕まえました〜! ねえねえ、ワタシとイイことシませんか? 大丈夫ですよ、悪いようにはシませんから! ねえねえ! ぜろちゃんって呼んでもイイですか?」
と思ったらもう片方の腕も封じられちゃった。くっそ〜卑怯だぞ! こっちは少ない人数でやりくりしてるってのに!
「いつの間に……」
それになんなんだこのヤンデレっ娘、力強い……。
しかも、八重歯が特徴的だから、八重歯ガールかヤンデレガール、どっちで呼べばいいかわからん!
もうこの際ヤッさんでいいか。八重歯でもヤンデレでも意味通るし。よし! 君はこれからヤッさんだ!
って、そんなことはいいんだ。とにかく、この拘束からなんとかして逃れないと。
いちごちゃんヘルプ案件か? これ。
とりあえず、いちごちゃんの様子を伺ってみる…。
駄目だ……。花蓮ちゃんと海賊ガールの相手で忙しそうだ。
に、にこちゃんの方は…………。
アネさんと美鈴ちゃんの相手で忙しそうだ。てか、にこちゃんアネさんとバチバチに肉弾戦やってるんですが……。見た目1番か弱そうなのにやってること脳筋ゴリラなんですが…。
「さっきからよそ見ばかりして……。まったく、1番注目すべきはこの私! わかる?」
「いやーできればぜろちゃんも1人に集中したいんだけどな。いかんせんハーレムバトルが開始しちゃったもんだから、ハーレム主人公たるもの、どの子も平等に愛さねばと」
「べっ、別にあんたのことなんて、これっぽっちも好きじゃないんだから! なーんてね。この状況をハーレムと表せるなんて、0号ってば意外と余裕あるのかな〜?」
「ツンデレヒロインごちそーさま。そうだ。ぜろちゃんはこの状況になんら危機感を抱いていない! 余裕すぎて赤ちゃんになっちゃうくらいだからな! ほらほら、ぜろちゃんが怒らないうちに、手を引いた方が身のためだぜ」
やべーーーーー!!!!!! この状況どうすればいいんだ!? いくらなんでもこの人数は無理だって!? 最強でも限度があるんよ!! クッソ〜! このハッタリ、効いてくれないかなぁ〜?
「赤ちゃん………。ぜろちゃんは、赤ちゃんプレイが好きなんですね。イイよ。ワタシ、甘やかすの得意だから。ふひひっ、ふひひひひひっ!」
ヤッさんもヤベェ……! と、とにかく、時間停止だ! まだ歌声は聞こえてない! なら、時間停止をして、とりあえずこの拘束から抜け出さないと…!
すかさず、オレは時間停止を発動しようとする、が……。
「発動、しない…?」
「〜♪」
……しくじった……。発動するのが少し遅れたか。
「ありゃ、私のタコ足消えちゃった〜!」
「ごめんなさいクララちゃん。0号の固有魔法は正確にはまだ何か分かってはいないのですが、発動されたら厄介なので、封じておきました。さて、それじゃあ、大人しくしてもらいましょーか。しっかり0号を捕獲しておいてね、夜奈ちゃん」
固有魔法を封じる固有魔法の持ち主。オレの時間停止、その一切が効かない存在。
……マーメイドガール。
ぜろちゃん、大ピンチになっちゃった…。