悪逆非道な残虐行為
前回とはまた別の研究所に2号は捕えられているらしいので、現在オレといちごちゃんはその研究所に向かっていた。時間停止はなるべく使わずに、スマートな救出を実行するとしよう。
正直、他の奴にオレの時間停止の魔法を知られるの、あんまり良くないんだけどね。ホームレスの人達には知られちゃってるし、いちごちゃんだって助ける時、なるべく時間が止まってるってこと悟らせないように救出したつもりだけど、まあ、気づかれているかもしれない。ホームレスの人達のことは信頼してるし、オレの秘密は絶対守ってくれるって確信があるから別に良いんだけど、問題はいちごちゃんの方だ。
同じ実験体だったとはいえ、信用はできない。
2号だってそうだ。
だから、今回の救出では、なるべく時間停止を使わずに行いたい。勿論、オレの実力だと、『時間停止ぜろちゃん』じゃ『救出可能性ぜろちゃん』だから、多少は使うけどね。
「さ、乗り込むか」
まずは研究所の入り口をつくるところからだな。お、ここら辺とかよさげだ。
「ちょっと、まさかここから入ろうっていうんじゃ……」
「ぜろちゃんぱーんち!!!!」
言いながら、オレは壁を破壊する。
あ、ちなみに一回のパンチで壁が破壊されているように見えるかもしれないが、実際には時間停止して鉄パイプなりなんなりを取り出してかなり時間かけて壁ぶっ壊してます。はい。
「な、何だ!」
「か、壁を破壊しやがった!?」
壁を破壊して研究所に侵入したオレを見て、研究所にいる研究所達が慌てふためいている。ほっほっほ、愉快よのう。
さて、ここからが本番だ。
オレは今から、本当はやりたくない、究極の手段をとろうと考えている。
このまま2号をサクッと助けて退散するのも悪くはないが、研究所は潰しておかないと、2号もいちごちゃんも、再び捕まってしまう可能性がある。なんなら、またあいつらが人質にされるかもしれない。
だから、やるなら徹底的に。もう二度と、こんな研究をさせないように。
オレが、罪を背負わなくちゃならない。
人に行ってはならない、道徳的に許されてはいけない、そんな行為を。
「外で待っててくれ。オレの魔法で、あいつらを蹴散らす」
「………わかった。無理しないようにね」
さて、やるか。
「「「「「「「「「ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」
この世のものとは思えない程の大きな断末魔が、研究所内に響く。
その悲鳴は、聞くだけでこっちが苦しくなるような、それぐらいに悲壮感が溢れるもので。
「オレは………仕方なかった……………これしか、方法がなかったんだ………」
許してくれ、頼むから。
オレだって、本当はこんなことしたくなかった。
だって、オレにはわかるのだから。その苦しみが。
前世を経験しているオレだからこそ、その苦しみは、痛いくらいにわかる。
オレは、大罪人だ。
やってはいけない、禁忌を犯してしまった。
到底許されるべき行いではない。
そう、オレの罪は……。
「しぬぅぅぉぅおぉぉぅぅぅぅ!!!!」
「おらの息子がァ……! いやじャァ!! おら、結婚したら子供は6人って………! ギャァァァァァァァ!!!!!」
そう、オレは、罪を犯した。
金的という、男であれば誰しもが恐れる、禁断の行為を。
男達の絶叫が、研究所中に響く。
辛いよな、苦しいよな。
でも、こうでもしないと、きっとこいつらはまた、オレみたいな存在を造りだす。
別にオレ自身は人生謳歌してるわけだし、なんの不満もないのだけれども、いちごちゃんや2号みたいな子が、研究所の実験にその貴重な一回の生を食い潰されなくちゃいけないっていうのはオレにはあまりいいものだとは思えなかったからな………。
申し訳ない。本当に、罪悪感で今でも死にそうだ。
玉蹴りなんて、本当に。
聞けば、男の人の、その………玉を蹴るのって、内臓を蹴ってるのとおんなじらしい。そう、つまり玉は臓器なのだ。それを蹴るなんて……うぇっ……ぐろ……。
なんだか、オレまで股の辺りが痛くなってくる。
うぅ……ごめんよ………、オレだって本当はこんなことしたくなかったんだ……。
胸の中に溢れんばかりの罪悪感を抱えながら、オレはさっき作り出した入口付近にまで一旦戻る。
「研究員は全滅させといた。後は自由にしてくれ」
「うそ………一瞬で、こんなに…? 一体どうやって………」
いちごちゃんは、オレのやった罰せられるべき行いを見て、驚きを隠せないでいる。
どうやらオレの時間停止の魔法については、この子にはバレてなさそうだ。
「ほら、ちゃっちゃと行って、サクッと助けるぞ。安心しろ。ここには最強の魔法少女、ぜろちゃんがついてるんだからな!」
オレは罪悪感を振り払うため、努めて明るく振る舞うようにする。空元気ってやつだ。
まあ、研究員達は全滅させておいたし、一応2号らしき存在も時間停止使用中に見つけている。これ以上の脅威は存在しないはず……。
『〜♪』
「ねぇ、何か聞こえない?」
歌? 2号が歌っているのだろうか。時間停止で様子見した時、2号に歌っている様子はなかったんだが………。
「ちょっと様子みてくる。待ってろ」
おそらく大丈夫だろうが、念の為、オレは奥の様子を視察しにいく。
怖いし、一応時間停止の魔法も使っておこう。
『〜♪』
「こっちか」
オレは音の鳴っている方向に進む。
アレ? 音が鳴っている…?
オレ、確かに今、時間停止の魔法を……。
「あら? 誰か来たみたいですね〜。しっかし、驚きましたよぉ。まさか、私が来た時には、既に研究員さん達が全滅していたなんて。ところで、私の歌声、どうでした? 私結構歌には自信あるんですけど〜」
歌声の主は、マーメイドのようなドレスを羽織っており、体中に真珠のアクセサリーがついた、魔法少女だった。
「お前、なんで動けてる?」
オレは確かに、時間停止の魔法を使った。なのに、何故かこいつの時間は止まっていない。
もちろん、オレが意識すれば、特定の誰かの時間停止だけを部分的に解くことは可能だ。だが、今回の時間停止は、しっかりオレ以外は動けないように設定したはず……。
「動けてる……? なるほど、身体拘束系の固有魔法、金縛り的なものでしょうか……? いえ、それだと弱いですかねぇ……。うーん」
「おい、無視するな」
「あーっとごめんなさい。少し考えごとしてました。とりあえず、自己紹介からいきましょ。私は鮫島 美澄。魔法省直属の魔法少女部隊、深海魔策に所属する、極々平凡な魔法少女です。以後お見知りおきを、0号さん」
懇切丁寧に、オレに自己紹介をしてくる美澄。それに合わせて、オレもまた自己紹介を始める。
「オレの名前は桜河坂逢魔だ。0号? 誰だそいつ。オレは知らないな」
「オレっ子で厨二病とか、拗らせすぎじゃないですか……。普通に心配になってきました。大丈夫ですか?」
「おちょくってる?」
「あ、はい。少しだけ。いや、3割…………4割くらい」
全然少しじゃねぇじゃん。いや、でもさ、君のファッションも大概だと思うけどね? うん。傷つくかもしれないから何も言わないけどさぁ。
「まぁ。そんなことはどうでもいいんで。西條吹雪からも逃げられる、そんな貴方が、一体どんな力を持っているのか、大体予想できてきたので」
オレの時間停止に気づかれたか?
なら、何か仕掛けられる前に、こっちが先に魔法を発動すれば…。
『〜♪』
また、この音……。こいつの歌声か……。
何でだ。確かにオレは今、時間停止魔法を発動して……。
「『無効詠唱』。私の固有魔法で、これが発動している間、貴方は固有魔法を使うことができません。さて、私の推測だと、た・ぶ・ん、0号ちゃんの固有魔法は……時間停止、かな? あ、ちなみに私の魔法少女ランクはAなんだけど〜」
まずい、本当にまずい……。
時間停止が使えない?
じゃあ、オレは素の状態で戦うってことか?
無理だ、だって、オレのランクは……。
「はじめよっか。見せてもらうよ。西條吹雪に匹敵する、最強レベルの実力を、さ」
オレには、そんな力……、
ないんだ…。
よわよわぜろちゃん