ぜろちゃん始動!!
海賊ガールをスルーして人質を助け出したぜろちゃんことオレだったが、ちょっと厄介なやつに付き纏われることになった。
というのも、人質を探す上でまず研究所、って言っても、最初にオレがいた場所は使われていないだろうから、第2の研究所を探し出してそこに向かったわけなんだが。
まあ当然、研究所ということは何か研究しているものがあるわけで。
オレに0号という識別番号が付けられているように、研究所は魔法少女という名の実験動物を研究する場所だ。
つまり、オレを原点として、1号、2号と次々と実験対象は製造されていくわけで。
当然、オレが向かった先には、その実験対象である1号さんがいたわけですね。
で、まあ、かなり酷い目に遭ってたっぽかったから、本来の目的ではないけど、一応助けたわけですね。そしたら……。
「助けてくれて、ありがとう。ねぇ、お願い。2号を………にこを、一緒に助けてくれない? 貴方も、私達と同じ。気持ちはわかるでしょ?」
こんな感じで、粘着されちゃったわけですね。
いや、うん。
ヤンデレは嫌いじゃないけど、この子そういう感じでもなさそうだし…………。
というか、2号にも一応名前はあるんだなぁと。にこちゃんか。にごうをちょっと捻った感じかな?
てことは、1号はいちごちゃんとかだろうか……。
確かに、苺のヘアピンみたいなの付けてるし、ちょっとミルキーな赤髪してるし、苺っぽいといえば苺っぽい?
ほっぺも赤いしね。
って、現実逃避もほどほどにしないとな。
さて、この子、どうするか。一応さっきも言った通り、この子を助け出した後で人質も解放しておいたから、当初の目的は達成したんだよな。
時間停止使ってサラダバーするか? いや、この子1人で置いておくとまた研究所に逆戻りになっちゃいそうな雰囲気あるんだよなぁ……。
うーん。どうしたものか。
とりあえず、2号まで助けに行くとなると話が余計ややこしくなりそうだし、それは回避しないとな。
「同じ魔法少女だからって、助ける義理はないと思うぞ」
「そうじゃなくて、貴方も私達と同じように研究所でモルモットにされてた子でしょ? 確か、0号とかって呼ばれてた…」
「人違いでは? オレの名前は茶柱抹茶。茶道の名門茶柱家に生まれ、幼い頃から茶道の神童と呼ばれながら、茶道一筋に生きてきた人間だ」
ちなみにオレは茶道なんてさっぱりわからない。
平々凡々な一般ピープルだったので、茶道をやることなんてなかったのだ。
「チャ・バシラ・マッチャ? 変な名前……」
何か変に訛ってる気がするが…‥まあ、誤魔化せるのなら全然問題はないな!
「そうそう。オレはチャ・バシラ・マッチャだから、そのぜろちゃんってやつじゃないんだよなぁ」
「ぜろちゃん? 私、ぜろちゃんなんて一言も言ってないけど」
「あっ………」
つ、つい癖で……。いや、でも大丈夫だ。ぜろちゃんなんて呼び方、この子は知らないはず……。最悪、オレは0号がぜろちゃんと名乗っていることを知っていたということにすれば……。
「ねぇ、どういうこと? 0号はぜろちゃんって名乗ってるの?」
「ウーン、どうやらそうらしいネ(^ ^)でもそんなにオレも詳しくないから、正直分からないカナ」
「何か喋り方おじさん臭くない? いや、おぢさん臭い…?」
「誰がおぢさんだ! ぜろちゃ……オレはピチピチの女の子だ!」
「ふーん……」
オレはなんとか誤魔化すことに成功する。よし、このまま知らんぷりすれば、この場は凌げる。
2号には悪いが、オレは善人なんかじゃないのだ。他の魔法少女と馴れ合うつもりなんてないし、誰かを助けるために努力するつもりもない。
「それじゃ、オレはそろそろ行かせてもらうよ。ぜろちゃんは忙しいのだ!」
「ぜろちゃん………?」
「あっ」
普段自分のことぜろちゃんって呼んでるから、本当にごく自然にポロっと、まるで海へ流れていく川のようにごく自然に口に出してしまった……。
……あほすぎんか?
「やっぱり貴方0号じゃない! どうして! 私達仲間でしょ? 協力し合おうよ!」
いや、待て。見た感じ、この子はそんなに賢そうではない。
まあ、一応悪い大人に自分からついて行ったりしてない(1号が捕まったのは実力行使なため、1号自身が研究所に自らの意志で戻ったわけではない)ところを見るに、警戒心は高いことは確かだ。
だが、この子は世間を知らない。なら、このオレのIQ10000の頭脳を用いれば、この子を騙すことなど造作もないだろう。
幸いなことに、オレには茶柱抹茶以外にも、えーと、確か………ひぃふぅみぃ……。
何個だっけ?
まあいい。そう、何個か偽名があるのだ。
その偽名を使い、この苺ちゃんを騙す。
「違うっ! 待て! オレの名前はでーもん・でーもん・でーもんでぇ………」
「せめてチャ・バシラ・マッチャで通しなよ!? 一貫性がなさすぎる………。というか、偽名にしてももっとまともな名前の方が……」
無理でした…。
当然といえば当然だ。彼女の指摘通り、普通に茶柱抹茶で通すべきだった。
なにがIQ10000だよ。ねぇよそんなの。
「いやそもそもチャ・バシラ・マッチャじゃなくて茶柱抹茶だよ。お前日本人だろ、なんでそんな訛り方してるんだ……」
「そんなことどうでも良いの! もう嘘なのは分かりきってるんだから!」
誤魔化そうとしてもやっぱ通じないな………。はぁ……。仕方ない。
オレ、面倒なことは出来るだけ避けたい主義なんだけど……。
だってそもそもオレ、定住できる場所もないし、金銭的余裕があるわけでもない。
ただ、魔獣の肉を食って生きていける世界だったから餓死せずに済んでるだけで、衛生面に関しても、『clean』とかいうクソ便利チート魔法がなければ【☆お・し★ま・い☆】みたいな状態だった。
だから、本当は嫌なんだよ。余計なことに首突っ込むの。でも、仕方ないよなぁ……。
「わかった。わかったよ。助ければ良いんだろ? 2号……にこちゃんだっけ? その子のこと」
「!? ……いいの?」
「ただし! 研究所から連れ出すところまでな。その後のことは知らないからな!」
「っ! ありがと!!」
そう言って苺ちゃんはオレに抱きついてくる。
…………何か、もの凄い薬の匂いがする。
この子、研究所でどんな扱い受けてたんだ? 体中に薬の匂いがこびり付いてるぞ。
薬漬けにされてたんだろうか……。いや、それでもこんなに薬の匂いがぷんぷん漂うものなのか……?
………研究所の奴ら、マジでクソ野郎じゃん。
てことは、2号の方も、苺ちゃんと同じような目に遭ってるってことなんだろうか……。
はぁ………。うん。まあ、研究所から連れ出した後も、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ面倒を見てあげよう。
いや、ちょっとだけだ。本当に。先っちょだけ的な。そう。
決して絆されたわけではないし、憐れに思ったわけでもない。
同情したわけでもなければ、2号に思い入れがあるわけでもない。
そう、これはオレがそうしたいからするのだ。
人工的に造り出したからと言ってまだ幼い少女を薬漬けにして、そんなもので得られた研究成果で一喜一憂するような研究者のことも、そんな奴らにいいようにされてしまっている2号のことも、気に食わない。ただ、それだけだ。オレがムカつく。
だから、感謝される筋合いはないのだ。
大体、たかが研究所如きに怯えているようでは、最強の魔法少女になるなんて夢のまた夢になってしまうからな。
「よしっ! やったるかぁ!」
待ってろクソ野郎ども!
最強の魔法少女、ぜろちゃんが!
お前らの研究、ぜーんぶ台無しにしてやるからな!!!!