最強には付け入る隙なんてない
くたばれこのケダモノ!!!
よし。というわけで、今日も元気に魔獣狩りやっております。最強系魔法少女の†ZERO†ちゃんです!
今日はホームレスの人達に、食料を与えてやろうと思いまーす!餌やりってやつだな、うん。
ほら、クエっクエっ。…………なんだこいつら。全然食おうとしないじゃないか。まあ、オレがいる時はこいつら全然食おうとしないから、いつも通りといえばそうなんだがな。
「ぜろちゃんいつもありがとうな。いつも飯足りてなくてよぉ…。でもぜろちゃんのおかげで、おれら腹いっぱいになれるんだよ」
うーむ。人から感謝されるのはいいのぉ〜。
やっぱあれだよな、優越感ってやつ?
オレのが上に立ってるって感じがして、めっちゃ気持ちいいです。
うひょー!自尊心が満たされるー!
誰だ今オレのことクズだって言ったやつ!?
自尊心くらい誰にでもあるだろ?
ま、今はこんな小物だが、まあ見てろ。オレが最強になれば、この世界に住む全人類を見下せるんだからな。
「しっかし、魔法省に登録すりゃ、政府から援助が出るってのによぉ。あぁ……そうか、おれたちのために………」
「お前らのためじゃないって。言ってるだろ? オレは最強の魔法少女だから、魔法省に登録とか本当に意味ないんだって」
ちなみにこいつら、オレのことを少し勘違いしているらしい。
もちろん、多少の善意こそ持ち合わせてはいるが、基本的にこの人達に魔獣の肉を分けてるのは、オレの自尊心を満たすためだ。
ま、そりゃ、この人達には世話になったし……まあ、感謝してるし、なるべく健康に長生きして欲しいと思っては、まあ、多少? うん。ほんとうにちょっっっっとだけ。ちょっっっっっとだけ思ってるのはあるかもしれないけど、いや、ほとんどないからね。
でまあ、多分こいつらからしたら、オレは魔法省の生活保障をかなぐり捨て、わざわざ恵まれない人達に食料を分け与えたり、チート魔法の代名詞こと『clean』で体を綺麗にしてくれたりしてくれてるわけだし、聖人に思えるのかもしれないが、前にも言った通りオレには魔法省に登録できない理由があるからな。
まあ、だからこいつらのためにわざわざ魔法省に魔法少女登録を済ませていないわけじゃない。うん。その……はずだ。
よし! 今日は調子いいし、もうちょい魔獣狩ろっかなー♪
*
「ぜろちゃん毎日肉くれるのは良いんだけどさ、正直俺らこれ食わないんだよなぁ……」
「魔獣の肉なんて食って大丈夫なのかワカンねぇしな。第一、別に俺らは飯に困ってはないしな」
ホームレス達は別に食料に困っているわけではない。
炊き出しに行けば、ホームレス達は満腹になるし、人によっては生活保護を受けていたりもする。
もちろん、炊き出しがなければ食料に困ることにはなるだろうが、現状ではそのような事態に陥ってはいない。
「ま、金になるから良いんだけどね〜。普通に働くよりもこの肉を魔法省に売った方が金儲けできるし、ほんとぜろちゃんさまさまだよな」
ホームレスの中には、魔獣の肉を受け取っていない人間もいる。
というか、大多数は受け取らないことが多い。ホームレスの中には、自分より年下の少女から何かを貰い受けるということを嫌がる者がいたり、単純に貰いに行くのが面倒な者がいたりするからだ。
そう、受け取っているのはほんの一部だ。
そのほんの一部の人間も、自身の空腹を満たすためではなく、その魔獣の肉を魔法省に持って行って換金してもらうことを目的としていることがほとんど………いや、すべてそうだろう。
「けどいいもんかね、俺らがいつまでもぜろちゃんのこと縛りつけちゃって」
「そういやぜろちゃんって、どうやって生きてるんだろ? 俺らみたいな生き方とはまたちょっと違う感じがするし、なんなら炊き出しの時も見かけたことないな」
「お前知らなかったのか。ぜろちゃん、魔獣の肉食って生活してるらしいぜ。服とかはくりーんだかくりーむだだか知らないがそんな感じの魔法でなんとかしてるらしい」
「魔獣の肉だって? あんなもん、専門家がきちんと取り扱って調理して初めて食えるもんだぞ? 下手したら死ぬんじゃ……。てか魔法の名前流石にくりーむはないだろ。クリーンじゃねーの?」
「そうなんだよなぁ。でもその肝心のぜろちゃんが嫌がってるんだよな。だから俺らも勝手に魔法省に連絡入れるってわけにもいかないし……」
「なんでぜろちゃんは魔法省の生活保障を受けようとしないんだろうな。あそこの生活保障、やり過ぎかってくらいの保障なのになぁ」
*
「ふーん、なるほどね、あれが0号の弱み、かー。うん。使えそうだね」
そう呟くのは、左目に眼帯を付けた、海賊のような装いをした魔法少女だ。
海賊船の船長が被っていそうな帽子をかぶっており、そこらを歩いていればかなり目立ちそうな出立ちをしている。
魔法少女というのは、イメージが大切だ。一見コスプレのように見える衣装も、実際に魔法少女達が自身の最大限の実力を引き出すために最適化されたものなのだ。
「1号みたく逃げ足が遅かったりもしないし、2号の時みたいに他の魔法少女と馴れ合いそうにもなかったし、一時はどうなることかと思いましたけど、いやーよかったー人質になるものが見つかって」
もう片方の少女が、語る。
彼女はマーメイドのようなドレスを羽織っており、体中に真珠のアクセサリーがついている。
ジャラジャラと音まで鳴らしているため、これまた目立ちそうである。
「0号も根は優しそうだし、2号の時のやり方でもいけそうっちゃいけそうだけど」
「どうですかねー。ま、せっかく人質がいるんですし、そっちを使いましょーよ。無理だったら2号の時の方向性にシフトチェンジって感じで」
「ま、それならそれで行くか」
「私としては1号の時みたいに力技で捕縛しに行ってもいいんですけどねー」
彼女達は、研究所から逃げ出した三体の魔法少女の実験体、0号、1号、2号を捕えるための魔法省直属の魔法少女部隊だ。
そして、その中でも0号は研究所の破壊を行ったこともあってか、特に要警戒対象として登録されており、捕縛する際は必ずAクラスかつ2人以上の魔法少女で行うことが義務付けられている。
そして、彼女ら2人は、1号を捕縛した実績があり、2号の捕縛の際も作戦の立案などに貢献した実績のある魔法少女なのだ。
そのため、今回の0号捕縛作戦にも彼女ら2人が抜擢された。
しかし、0号の実力は、厳密に言えば、何もわかっていないのだ。
あの最強と名高い西條吹雪からも逃げ仰せるくらいの実力はある、くらいの認識はあるが、じゃあ実際どんな魔法を使って、どんな闘い方をするのか、その一切の詳細が不明なのである。
元研究所の職員に聞いてみても、正直どうやって研究所を破壊したのかすら、未だにわかっていないらしい。
つまり、実力は未知数。だからこそ、魔法省直属の魔法少女部隊から派遣された2人は、0号には0号自身の意志で囚われてもらおうと、そういう発想に至ったのだ。
そして結果的に、彼女ら2人は0号の弱みになりそうなものを見つけた。
本当に0号に対して効くのかわからないが、試してみる価値はあるだろう。
「で、西條吹雪にはバレてないよね?」
「うん、全然。いくら最強っていっても、アレはかなり鈍いからね。アレの勘が鋭かったら、うちら魔法省の人間はとっくに消されちゃってるんじゃないかな」
2人の少女は会話を進める。
会話を続ける彼女らの表情は、年相応の可愛らしいものではなく。
まるで悪事を企んでいる裏社会の人間のような、そんな邪悪な笑みを浮かべたものであった。