ワタクシが最強なのよ。オホホホホ
「止めに来た。そうだよね。責任感の強い貴方なら、きっとそうするだろうと思ってた」
「どうしてこんなことをするの? ケガしてる人もいた。死人は、出させなかったけど」
「へぇ。一瞬の出来事だったのに対処がはやいんだ? それで、どうしてこんなことをだっけ。それはね、貴方のせいだよ」
『眠り姫』と西條吹雪が対話する。普段のオレなら誰かに守られたり、助けられたりすることは許容できなかっただろう。けど、『眠り姫』はオレの信念に抵触した、
。ぜろちゃんルールを破ったのだ。そんな相手に、強者はなんたるか、それを教え込ませてくれるのなら、今回の件は仕方なかったこととして流せる。だから、今日は西條吹雪に譲ってやろう。
ただ、ぜろちゃんはちゃんと西條吹雪を超えて、最強の存在であることを証明してやるんだからな! 覚悟しておくんだな!
「私の、せい…?」
「そう。貴方がいなければ、私はこんな行動を起こしてなんかいない。貴方がいたから、私は貴方と戦うために、わざとこんな事を起こしたんだから」
随分と自分勝手な理屈だ。
客観的に見て、どう考えても責任は『眠り姫』のものだろうに。
「確かに、私のせい、なのかもしれない……」
おいおい待て! 何でそこで折れちゃうんだ。君最強の魔法少女でしょ? 弱気が過ぎないか?
「私がいなければ、君はもっと真っ当に魔法少女として活躍してくれてたのかもしれない」
「…さぁ? どうだろう?」
「だから、ごめんなさい。私にせいで、こんなことをやらせてしまって。私が至らないばかりに」
今まで、西條吹雪と言葉を交わすことなんて、あまりなかった。だから、ここまで西條吹雪の自己肯定感が低いなんて思ってもいなかった。てっきり、『ふん、私が最強なのよ。ひれふせ雑魚どもオホホホホ』くらいは思ってるかと。
「でも、私のせいだからといって、この事態を見過ごすわけにはいかない。私はSSランクの魔法少女として、君を止める責務がある」
「……そうこなくっちゃ」
まあ、とりあえず最強の格を見せつけて、『眠り姫』を分からせてくれそうではある。わからせだけやってくれれば、『眠り姫』が強者という概念でオレと解釈違いを起こしている件について、多少は許せるかもしれない。
「とりあえず…反省して」
西條吹雪は体中から冷気を発し、それらを『眠り姫』にぶつける。
一瞬にして、『眠り姫』は氷づけにされているからか、一切の身動きをとることができず、西條吹雪の眼前で静止している。
しばらくの時が流れる。
西條吹雪は、どこか心苦しそうな表情を見せながら、ひたすらに待ち続けている。
「そろそろ、いいかな」
そう言って、西條吹雪は『眠り姫』の氷づけ状態を解除する。
「反省は、できた?」
「んー! 反省? ないよそんなの。それにしても、寝心地の良いベッドだね。全然苦に感じなかったよ」
西條吹雪は、どうやらあれで本気で『眠り姫』が反省してくれると思ったらしい。見た感じ、自分のやったことを後悔するような奴じゃなさそうだったし、『眠り姫』の反応は想像通りのものではあるんだが…。
それはそれとして、余裕綽々なこいつの表情を見ていると腹が立ってくる。なに最強面してるんだ、本当に天最強なのはぜろちゃん様なんだからな!
「そう。ごめんなさい。私がこうしている間にも、どこかで魔獣と戦ってくれている魔法少女がいるんだって考えていると、少し焦ってしまって。そのせいで、君が反省するための十分な時間を設けられなかった」
なんかどことなくズレている感じがするけど、西條吹雪って割と天然ちゃんなのか?
だとしたらあだ名は天然ガールだな。
「安心してよ。どれだけ時間を割かれようと、私が反省することは絶対ないから。だから戦お?」
「少し、やり方を変えてみる」
周囲の頭上に、大量のつららが出現する。おそらく西條吹雪のものだろう。ぜろちゃん達がいる場所の頭上には、つららが存在していない。避けてくれているのか。
「こんな…………規格外よ……こんなの、人間の所業じゃない……」
「…何が?」
ぶちガールがなにやら騒ぎ出したので、一応言葉をかけて、どうしたのかとたずねてみる。
「普通、これだけの量の魔力物質を出現させる場合、その1つ1つを完璧に制御するなんて不可能なの」
「へー」
「だから、ある程度条件を設定して、その条件を満たした場合に効果が発動、すなわち、動かしたりだとか、攻撃させたりするのが基本なの」
「そういうもんなのかー」
「聞いてるの? ……とにかく、それが基本なんだけど、西條吹雪はそれをやってない。1つ1つ全て、自分で制御してるの」
ぶちガールってそういう判別できるんだ。頭良いのかな?
「だって、勝手に動いて事故でも起こしたら大変だから。自分で制御するのが1番安全」
ぶちガールの声が聞こえてきたのか、西條吹雪はなんてことのないようにそう答える。
よく分からないがすごいことをやっているらしい。
ぜろちゃんもでーもんずとか自分で操作してるけど、3匹だけだしなぁ。数が多いと、1つ1つの管理は大変になってくるもんなんだろう。
でも、ぜろちゃんも火の弾出した時、全部自分で操作して『眠り姫』に当たるように調整してたんだけど、また違うのかな?
「あくびが出そう。平和ボケしてて。本当に。その余裕、崩してきたくなっちゃった」
「私と戦いたいのなら、まずは試練。頭上に用意したつららがあるけど、実は迷路の形になってる。頭上を見ながら、つららのないところを通るようにして。もし、つららのあるところを通ったら、つららが上から落ちてきて、もう一度氷づけになっちゃうから」
「私が貴方としたいのは、遊びじゃないの。本気の命の取り合い。殺し合いをしに来たんだから!」
西條吹雪の忠告を無視して、『眠り姫』は西條吹雪に向かって突進しはじめる。しかし、『眠り姫』の攻撃が、西條吹雪に届くことはなかった。先程の忠告通り、迷路を無視して突っ込んだことで頭上にあったつららが『眠り姫』を襲ったからだ。
「忠告はしたのに…」
だが、どうやら『眠り姫』もただではやられるつもりはないらしい。
見ると、『眠り姫』を氷漬けにした氷に、ひびが入りはじめている。
やがて、そのひびは全体に広がり、まるで殻を破るかのように『眠り姫』は氷の中から出てきた。
「こんなおもちゃはくだらない。全部壊しちゃおう」
言って、『眠り姫』は頭上にあるつららを、指を弾いて、次々に破壊していく。それに対して、西條吹雪は何をすることもなく、ただ、『眠り姫』に見入るようにして突っ立っている。
「分かった。君は魔力粒子を使ってる。違う?」
どうやら、『眠り姫』の攻撃を観察していたらしい。
「当たっているけど、それが何?」
「…すごいなと思って。私も扱おうと思えば扱えるけど、実際魔力粒子を扱える魔法少女は見たことなかったから。魔力結晶を扱う子なら見たことがあるけど」
何の話してるん?
もしもーし、こちら置いてけぼりをくらっているんですけれども。説明求む。
教えてぶちガール先生〜!
「え…? ま、魔力粒子ってのはアレ……えと、アレだよ……ほら、『眠り姫』も爆発させてたし、ああいうのができるやつで……。えーと、めちゃくちゃ技術がないとできないすごい力、みたいな?」
こいつ分かってないな? なんか解説役できそうな雰囲気出してたから、きっと説明してくれるんだろうと期待してたんだけどな。場合によっちゃ、ぜろちゃんもあの魔力粒子とかいうの使えたらなぁとかも考えたんだが。
「上から目線。謙虚に振る舞っていそうに見えるけれど、実際は自分が最強だっていう自負があるんじゃないの?」
「うん。私は最強だよ。他の誰でも、私に匹敵するような魔法少女はいない。君も、例外ではないよ」
あ、やっぱり『ふん。私が最強なのよ。お前程度じゃお話にもならないわ。オホホホホ』くらいは思ってるんだ。自己肯定感低そうって思ってたけど、そういうわけでもないんだろうか。
「じゃあ、分からせてあげる。貴方が最強じゃないってこと。私が最強で、そして……今日が貴方の命日だってことを」
再び『眠り姫』は自身の指を弾き始める。オレと戦った時のように、周囲を爆発させるつもりなんだろうか。結構やばいんだよなアレ。ぶちガールの盾がなかったら実は危なかったし。
……しばらくは観察しておこう。
………。
………。
………。
………。
んー。
なんか、絵面が地味っていうか。『眠り姫』が指を弾き続けているけど、西條吹雪は微動だにしないから、シュールなんだよな。
「……な、んで……」
なんか『眠り姫』が話し出したな。指弾くの飽きたの?
「申し訳ないけど、君が用意した魔力粒子は全て凍らせた。だから、今君がまいた魔力粒子は使えない」
ふむ。ふむ。ふむ〜?
「そんなはずが……あの数の粒子を? 認識していたと…?」
何の話やねん。分からん分からん。
「うん。私も魔力粒子は扱えるから、君の放出した魔力粒子を認識して、機能停止に陥らせることもできる」
ほーん。うん。なんか。西條吹雪の方が強いってことかな。うん。
「そんなわけない。だって私は……貴方の制御のために造られた。私は、貴方が反逆しても対抗できるように、貴方の戦闘データの全てを蓄積して、研究された上で誕生したのに!」
「いっぱい努力したってこと? まあ、勝てなくて当然だよ。いくら君が他の魔法少女より強かろうと、いくら私の戦闘データの蓄積? とやらがあっても、私には及ばない。私は、私の強さは、きっと物差しなんかでは測れない。私は、どんな魔獣が来ようが負けることはない。だって私は、そういう存在だから。私は、生まれてから一度も、本気を出せたことがなかったから。私の本気が観測できない以上、戦闘データがいくらあろうと、私を越えることはできない」
それに、と西條吹雪は付け加えるように告げる。
「魔法少女としての強大な力を、街の破壊なんてことに使っているような人に、私は負けない。私に勝ちたかったら、もっと正しいことに力を使って。強い力を持ってるんだから、その力は、人を助けるために使ってほしい。私は最強だけど、1人しかいない。だから、私の手が届かないところだってある。そんな時、君みたいな強い子がいてくれたらありがたいから」
それが西條吹雪の考えってわけか。同時に、切実な願いでもあったような気がする。
うん、その考え方は、嫌いじゃない。オレの強者の信念と、似通っているところも多少あるから。それに『眠り姫』への「わからせ」も完了したみたいだ。できればオレがやりたかったんだけどな〜。
ま、それはいい。ともかく、西條吹雪が最強にふさわしい存在であることは確認できた。つまり、ぜろちゃんが倒すべき敵、相手として十分な奴だってことが分かった。今に見てろ。このぜろちゃん様が、オホホホホと高笑いしながら最強の座にいるお前を引きずりおろしてやるぜ!