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強者の信念


『眠り姫』は余裕の表情を浮かべながら、退屈そうに指を弾いている。他の魔法少女は、『眠り姫』が起きたからか、この場から退散し始めていた。


『眠り姫』1人で十分ってことなのか。


「さて、仕込みは終わってるけど、どうかな? 耐えられるかな?」


『眠り姫』は淡々と告げる。仕込みは終わった? オレが戦っている間にか? いや、オレが他の魔法少女と戦っている間、『眠り姫』は寝ていたはず…。仕込みって一体…。


「はい。どかーん」


瞬間、廃工場内で爆発が起こる。『眠り姫』もいるところから、ぜろちゃんのいる場所まで順々に爆発していく。仕込みっていうのはこれのことか?


「…盾よ!」


そんな中、いつの間にかオレの隣に来ていたぶちガールが、固有魔法で盾を作り出し、爆発に対する耐性をつけていく。


にしても、あらかじめ爆弾を仕掛けておいたのだろうか?

いや、そもそもここに呼んだのはぜろちゃん側で、何か細工をさせる暇は与えなかったはずだ。


………そういえば、『眠り姫』はさっきつまらなさそうにしながら指を弾いていた。指パッチンみたいに音が出るようなものではなかったが、まさか、アレが仕込みだったのか?


「生きてる。そっか、『贋製現界(オールハンドオン)』かぁ。まあ、あの程度で死なれても興醒めだし。次と行こう」


見ると、『眠り姫』はその腕を何かをなぎ払うかのように横に振るう。

……上方から、ミシミシと、まるで限界を迎えたかのような音が聞こえてくる。まさか…。


「でーもんず!」


オレはすぐさまでーもんずを自身の上にある天井に向かわせる。


でーもんずが天井に向かう途中で、ぜろちゃん達の頭上の天井が、まるで何者かに切り離されたかのように一部が分離し、落ちてきた。


「……やっぱりか」


でーもんずが防いでくれたので、ダメージはなかった。が、この状況で、丁度オレ達がいるところの天井がピンポイントで崩れるなんて偶然、ありえない。つまり、今のこれも『眠り姫』がやったことなんだろう。


「逃げるよ! 『眠り姫』の相手は、私達じゃ荷が重い!」


「あ、おい!」


ぶちガールはオレの手を掴んで、『眠り姫』から距離を取るために全力で駆け始める。

…確かに、今の実力じゃ『眠り姫』とやらに勝つことはできないのかもしれない。実際、ぜろちゃんは『眠り姫』の“仕込み“というやつに気付くことができなかった。けど、それでいいのか?


ぜろちゃんの目標は、最強に至ることだ。全ての魔法少女を潰し、オレがこの世界の覇者となることだ。『眠り姫』がなんだ。どれだけ強い魔法少女であろうが、結局西條吹雪には実力で劣るはずだ。


西條吹雪を含めて最も危険? 危険なだけだろ? 強いなんて言ってないじゃないか。


天最強なぜろちゃんの敵じゃあないさ。こんなところで負けるようじゃ、雑魚もいいとこだ。


オレは、オレの手を引いていたぶちガールの手を振り払う。


「なっ!」


「西條吹雪を含む全魔法少女の中で最も危険、か……。なら教えてやるよ。全魔法少女の中で、最も天最強で、最も危険なのは、この大魔法少女、ぜろちゃん様だってことをな!」


「は………お前は、バカなの? というか、最も最強とか言ってる時点でバカか」


ぶちガールの戯言は置いておくとしよう。

とにかく、オレは『眠り姫』なんかに負けてる場合じゃない。逃げるなんてごめんだ。


「さあ来い『眠り姫』。お前の目ん玉がデメキンみたいになるくらい目を覚まさせてやる」


「デメキン、かぁ…。いいよ。前菜くらいにはなってね」


『眠り姫』は両手を高く掲げて、満面の笑みを浮かべながら、言う。


「こんな舞台じゃ狭くて仕方ないでしょ? だから、壊してあげる」


廃工場全体が、爆発に巻き込まれていく。さっきもそうだったが、『眠り姫』の指には何かを爆発させる力があるのかもしれない。いや、よく見ると、爆発に関係なく、工場を支える柱が不自然に途中で切断され、廃工場倒壊の手助けをしている。

不自然といえば、オレやぶちガールがいる天井が崩れ落ちてきた時もそうだった。『眠り姫』は、爆発だけを扱えるわけじゃない。それ以外にも、何かある。


「場は整った。目を覚まさせてくれるんでしょ? さあ、行くよ。デメキンタイムの始まりだ!」


『眠り姫』は廃工場の残骸が大量に崩れ落ちていく中、怯む様子を見せることもなく、一直線にぜろちゃんとぶちガールの元へ凄まじいスピードで駆け抜けてくる。ついさっき、ぶちガールがオレの手を引いて『眠り姫』との距離を稼いだにも関わらず、その差は一瞬にして埋められてしまった。

けど、ぜろちゃんだってスピードには自信がある。逃げ足で言えば、最強の魔法少女たる西條吹雪すら捉えることができないものを持っているんだからな。


「でーもんず!」


オレはでーもんずを使って、『眠り姫』に攻撃を仕掛ける。


「かわいいね」


3匹のでーもんず。それを見て、『眠り姫』は少しだけ興味を示しつつも、なんてことのないように、簡単にあしらう。


でーもんずでは『眠り姫』の相手は厳しかったらしい。とすれば、別の手段での攻撃を考える必要がある。なら…!


「炎だ!」


火の弾。いちごちゃんが使っていた魔法だ。確かこの火の魔法、通常魔法だったはずだ。通常魔法ということは、いちごちゃん以外の魔法少女にだって使えてもおかしくはない。そう考えて、実際にイメージしてみたところ、上手く行った。


「へぇ…。底がしれないね。少なくとも、前菜にはなりそう」


『眠り姫』はオレの火の弾を見て、対抗するように魔力の塊を両の手で作成し出す。オレの火の弾と比べると、籠っている魔力の量が段違いだった。

オレの火の弾の10倍くらいの量はこもっていそうだ。


1個1個の弾が、オレの火の弾の10個分に相当している。このまま互いに弾をぶつけ合っても、ぜろちゃんの敗北という結末が待っている。ならば、どうするか。


「その分、10倍以上の火の弾を出せばいいだけだ!」


魔力の量で負けているならば、魔力の“弾”の量で『眠り姫』を上回ればいい。簡単な話だ。


「行けー! えー……ファイアーボールー!」


とにかく出せるだけ出せ。ぜろちゃんはペース配分とか考えない主義なのである。


実際に前世では、持久走で初動から全速力でぶっとばして、1番、すなわち最強の状態に至ったものの、後半になるにつれ、体力が落ちていき、気付いたら最下位にまで落ちていたことがあった。


皆からの「〇〇〜! 頑張れ〜!」の声援はつらかったぜ…。

なんなら「〇〇〜、がんばれwww」だったからな。クソー! お前ら最初にオレに抜かれたくせに! 調子に乗りやがって…!


「嘘でしょ? あの『眠り姫』と拮抗してる…」


「私と戦っているのに、私を見ていない? 面白い。西條吹雪の前座くらいになればいいと思ってたけど、いいよ、私の全力を見せてあげる」


『眠り姫』が魔力の溜めに入った。つまり、それだけ魔力の弾の数も減るということになる。ということは……。


「今がチャンスだ!」


チャージしてる間に、火の弾を出しまくってやろう。もちろん、攻撃まではしない。

変身中に攻撃をしてはいけないのはお約束である。それと同様に、必殺技の溜めをしている間に攻撃を仕掛けるのもナンセンスである。いや、必殺技を主人公が溜めてる間に、仲間が敵の足止めをする展開とかは好きだけど。


「弾の押し合いはもうおしまい。さあ、まだまだ戦いはこれからだよ。もっと私を楽しませて?」


どうやら『眠り姫』の溜めは完了したらしい。なら、こちらも攻撃を仕掛けさせてもらおう。お前が溜めをしている間に出した火の弾ぜーんぶお前にぶつけてやるぜ!


「弾遊びも楽しかったけど、でも、チマチマ戦うよりも、全力を思い切り振るう方が、きっと楽しいよね!」


『眠り姫』が両の手を空高く掲げ、その手を上から下へと振るう。


「まずい……。0号、避けて!」


ぶちガールの焦った声が聞こえてくる。今回の攻撃がヤバいというのは、素人目で見てもすぐわかった。オレは持ち前の逃げ足の速さで、『眠り姫』の攻撃を全力で回避する。それが正解だったのか、間違いだったのか、さっきまでオレがいた場所の後方、そこには。


「なん……これ………」


人が住んでいるであろう、住宅。それが、『眠り姫』によって倒壊してしまっていた。

その数は1軒ではおさまらない。

オレの後方にあった住宅は、1軒、2軒、3軒と、次々に倒壊していく。

正義の存在であるはずの魔法少女が、守るべき街を破壊している。


これは……やりすぎだろ……。


「どう? 私の力。凄いでしょ? 火力だけなら、西條吹雪をも上回る自信があるからね」


「街を破壊して……それでいいのか? お前の目的は、街を守ることだろ?」


「大丈夫大丈夫。元々、私は美澄ちゃんに誘われて、この国を滅茶苦茶にしてやろうと思ってここに来たから。0号と戦ったのも、私の固有魔法を発動させる口実に使えそうだったからだし。ね、だから、今は戦いを楽しも?」


詳しい事情は知らない。が、目の前にいる『眠り姫』は、ただの正義の魔法少女というわけではないということ。ただそれだけが事実としてあるということは分かった。


「それじゃ、もう一回いくよ?」


まだ、街を破壊するつもりなんだろうか。オレは別に、正義の味方でもなんでもない。でも、強者がその力を振るうのは、戦いに参加していないものを傷つけるためではない。


こいつの力の使い方は、許容しちゃいけない。


止めないと。

こいつの暴走は、オレが止めないと。


「何やってんの0号!? お前はバカか! はやく避けないと!」


駄目だ。避けない。こいつは、オレの信念と相容れない力の使い方をした。

2度もオレの前で、同じ力の使い方なんてさせてやるもんか。


『眠り姫』の攻撃をオレが受け止めて、街への被害を0にする。

ぜろちゃんが街の被害をぜろちゃんに、なんてな。


「避けないならそれでもいいよ。私の全力、受け止めてよ。どうなっても知らないけど、ね!」


『眠り姫』が、全力の一撃を振るう。

まともにくらったら、多分死ぬのだろう。けど、オレはオレの信念を曲げたくない。

この一撃、全力で受け止めてやる。


「さあ、来いよ! 全部受け止めてやる!」


口角を上げる。最強は、どんな時でも余裕の笑みを崩さない。死ぬとしても、オレは最強の信念、心得を持ったまま死にたいんだ。


目の前に、『眠り姫』の振るった魔力の塊が迫ってくる。こいつを、全力で……。



アレ?


「本当に、ひどい。こんな有様を許してしまうなんて」


「アハハハハ! やっと来たんだ? 遅い到着だったね」


オレは、『眠り姫』の一撃を受け止められなかった。いや、()()()()()()()()()()()()()()というのが正しいか。


『眠り姫』の攻撃は、オレの元にやってくる前に止められてしまったのだから。


「倒壊してる家の住民の救助をしてたから、遅れた。それにしても、君、魔法少女なのにこんなことして…。これは、ダメ。やりすぎ。だから、止めに来た」


『眠り姫』の一撃を受け止めたのは、唯一のSSランク。最強と言われている魔法少女。



その名も、西條吹雪。


最強の魔法少女が、『眠り姫』と対峙する。

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