イメージ…イメージは全てを解決する…!
とにかく、まずは拘束を解くことからはじめないとな。マーメイドガール無しで固有魔法封じは考えていなかったから、正直ドピンチ中のドピンチなんだが、どうしたものか。
手足は使えない。こういう時に通常魔法ってやつが使えたらなぁ…。使えるかな?
「さて、どうしますか? 流石の貴方でもこの状況は厳しいんじゃないですか?」
……どうにかして使えないものか…。そういや、クララちゃんが魔法少女はイメージが大切だって話をしてた気がする。
イメージ…。イメージ…。状況的には6対1。できれば、数的不利をひっくり返せるような魔法がいいんだが。
「私寝てて良い?」
「できればもう少し起きていて欲しいですが……。まあ、良いでしょう。10分で終わらせられなければ、で良いですかね。では、10分後、起きてください」
「は〜い」
マーメイドガールめ……完全にオレのこと舐めきっているな? ぜろちゃん雑魚説支持者か? 少数説支持者だな。
てっきりあいつはオレのこと警戒しまくってるもんだと思ってたが、多分、作戦が上手くいったからか油断しているんだろうな。
「まあ、1人寝てても5対1。なんならあの人は寝てもらった方がいいからなぁ。さぁ、どうする? 0号」
確かに、人数不利なことに変わりはない。だからこそ、この状況を改善するには…。
「天最強なぜろちゃんには、最強ゆえに数多くの異名があるんだ。そのうちの一つに、こんなのがある…。でーもん・でーもん・でーもんだ。偽名にしちゃふざけてると思うだろ? けど、これには意味があるんだ」
別にないけど、そういうことにする。イメージを固める上で、ロールプレイは大切なんだ。
イメージしろ。魔法少女には、大抵マスコットがいる。この世界にはそんなマスコット見たこともないが。
そう、魔法少女のそばにいるマスコットをイメージしろ。
人数不利なんだ。ならこっちも、数を増やすしかない。
「さあ! いけ! でーもん・でーもん・でーもん!」
「なっ!?」
ぜろちゃんの体から、魔力の塊のようなものが放出される。
…上手くいくか、いや、行く。
イメージだ。イメージだ。
でーもん・でーもん・でーもん…。オレの使い魔よ! 力を貸してくれ!
「まさか、そんなことが…」
魔力の塊は、3つに分離し、黒く丸っこい状態へと変化していく。……少しマスコットのイメージが強すぎたかもしれないな。出来上がったのは、黒くて丸い体に、小さな羽の生えた、かわいらしい『でーもん』達だった。
「うっそぉ……」
とりあえず拘束をとくことからだ。さあ、『でーもん』達よ、オレを拘束しているスパイダー女に総攻撃だ!
「わっ! ちょっ! このぉ……! やめ……」
『でーもん』達はスパイダー女に突撃して、拘束されているオレをスパイダー女から引き剥がす。ぜろちゃん、晴れて自由の身に!
……刑務所に収監されてた人みたいな言い方になったな。
「おいおいおい、冗談じゃねえぞ。そんなちっこい奴らを生み出して『でーもん』とほざくとは。私のイメージ潰しか? こりゃ、本場のデーモン様を見せつけてやる必要があるみたいだな」
みると、オレの前に出てきた3人の魔法少女のうちの1人が、背中から黒い翼、頭には赤い角を生やし、他にも赤と黒の縞縞模様のしっぽみたいなものも生えている。
ああいうの、恐ろしいってよりかは可愛らしいって感じになるんだよなぁ。悪魔ってよりかは小悪魔って感じがするね。
「一応聞くが、固有魔法は封じたんだったよな? 私の目には、あのちっこい悪魔もどきは固有魔法のそれに見えるんだが……」
「そうだよ。確実に私の『完全封毒』で0号の固有魔法は封じたんだ。あの小さいこうもりもどきの存在は、よくわからないなぁ……」
魔法少女ヴァルキリーとかいうのとスパイダー女が何やら話をしているみたいだが、デーモンって魔法少女の相手をしなきゃいけないせいか、会話の内容はよく聞こえなかった。
「さあさあさあ! この魔法少女デーモン様が、本場の悪魔の力ってのを見せてやるぜ!」
見ると、デーモンの手には先が三叉になった槍のような武器が握られていた。イメージ的には虫歯菌とかが持っていそうなそれだ。やっぱあんま悪魔って感じがしねえなぁ。どこまでいっても可愛らしい魔法少女にしか見えない。まあ、Sランクなんだし実力は間違いないんだろうけどな。でもかわいらしいのには違いないし、うん、決めた。
デーモンはこれから小悪魔ちゃんと呼ぼう。
さて、小悪魔ちゃんはどうやら翼を持っているみたいで、空中を自由自在に移動できるみたいだ。空中を動けるということは、それだけ戦略の幅も広がるということでもあるし、当然、ただでさえ人数不利なぜろちゃんが手数の多さで不利を取ることになってしまう。できれば、この差はなくしていきたい。とすれば………。
「でーもんず! オレに従え!」
オレは”でーもんず“……3匹の使い魔のうち、2匹をぜろちゃんず両足の裏にひっつける。そう、相手が飛べるなら、こっちも飛んでしまえばいいのだ。オレはでーもんずの力を借りて、空中浮遊を行う。
「いいぜ! 空中戦と行こうじゃないか!」
小悪魔ちゃんはその翼を振るい、勢いのままにぜろちゃんに突撃をかましてきた。
オレはそれを、自身の手に持つ名刀『桜河坂』で上手いこといなす。
「調子に……乗るなぁ!」
デーモンは槍のリーチを活かして、ぜろちゃんの懐への攻撃を繰り返しているが、残念ながらぜろちゃんには傷一つついていない。
……オレ、空中戦上手くないか? まあ、流石は天最強ぜろちゃんだな! 天最強の名の通り、オレは空中……すなわち天における戦闘の才能もずば抜けているようだ。
「0号、お前の相手はデーモンだけではないぞ」
ぜろちゃんに傷をつけることのできない小悪魔ちゃんを見かねてか、魔法少女ヴァルキリーとやらが乱入してきた。
というか、彼女には翼がないはずなのに、なぜ空中に?…て、とにかく対処しないと。
「…っ!」
ヴァルキリーは手に持つ武器を思いっきりぜろちゃんに振るってくる。対して、オレは『桜河坂』で攻撃を受け止め防御する。……が、正直、彼女の攻撃は重たい。
単純な力勝負じゃ押し負けるだろう。なら……。
「でーもんず!」
オレは3匹いたでーもんずのうち、オレが空を飛ぶために使っていない最後の1匹をヴァルキリーにぶつける。
「チィッ! やはり空中では不利か…」
そのまま、ヴァルキリーは地面へと落ちていく。
といっても、天井もあるし、超高度な場所というわけではない。まあ、死ぬことはないだろう。
「私を…忘れるな!」
「天井からこんにちはぁ! 空中戦に2人参戦だぁ!」
まずい…。3人同時攻撃ときた。小悪魔ちゃんは『桜河坂』で対処して…。
海賊ガールは…ええい殴っちゃえ!
「へぶっ!」
って、顔面にクリーンヒット!?
ごめぇーん! そんなつもりじゃなかったんだってぇー!
「今だぁ! ヴァルさん来てぇ!」
「私は滞空時間が長くないんだ。あまり役割をよこさないでくれ」
オレが小悪魔ちゃんと海賊ガールの対処をしている内に、ヴァルキリーも再び空中へと戻ってきていた。見た感じ、空中に飛ぶ能力を持っているわけではなく、普通にジャンプしてここまできているみたいだ。……どんな脚力してんの?
ってか、この状況普通にきつ……。
へ? でーもんず? ま、まて、お前ら!ばか! ………くそ!
オレの足場になってくれていたでーもんずが、ヴァルキリーとスパイダー女に突撃し出し、足場を失ったオレは、そのまま空中から落下していく…。
どうする? このままじゃオレは地面に叩きつけられてミンチ……までは行かなくとも、あたりどころが悪ければ死ぬだろう。
考えろ……どうすれば、ダメージを受けずに済む?
飛ぶにしても、でーもんずは使えない…。
いや、ある。
飛ぶ手段なら、ある。
思えば、最初からオレはそれを持っていた。
無意識に使ってたし、空を飛んだつもりもなかったが…。
「てんしのつばさ! オレを浮かせろ!」
オレの背中から、真っ黒な翼が生えてくる。花蓮ちゃんには、どっちかというと堕天使と言われた翼だ。
「なっ、何あれぇ!?」
「翼、持ってたのかよ…」
よし、今4人の魔法少女は天井付近に固まってる。
「まとめてやってやる!」
イメージだ。イメージを固めろ。
オレはぜろちゃん。天最強なぜろちゃんだ。今から、ぶっといビームを出して、4人の魔法少女をK.O.してやる!
「ぜろちゃんビー……」
「もう良いですよ、皆さん。10分経ちました」
殺風景なこの場に、マーメイドガールの澄んだ声が響く。
瞬間、銃声が鳴り響き、この場の音を支配し始める。
一体、何が…。
「0号、時間切れ。私はもう……戻れない。逃げるしか…ない!」
隠れていたはずのぶちガールが、なぜか出てきている。
完全に、裏切りがバレてしまう。
「なにして…」
「あいつが……『眠り姫』が起きた時点で、もう何もかも終わりなの! 隠れても無駄! 『眠り姫』は……あいつは……西條吹雪を含めた全魔法少女の中で、最も危険な魔法少女なんだから!」
西條吹雪を含めた…?
今までは、必ず西條吹雪を”除いて“っていう文言がお決まりだった。
それが、西條吹雪を”含めた“…?
「さて、目が覚めた。ねぇ、宇宙人か地底人、どっちが好き? 私は寝たいから地底人。まあ、安心して。死に方くらいは選ばせてあげる」
殴られ担当海賊ガール。