食糧、大事。
おいーっす!
元気ですかー? オ・レ・は・げ・ん・き・で・ー・す!!
先日は最強の魔法少女、西條吹雪に遅れをとってしまったが、まあ、まだ魔法少女としての力を振るったのは数回だけだし、仕方ないかなって。
ただ、できる限り今のうちに潰しておける魔法少女は潰しておいた方がいいかなっていうのはある。
というのも、今現在オレの生活を支えているのは、魔獣の肉と今着ているボロ布(cleanというチート魔法である程度洗浄済み)と、便利ITEMダンボールくんの三つだ。
衣・食・住揃ってるやん! やったぜ!
と思うかもしれないが、しかし舞ってほしい。
うん? 舞う……? 踊るか。
って違う違う。
そう、この衣・食・住のうち、食は安定しないのだ。
というのも、この世界にはたくさんの魔法少女がいる。
彼女達は皆魔法省に登録し、協力し合いながら魔獣を討伐することによって、報酬を受け取っている。
つまりだ。
オレの食糧源である魔獣が、他の魔法少女によって狩られてしまった場合、オレはその魔獣の肉を手に入れることができない。
ん? 倒した魔獣の肉を分けて貰えればいいじゃないかって?
甘いな君は。
まず、オレは最強の魔法少女となることを人生の目標として定めている。
そんなオレが、『すみません、食糧がないので魔獣の肉をください』なんて言ってみろ。
恥ずかしいだろぉ!?
最強の魔法少女たるもの、他者に助けを乞うなんて惨めな真似をするわけにはいかない。
それに、魔法少女達は、魔獣の遺骸を魔法省に持っていくことで、魔獣討伐の報酬を貰っている。仮にオレに少しでも肉を分け与えてしまえば、その報酬が減ってしまうことになるんだ。
で、オレが他の魔法少女に魔獣の肉をくれって頼み込んだ場合どう思われるか。
魔獣の肉を食って生活してる奴がいるなんて思わないだろうし、まず自分の手柄を横取りしようとする卑怯な奴だって思うだろうな。
仮に魔獣の肉を分け与えてもらえたとして、代わりに体で支払ってもらいましょうか。ぐへへ〜みたいな展開になっても困るっていうのもある。
だから他の魔法少女を潰すことにしたのだ。
といっても、魔法少女をムッコロしたりだとか、魔法少女としては活動不能になるような怪我を負わせたりだとか、そんなことをするつもりは断じてない。まあ、少々痛い目にあってもらうことはあるかもしれないが。
オレは善人というわけではないが、悪人というわけでもない。最強の魔法少女になると息巻いてはいるが、精神面で言えば一般ピーポーなのだ。
流石に罪のない女の子達を酷い目に合わせるというのはね……。
じゃあどうするかって話になるんだが……。
っと、どうやら魔獣が出現したみたいだ。
オレの食糧のために、ちょっぴり働くとしますか。
*
淡いクリーム色の髪に、魔法少女らしいフリフリの真っ白で花柄のついたドレスを纏った少女、白花 愛生は、目の前で暴れ狂う魔の獣に太刀打ちすることができずにいた。
愛生の持つ純白で、先に白い花がついた花園の杖も、今回の魔獣の前では何の役にも立たなかった。
本来彼女は、ここで魔獣と戦うべき人材ではない。
魔法少女には、強さ、経験、判断力等々から、それぞれランク付けがされる。
上からS→A→B→C→D→Eといった具合だ(ただし、特例で1人だけSより上のSSランクの魔法少女がいる)。
そして、愛生のランクはDだ。
Eは魔法少女としては蕾で、まだ衣装を纏うことすらできない状態の魔法少女のことを指すため、事実上の最低ランクである。
対して、今回の魔獣のランクはB。
愛生よりも2ランク上の相手だ。
それでも彼女は魔獣と戦った。
本来、戦うべきではないのに。
魔法省からも、格上の魔獣との戦闘は禁止されているのに。
だって、目の前で襲われている人達を見捨てることなんてできなかったから。
魔獣の大きな足が、愛生の体を突き飛ばす。
全身が痛む。
もう何度打たれたことか。
痛い、苦しい、帰りたい、もうやめたい。
でも、彼女は周りを見て思う。
(皆、逃げれたみたい………よかった)
そうだ。彼女が守ろうとした人達は、誰一人として欠けることなく、魔獣の手から逃れることができた。
それだけで、愛生は救われた気持ちになる。
自分の力で、他人の命を救うことができたと、魔法少女になって、人を救えてよかったと。
こちらに向かっている魔法少女も、そんなにすぐには来れないだろう。だから、愛生はもう助からない。
それでも、何もできずに死ねるよりかは、随分とマシな気持ちになる。
ただ。
少し我儘を言うならば。
(もっと…………生きたかったな……)
愛生が倒れているところに、魔獣が足を踏み下ろそうとする。
(私…………今から死ぬんだ………)
無意味だと分かっていても、恐怖から愛生は目を閉じる。
衝撃がいつ来るのか、怯えながらも待つ。
だが、いつまで経っても、魔獣は愛生のことを踏み潰す様子はない。
(あれ…?)
不思議に思った愛生が目を開けると、そこには、大きく禍々しい黒の大剣を魔獣に突き刺す、少し痩せ気味な黒い魔法少女がいた。
「ふーん、結構身あるじゃん。ラッキー」
黒の魔法少女は、愛生に特に目を向けることなく、魔獣の身を剥ぎ始めた。
(何してるんだろう……?)
魔獣討伐後は、魔法省から派遣された人が魔獣の回収を行うため、手をつける必要はないはずなのだが。
「お前、やめた方がいいよ。魔法少女」
「え………?」
魔獣の肉を剥ぎ取りながら、突然そう言ってくる黒の魔法少女に、愛生は困惑する。
魔獣と戦って、せっかく民間人を助けたというのに、どうしてそんなことを言われなくちゃいけないんだろうかと言う気持ちが湧いてくる。
「ん。あのまま戦ってたら、お前死ぬぞ? 今だってオレが助けにこなくちゃやられてただろうしな。悪い事は言わないから、魔法少女なんて今すぐやめて、普通に生活しろ。じゃあな」
黒い魔法少女は、そう言って愛生の元を去っていく。
(もしかして、心配してくれて言ってくれてるのかな……?)
さっき黒髪の魔法少女は、“助けにこなければ死んでた”と言っていた。
ということは、もしや愛生のことを助けに来るためにわざわざやってきてくれていたのだろうか。
事実、この魔獣の討伐には、山桜 花蓮という魔法少女の先輩と、視診 美鈴という、愛生と同期の魔法少女の二人のはずだ。
花蓮のランクはAで、中々の実力者で、美鈴はCランクではあるが、花蓮のサポート役として共に行動をしているらしい。
(本来、戦闘を指定されていない魔法少女が勝手に魔獣と戦うことは禁止されてる……ってことは、やっぱり私を助けるために、わざわざ規約を破ってまで…………)
愛生は黒の魔法少女に対する好感度が上昇する。
黒の魔法少女が、実際はただ単に食糧調達にやってきただけだということを、愛生は知るよしもなかった。