まさかまさかのSランク!?
クララちゃんにマーメイドガールを呼びつけてもらって、現在待機中の天最強の異名で巷で有名なオレことぜろちゃん。
暇なんでちょくちょく時間停止使って暇つぶししてたんだが、よくよく考えたら時間停止使ってたら時間経過しなくなっちゃうし、暇潰せてなかったんだよね。
というわけで今は誰も使ってない廃工場内でぼーっとしとります。
まあ、廃工場にしたのも、できるだけ周りの迷惑にならないようにっていう配慮のつもりだったんだけど……。
迷惑かな? 工事とか、そういうのあるかもだし……。
まあ、マーメイドガール呼んでる時点で、政府がなんかしとるやろ! 大丈夫や。考えるのやーめた!
………暇だなぁ………。
「ひまひまひーま……」
一応ぶちガールも近くに待機してるんだが、ぶちガールをマーメイドガール達と対面させるわけにはいかないからな……。
「へー。クララちゃんに呼ばれたから来てみましたが、まさか本当にいるとは」
あ、マーメイドガールだ〜! やっと来たか。今まではこいつの顔を見たくもなかったが、今は仏様に見えるくらいには来てくれて嬉しいと感じてしまっている。人間って不思議だなぁ。
「まあ、ぜろちゃんは最強だからな! 追われ続けるくらいなら一度徹底的にたたきのめして実力差をわからせてやった方がいいと思ったんだ」
見栄ならいくらでも張ってやる。ぶちガールの腕を取り戻すには、マーメイドガールの『無効詠唱』が必要なんだからな。
怪しまれずに『無効詠唱を使ってもらおうと思ったら、なるべくマーメイドガールに不審がられない必要がある。
「…。今まで散々逃げ続けた0号が、今更何を? やはり、何か裏があると思った方が良さそうですね」
…まずい、疑われてるな…。でも、マーメイドガールは理解しているはずだ。固有魔法を使わないと0号に逃げられるってな。
「そりゃ、西條吹雪が最近は追ってこないからな。ぜろちゃんは当然あの最強の魔法少女とか言われてる奴にも勝てるが、それでも最強の西條吹雪+複数人の魔法少女の相手は疲れるからな」
最近西條吹雪が追ってこないのは事実だ。前も頻繁ってわけではなかったが、明らかに最近は西條吹雪と会っていない。まあ、忙しいんだろうな。唯一のSSランクらしいし。
「…ふむ。やっぱり不可解です。1号と2号という足枷がなくなったから……? いえ、むしろ0号は自由を好む性格のはずです。必要もないのに自ら戦闘を行うとは思えない」
なんなんだこいつは。変に思考を働かせないでくれよ。やっぱオレとマーメイドガールの相性は最悪かもしれない。マーメイドガールが仏様と言ったな、あれは嘘だ。
「まあ、もうそろそろいいでしょう。“全ては平和のために”」
マーメイドガールは『無効詠唱』を使うことなく、ただ一言、合図のような言葉を発する。瞬間、静寂に包まれていたはずの付近から、何者かが蠢いている音が聞こえてくる。おそらく、マーメイドガールが呼んでいた仲間だろう。当然と言えば当然だ。事前にオレと邂逅することが分かっているのに無策で1人やってくるはずがない。
「やるしかないな」
マーメイドガールに固有魔法は使わせられなかった。オレから呼んでおいて逃げるはずがないと思ったのだろうか。
「つ〜かま〜えたぁ。なぁなぁ、気付かなかっただろ? そりゃそうだよなぁ? 周りばっかり気にして、天井の存在まで気が回らなかったよなぁ?」
……油断した。マーメイドガールを注視しつつ、周囲にも気を配ってはいたんだが、確かに、天井のことは考えていなかった。というか、足音の数的に5人はいるな。マーメイドガールを含めたら6人か。まあ、潜んでいるはずのぶちガールが足音を立てていなければの話だが。
「で? お前は誰だ? ぜろちゃん的には初対面はじめましてな気がするんだが」
オレはつとめて冷静にそう問いかける。余裕そうな態度をとっておかないと、マーメイドガールに『無効詠唱』を使わせられないからな。
ぶちガールの治療のために、『無効詠唱』は使わせないと。
「ふっふっふ、どうやら彼女の固有魔法を発動させたかったようだけど、残念ながら、それは叶わないんだなぁ。代わりに、この私の固有魔法を味合わせてあげよう! そう、私は、Sランク魔法少女が1人! 毒を扱うポイズンエキスパートで、壁や天井、どこでも移動できる通称“蜘蛛の足”を持つスパイダー人間! その名も魔法少女スポイズダー! そしてそして、私の固有魔法は完全封毒。体が触れている相手の固有魔法を、一定時間使用不可能にする固有魔法だ!」
なん……だと……?
固有魔法封じが、マーメイドガール以外にもいたのか!?
そして、オレの前に1人の少女が現れる。
「けっ。いい気味だな0号。そうだ、聞いて驚け、お前は美澄を読んで何かしようとしていたみたいだが、お前が来ると聞いて、5人のSランク魔法少女が派遣されることになった。おっと、今回は仲間割れには期待するなよ? 全員0号の事情を完全に理解した上でここに来ている奴らだからな」
こいつは……。この子は……。海賊ガール…。
オレが顔面を殴って、一方的に罪悪感を持ってしまっている相手だ。
海賊ガールを機に、ゾロゾロと3人ほどの魔法少女がオレの前に顔を出す。この子らがSランク魔法少女なんだろう。
「自己紹介と行こうか。私の魔法少女としての名はヴァルキリー。『第1世代』の魔法少女と呼ばれることもある。……この歳になっても魔法“少女”と名乗ることに抵抗はあるが………仕方ない。それしか呼称しようがないのだから。君の境遇には同情する。が、容赦はしない」
「デーモンだ。残念なことに、『第2世代』の魔法少女なもんでな。ヴァルキリーと違って尊敬されることはない。なんなら『第1世代』のエンジェルを意識してるとか言われて炎上したことすらある。ってわけで魔法少女不人気ランキングなら上位を取れる自信があるぜ。なんたって私は性格が終わってるらしいからなぁ。ま、私の評価を上げるためにも、お前には死んでもらうなり、捕まってもらうなりしてもらうぜ、0号」
「眠たいなぁ。寝たいなぁ。早く寝たいから、早く諦めてね。お前がどうなろうと、私には関係ないから。とりあえず、私の安眠を、邪魔しないで? え? 自己紹介? した方がいいの? どうせ死ぬのに?」
「逃げられた時のために顔と名前だけでも覚えてもらっとけって。もしかしたらこいつ経由で私らの名前が売れるかもしれないんだからよぉ」
「んー、0号経由で名前が知られたとて、多分不評が広まるだけだと思うけど……。てかSランクの時点でそれなりに有名人でしょ。そんなことより寝たいなぁ」
しかし、5人のSランクか。目の前の3人と、オレを拘束してる奴と、あと誰だ?
「なあ海賊ガール。オレの目には、Sランクは4人しか見えていないんだが、あと1人はどうした?」
「………そっかぁ。お前にとっては私なんて取るに足らない存在だから、私の情報なんて収集しないかぁ……。ふふ。そうだよ。確かに、前の私はAランクだった。でもね、魔法省は新たに3人の魔法少女にSランクの称号を与えたんだ。魔法少女“ストロベリーフェニックス”、魔法少女“ホワイトブロッカー”、そしてこの私……魔法少女“パイレーツリヴェンジャー”をさ!!」
ま、まさか……。海賊ガール、お前が…。
お前が、まさかまさかのSランクにぃ!?
「まあ、私はAランクのままなんですけどね……」
お前はSランクちゃうんかい!
「寝て良い?」
「寝るな!!」
あ、いや? オレからすれば寝てもらった方がいいのか? 寝てくれた方がありがたいのか?
もうわかんねぇ!!!