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ぜろちゃんどす

ぜろちゃんどす。

ほい、ぜろちゃんどす。


というわけで、いちごちゃんとにこちゃんはSランクさんに保護されちまいましたので、ぜろちゃんは1人寂しくソロプレイをしておりますよ。


んでだ。オレが単独行動するにあたって、気をつけなければならないこと、それはただ一つ。


マーメイドガールだ。

マーメイドガールは、『固有魔法』を封じてくるため、ぜろちゃんの時間停止を無効化してくる。その関係上、ぜろちゃんを差し置いて最強だとか言われている西條吹雪から逃げることなんて朝飯前のぜろちゃんが、最低ランクの魔法少女にすら逃げられなくなってしまう状況を作りかねない奴なのだ。


もちろん、そんな激ヤバ魔法少女たるマーメイドガールに対抗するには、『固有魔法』頼りというわけにはいかない。


そのため、オレことぜろちゃんに求められるのは、純粋なフィジカルの強化か、通常魔法の練習といったところだ。


まあ、ぶっちゃけ魔法なんててんで分からんので、フィジカルの強化という方向性に舵を切ることにしたんだけどね。


では、具体的にどう強化していくのか。

ジムで筋トレ? それも悪くないが、いくら鍛えて強靭な肉体を作り上げても、それを活かす技術力がなきゃ戦ってはいけない。


ので、技術を盗むことにしました。

具体的に言うと、いちごちゃんとにこちゃんの保護をしたSランクの魔法少女、風薙刹那の動きとかその他諸々丸パクリをするってことにした。


「くくく……! 風薙刹那よ、ぜろちゃんの礎となるがいい…!」


ぜろちゃんは木の上から、とある少女を観察している。そう、Sランク魔法少女である風薙刹那のことだ。こんなところから見られているとは知らずに、呑気に1人で修行をしているとはな! 好都合だ! お前の技術も、このぜろちゃんがありがたく使わせてもらうぞ!


「さて、まずは基礎的なところから…」


しかもこの風薙刹那という少女、ご丁寧に解説付きで修行をこなしているのだ。ここはこうする、なんでこの動きが必要か、など、具体的に話しながら実演しているので、ぜろちゃんにとっても技術を奪いやすくて助かっているのだ。


まあ、ここ数日観察しておいて、基礎的な部分とかはある程度理解はした。実際に活かすという段階には来ていないが、それでも理解自体はしているので、あとは再現するだけだろう。


といってもそれはあくまで基礎的な部分に関してのみだ。本当の意味で技術を盗むなら、もう少し観察は要することになるだろうな。


「はあ……。結局私には、これしかないからなぁ」


なんか独り言を話しているが、これは技術を盗む上で関係なさそうなので特に聞く必要もないだろう。とにかく動きを見ておく。基礎訓練の最終確認も兼ねて、しっかりと観察は怠らないようにしないとな!


「本当は私は魔法少女でもなんでもないのに、でもこうして魔獣と戦えている。おかしいよね、これって。政府は魔獣には魔法少女しか対抗できないって、そう言ってるのに」


基礎魔法の訓練的なのもしていきたいんだけど、この風薙刹那という子、全然魔法を扱う気配がないんだよなぁ。脳筋な魔法少女なのかね? まあ、割とどうでも良い話だが。あ、この動きはあれだな、回避動作の一種だな。


「本当は、一般市民でも戦えるんだ。私が扱ってる刀みたいに、適正な道具さえ備えれば、誰でも」


そういえば魔法少女オクトパンダだかオクトパスタだかが、西條吹雪を除いて最強の魔法少女は、魔法少女レなんちゃらだとか言ってた気がするな。名前覚えてないけど、基礎的な魔法に関してはそいつのを参考にしても良いかもしれない。

といっても、刹那みたくこーんなところで無防備に訓練なんてことしてるのかどうか怪しいから、技術が盗めるかどうかはまた別の話なんだけどね。


「でも、効率的には魔法少女が対処した方がいい。政府はそう考えてるから、魔法少女に対処させようとしてる。一般市民でも戦えるって知られたら、真っ当な大人達は子供を守るため、彼女達の代わりに闘おうとする。そんなこと、政府は望んじゃいない。魔法少女達に対処させて、大人達には大人達で、働いてもらいたい。だから、未成年の子達が、魔獣退治なんて危険な任務に駆り出されてる」


大人がどうこうとか言ってるけど、なんの話してるんだろ? というか、なんか今日はいつもと様子が違うな。全然動きの解説が入らないぞ。まあいいか。ほとんど理解はしてるし。


「……人工の魔法少女のことも、調べた。死んでも問題のない、使い捨ての兵器として扱うために作り出された存在。計画書には、最初に作り出したプロトタイプ型の人工魔法少女が活躍したと書いてあった」


この動きはあれだな、カウンターだ。でもあくまで対魔獣用のだから、対魔法少女においては使えない技術だ。そもそも、魔法少女同士で戦うっていう経験が彼女にはないっぽいからなぁ……。まあでも動き自体は参考になるし、覚えておいて損はないだろう。


「0号も1号も2号も、政府がプロトタイプの成功を再現しようとして生まれた存在なんだ。プロトタイプの成功例があったからこそ、同時並行で3人の製造を進めたのかもね。まあ、結果は全員逃亡って形になったわけだけど」


うーん。でも、動きについては観察して理解できてるんだけど、実践はできてないんだよね。まあ、Sランクの魔法少女もぜろちゃんを捕まえる命令的なのは下ってるっぽいし、そいつら相手に試してみてもいいんだけど、仮にもSランクだしなぁ……。ぜろちゃんの実力じゃ手も足も出ずに終わってしまう可能性がある。戦果ぜろちゃんになっちゃうわけだ。


「私はね、1人でも多くの人に戦い方を知っていて欲しいって思ってる。積極的に戦わなくてもいい。でも、無力な一般人にも、魔獣に対抗できる手段はあるんだって、知って欲しい。けど、私は“魔法少女”って肩書をつけられてるから、私がいくら主張しても、届かない。だから……」


風薙刹那は、急に修行をやめて、ぜろちゃんが潜伏している木の上辺りを見上げてくる。


い、いやまさかバレてたとかはないよな…? 葉っぱで隠れてるし、ぜろちゃんの潜伏技術はあの最強魔法少女の西條吹雪に見つからないくらいの完璧なもののはず……。たかがSランクの小娘なんぞに見破られるようなほど、ぜろちゃんず潜伏力は低くないはずだ。


「せめて魔法少女にだけは、その技術を知っていて欲しい。0号、君にはその、先駆けになってもらうよ」


ば、ばれてーら。ま、まて! まだブラフという可能性がある! だってそうだろう。ぜろちゃんの潜伏は、今の今までバレていなかったはずだ。刹那は修行中に独り言を言うような子だ。あれだ、授業中に教室内にテロリストが入ってきて撃退する妄想とかしてたタイプなんだろう。そうだ、そうに決まって…。


ひっ! 刀が飛んできた!? 


「今失礼なこと考えたでしょ?」


「滅相もございませぬ」


別に一回死んでるし死ぬこと自体に恐怖はまーったくないのだが、木の上でニンニンしてたら潜伏バレて殺されちゃいましたってのはダサすぎる。最強にもなり損ねてるし、死ぬならもっと派手にだなぁ…。


ふっ、オレが最強になった理由か? 欲しけりゃくれてやる。さがせ! この世の全てをそこにおいてきた! くらいは言いたいよね。どこの海賊漫画だって? いいじゃないか、いつだってロマンを求めるものなのだよ、漢ってやつはな。


「とりあえず、ここ数日間私の動きを観察してたでしょ? その成果、私に見せてみてよ」


ぜろちゃんの潜伏全部バレてたんかい。









刹那とぜろちゃんは対峙する。互いに自身の愛刀を持って、構え、その時を待っている。


「にしても、その刀、どこから取ってきたの? さっきまで持ってなかったように見えたんだけど……」


「名刀『桜河坂』はぜろちゃんの意思を汲み取って、使いたいと思った時にいつでもどこでも駆けつけてくれるからな。ピンチに陥っても、いつでもどこでもぜろちゃんの元に届いてくれる、最高最強の相棒だ」


「え、なにそれすっご……」


嘘である。実際にはぜろちゃんが『時間停止』を使って息切れしつつも全速力で『桜河坂』の保管場所まで駆けつけてここまで戻ってきている。その間かなりの時間が経過しており、息切れもしていたため息を整える時間も要していたが、『時間停止』中であったため、その様子を刹那が知り得ることはない。


「さて、さっきは刀投擲とかいう不意打ちを喰らったからな。先制はこのぜろちゃんに譲ってもらうぞ!」


宣言通り、ぜろちゃんは刹那に対して先制攻撃を仕掛ける。当然刹那もそれに対応するが、彼女の予想を上回る事態が起きていた。


(この子、想像以上に私の動きをトレースできてるっぽいね…)


ぜろちゃんは、ここ数日で刹那の動きを真似ることに成功していた。つまり、当初のぜろちゃんの目的である、技術を盗むことはすでに達成していた。


(すごいなぁ……。でも、動きを真似るだけじゃ…!)


しかし、刹那もただ負けてはいられない。ぜろちゃんの動きは、元を辿れば全て刹那の技術によるものなのだ。当然、それに対する対応策も用意している、が……。


「そうくると思ってたぞ! なんせぜろちゃんは最強だからな!」


数日間、刹那を観察してきて、ぜろちゃんの方もある程度風薙刹那という人間の癖を見抜いていた。

刹那はこの自身の技術に対する対応策をぜろちゃんに見せたことはない。だがしかし、数日間の観察の経験によって、ぜろちゃんは自然とこの刹那の対応策を想起し、その動きを想定していたのだ。


(思った以上にすごいなこの子!)


それに、ぜろちゃんはただ刹那の動きをトレースしたわけではない。

ぜろちゃんの目指す姿は、孤高の最強である。そこに、誰かの技術の丸パクリなどによって到達した最強の姿はない。


ぜろちゃんは、あくまで技術の盗用を行い、それを我流に組み替えることを目的としている。

自分のない最強など、ぜろちゃんの求める最強像とは程遠かったためだ。


(なら、私も本気で行くしかないかな)


そんなぜろちゃんの様子を見て、刹那はぜろちゃんに一度も見せたことのない、必殺の一撃を使うことにした。


「全力で行くよ!」


本気の構えをし、ぜろちゃんにむけて必殺の一撃を放つ。

必勝の一撃。一応、対抗策がないわけではない。刹那の一撃に対して、同じようにこちらに向かって突撃すれば、この必殺の一撃を回避することは可能である。

しかし、そんなことは刹那も理解している。

だからこそ、動きで魅せる。こちらに向かってくれば待っているのは死であると、相手にそう思わせる。


唯一の回避方法は刹那に向かって同じように攻撃することだ。だが、一見それを行うのは自殺にも等しい行為だと思わせるような技として作っている。


そのため、相手が取る行動は突撃せずに刹那を避けるか、防御耐性を取るかの二択。しかし、この必殺の一撃は、そんなものをもろともしないように、刹那が何年も掛けて編み出したものだ。


先程の刹那の対応策とは違い、たかが数日間の観察をして、癖を掴んだところで、見抜けるような技ではない。


だからこそ、刹那は勝利を確信していた。この技が破られるようなことなど絶対に存在しないと、そう信じて疑わなかった。だが…。


「くしゅんっ!」


ぜろちゃんは向かってきた。刹那の必殺に怯むことなく、ただ真っ直ぐに。


(なっ! どうして…!)


そのままぜろちゃんは、その頭を刹那の頭へとぶつける。


「いっ!」


予想外の頭突きをかまされた刹那は、朦朧とした意識の中で思う。


(まさか……これすら破られるなんてね……。想定以上だったよ、0号……)


そのまま、風薙刹那は意識を失い、その場に倒れ込んだ。


「くしゅんっ!」


その場には、なぜか涙目になりながらティッシュで鼻を噛むぜろちゃんの姿があった。


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