最強には師匠もいらない
あー、ファミレスで食事を取るなんて久しぶりだなぁ……。
どうもぜろちゃんです。さっきまでSランク魔法少女達にモテモテだったんですけど、制服の子に連れ去られたので、モテ期が終了しました。
で、気づいたらファミレスで4者面談してました。うんなんで?
「自己紹介が遅れたね、私の名前は風薙 刹那。一応Sランクの魔法少女って肩書きは持ってるけど、ぶっちゃけただの一般女子高生だよ」
制服の子は花の女子高生でした。というか、さっき戦った時あきらか一般女子高生とは思えないような動きをしてたんだが…?
「あの……要件をはやく言ってくれない? 私達、別に貴方のこと信用してるわけじゃない……ので」
「うまい…! 刹那、有能。私に美味しいご飯をくれる。良い人」
いちごちゃんが警戒心MAXで制服の子あらため刹那ちゃんに言葉を投げかけるが、刹那ちゃんの隣では完全に餌付けされてしまったにこちゃんが笑顔で食を楽しんでいるので、険悪な雰囲気にはなっていないみたいだ。
「要件かぁ。まあ、端的にいうと、私が君達の後ろ盾になろうかなって思ってさ」
「後ろ盾…?」
「そう。私、何故かSランク魔法少女って肩書きを貰ってるからね。君達を風薙刹那の監督下に置いてるって体にして、政府が簡単に手出しできないようにしようってわけ」
なるほどな。それなら確かに、政府はもう追手をよこそうなんてしないわけだ。ただまあぶっちゃけぜろちゃんマインド的には政府の追手がこようがこまいが、逃げればいいし、そんなに切羽詰まった問題でもない。第一、最強を目指している身であるわけだから、誰かの庇護下に入るのなんてごめんだ。
けど……。
オレは隣に目をやる。
今のオレは、もう一人じゃない。
隣にいて戦ってくれるいちごちゃんや、守らなきゃいけないにこちゃんがいる。
オレの勝手なプライドを優先して、いちごちゃんやにこちゃんに辛い思いをさせるわけにはいかない。
いや、別に二人がどうなろうと、ぜろちゃん的には関係ないことなんだけど、今は仲間だからな!
「ねえ、ぜろちゃん、どうする…?」
いちごちゃんが、オレに聞いている。オレに、選択を委ねてきてくれている。
オレを、頼りにしてくれている。
いちごちゃんやにこちゃんは、政府の追手に苦しめられてきた。研究所で、薬漬けにされて、辛い思いをしてきた。
それが、Sランクの監督下に入るとなれば……。
もう、そんな思いをしなくても良いかもしれない。
「分かった。それじゃ、ありがたくSランクサマの監督下に入らせてもらうことにする。ただし、条件……というか、話しておきたいことがある。オレと、その、刹那さんだけでだ」
*
とりあえず、ファミレスを出て、オレ達は少し歩いたところで、話をすることにした。場所は公園。人もいるが、いちごちゃんとにこちゃん達に少し離れてもらっていればそれでいい。
「それで、条件だっけ? それを聞かせて欲しいんだけど」
いちごちゃんや、にこちゃん達が苦しい思いをしてしまうのは、駄目だ。それは避けなければならない。けど、オレはオレ自身のプライドも捨てられない。だから。
「刹那さんの監督下に置くのは、いちごちゃんとにこちゃん……。政府からは多分1号2号って呼ばれてるあの子ら2人だけだ。オレは……0号は入れなくて良い」
「へー」
瞬間、首筋にもの凄い殺気と、風圧を感じる。一瞬の出来事で、感知できなかったが、後から顔を下に向けると、オレの首元に刀が迫っているということが分かった。
「私にも碌に勝てないのに、1人で逃げ回ろうって? 危険だよ、それは。今の、あえて殺気を込めて振るったのに、君は反応できなかった。どんな大層な魔法が扱えるのかは知らないけど、これに反応できないなら、Sランクとまともにやり合うどころか、逃げることすら叶わないと思うけど」
どうやら、本気で殺す気でやってきたわけじゃないようだ。刹那ちゃん自身の言動や行動から見るに、彼女は善人と判断して良いだろう。これなら、安心していちごちゃんとにこちゃん達を任せられる。
「忠告ありがとうよSランクサマ。けどあいにくぜろちゃんは最強なんでな! ただじゃ死なないし、Sランク相手に負けるつもりは毛頭ない。なんたって西條吹雪ですら仕留められなかった最強の魔法少女だからな、オレは」
刹那ちゃんは刀を仕舞う。納得してくれたってことだろうか?
「まあ、君がそう思うのは自由だよ。けどさ、私が何の条件もなしに君達を保護してやろうだなんて考えると思った?」
彼女の纏う雰囲気が変わる。
ファミレスで話していた時は、どこか隙を感じる、穏やかな雰囲気を醸し出していたのに。
今の彼女は……、底知れない。
穏やかとは正反対の、不穏の塊だった。
「……それは…どういう意味だ?」
「簡単な話だよ。私、タダで君達を保護してやろうって思えるほどお人好しじゃないんだよね。だから、いちごちゃんとにこちゃんの保護には条件がある」
条件、か……。オレにできる事なんてそこまで多くはないと思うんだが……。
「なーんてね。ちょっとびびらせてみたけど、条件なんて大層なものはないよ。ただ、もし君だけが私の名による保護を受けたくないっていうなら、せめてこれだけは受け入れて欲しいかなって程度のことはあるけどね」
「…?」
「君が強くなるために、私が直々に修行をつける。君が私の保護下に入らないなら、Sランク以上の魔法少女にも対抗するための力が必要になってくる。私が守ろうにも、君はそれを望まないみたいだし、麗華あたりなら君に危害を加えないように口添えすることはできるけど、他の子はちょっと厳しいからね」
なるほどな。やっぱりこの子は悪い子ではなさそうだ。どこまでいっても、こちらのことを考えて行動してくれている。
けど、申し訳ないが、やはり気に食わないことはある。
「ぜろちゃんの実力を侮ってもらっては困るな……。ぜろちゃんは最強といわれる西條吹雪に(逃げ切るという意味では)何度も勝ってるんだ。今更Sランクの魔法少女がやってきたところで、ぜろちゃんにとっては何の脅威でもないからな。修行は必要ない」
ぜろちゃんにだってプライドはあるのだ。そもそも、保護を断ったのだってぜろちゃんのプライドが誰かの下に付くということを許さなかったからだ。だから、上から目線で修行をつけてあげようだなんて提案に乗るつもりはない。
大体、Sランクの魔法少女はぜろちゃんにとっては何の脅威にもならない。時
間停止を使えばすぐに逃げられる存在だし。
問題なのはマーメイドガールだけだ。あれの固有魔法さえなければ、Sランクだろうが西條吹雪だろうがこの最強無敵のぜろちゃんの敵ではない。
というか、師匠にするなら歴戦の猛者感のあるお爺ちゃんキャラとか、無精髭の生えたおっちゃんとか、そういう幾度となく修羅場を潜ってきた感じの人がいいんだ。女子高生が師匠なんてオレは認めないぞ!!
「あー…………なるほど……。それは、すごいね」
何だその懐疑的な目は。別に嘘は言ってないからな!
実際に西條吹雪に鬼ごっこで勝ってるんだからな!
「まあ、つまりだな。最強たるぜろちゃんには保護も修行もいらない。ただ、最強じゃないいちごちゃんやにこちゃんには保護が必要だから、そういう方向で話を進めてもらえると助かる」
「おっけーおっけー。わかった。そうだね。私なんかが修行をつけるなんて烏滸がましかったよね。なら、この話はいちごちゃんとにこちゃんの保護を私がする、それでいいかな。あーっと。これは独り言になるんだけど……」
わざわざ独り言と前置きしてまで、何を話そうとしているんだろうか?
急に殺気を出してぜろちゃんず反射神経を試したり、不穏な空気を出して脅かしてきたり、本当に読めないなこの人。
「私、たまーにここら辺で1人で修行みたいなことしてるんだよね。それで、私って独り言がよく漏れちゃうからさー。私自身の動きの解説とか、体の動かし方の解説とか、無意識にしちゃうんだよね。まあ、参考になるかはわかんないけど、これでもSランクとかいう肩書もらってるし、真似したら強くなれるかもしれないね。まあ、真似する人なんていないだろうけど」
………へー。
ま、まあ、別に直接修行をつけてもらうわけじゃないならセーフだよな……?
他人の分析をして良いところを取り入れる。それは強者、最強でもすることだよな?
うん、まあ? ぜろちゃんは最強だから西條吹雪にも勝てるし? 別に参考にするようなことはないかも知れないけどさ?
やっぱりさらなる最強というか、さらに上の世界を目指すなら、どんな素人の考えでも積極的に取り入れるべきだと思うし?
時間停止以外の強みを持っておくべきではあるよな、うん。
たまーにのぞいておこうか。一応な。うん。一応だ。
「それじゃ、私はこれで。あ、一応言っとくと、私の名前を使って政府に手を出させないってだけだから、別にいちごちゃんとかにこちゃんと一緒にいてもいなくても君の自由だからね。まあ、2人が何か困ってたら手を貸すようにはするから。そういうことで」
*
「あ、明日テストなの忘れてた。マジかー。うわ、マジかー! 2人のこと報告しとかなきゃだし、勉強してる暇ない……終わった……」
ぜろちゃんと話し終えた刹那は、ふと明日に迫っていた学校行事を思い出し、絶望する。そんな彼女の心境を知ってか知らずか、長く艶やかな黒髪を腰あたりまで伸ばし、背筋を正した、由緒正しき家庭に生まれた御令嬢のような容姿をした女が、刹那に話しかける。
「どこまで顔を突っ込めば気を済むの? 貴女は」
彼女の名は、味嘗美 麗華。魔法少女レディ・オールフリーと呼ばれる魔法少女として活動しており、そのランクはS。西條吹雪を除けば、最強の魔法少女だ。
「麗華か。仕方ないでしょ。私はね、父に誇れる自分でいたいの。だから、曲がったことは許せない。ただそれだけだよ」
「だからって……いくら何でも……馬鹿よ。貴女は、本当は魔法なんて扱えないのに」
風薙刹那は、確かにSランクの魔法少女だ。だが、彼女はその肩書きを持っているだけで、実際の所、魔法少女でも何でもない。彼女は、魔獣を狩ることができる魔法の道具である刀を使用して、剣技だけで魔獣退治をしているだけの、一般人なのだ。
「そうだね。私は風薙流一本で魔獣狩りをしているだけの一般人。魔法少女みたいに、奇跡みたいな力を振るったり、超常現象を起こせるわけじゃない。でも、それが何?」
「私が全部やるから、貴女はもう戦うのをやめなさい。魔法を扱えない一般人なんて、足手纏いなのよ。魔法少女と連携をとるために、いちいち翻訳機を用意しなければならないもの。大体、私がいるのよ? 私レベルがいれば、魔獣なんて脅威でも何でもないわ。だから……」
魔法少女には変身した時点で一定の認識阻害が施される。魔法少女同士であれば、その効果は薄く、適用されていないも同然の効果となるが、一般人においては、元の少女と変身後の魔法少女が結び付かなくなるようにはなっている。
また、魔法少女が一般人に話しかける際は、自身の魔法力を消費しなければ、認識阻害によって何を話しているのかわからなくなってしまう。そのため、刹那は戦闘の際、常に耳に魔法少女との連携をとるための翻訳機を取り付けなければならないのだ。
麗華の言っていることは筋が通っている。だが、麗華が1番気にしているのは、刹那の身の安全だった。そのことを刹那も感じ取る。
「心配してくれてありがと。でも、私は戦うのをやめないよ。だって、幼馴染の麗華が頑張ってるのに、私が何もしないわけにはいかないからさ」
しかし、刹那の意志は固く、折れそうにない。昔からそうだった。捻くれ者の麗華は、常に周りに敵対者を作ってしまっていた。だが、刹那だけは、麗華に構うことをやめはしなかった。刹那は、周りに流されて意見を変えるような真似はしない。どこまでも自分勝手で、頑固者なのだ。
「はぁ……。本当に、馬鹿。わかったわ。そこまでいうなら、私は余計なお節介はやめておく。ただ、私も言わせてもらうわ」
「何?」
「幼馴染の刹那がやっているのに、私が何もしないなんてわけにはいかないでしょう? 1号と2号の面倒は私も見るわ。ついでに、2人がSランクの庇護下になんて入らなくても良いくらいの実力を身につけれるようにしておくわ。風薙刹那の名前だけで、1号と2号の面倒を見切れるとは思っていないもの」
麗華自身は、他人のことを気にかけるような性格ではない。だがしかし、彼女は自分の身の回り、身内には甘い。だからこそ、刹那の行動を尊重した。
「ありがとう、麗華。麗華がいてくれると頼もしいよ。あとさ、話変わるんだけど」
「何かしら?」
「明日テストなんだよね、助けてくれない?」
「やっぱり貴女戦うのやめなさい。学業優先よ」
「ま、待って! 確かにこれは私が悪いけど! 待って! ちゃんと勉強するから!」
しかし、彼女達も、まだただの女子高生であることには変わりなかった。