ぜろちゃん、無力なり…。
Sランクの魔法少女、かー。
全然知らないなぁ……。今まで追っかけられたこともなかったし、本当に彼女らとは接点がない。西條吹雪にはたまに追っかけられてたけどさ。
逃げるってだけなら多分なんてことない。ぶっちゃけ、西條吹雪とかも時間停止でどうにかなるし。だから逃げにくさtierで言うと、Sランク魔法少女もS tierじゃないかもしれない。ちなみに逃げにくさ tierSSランクはマーメイドガールだ。
「魔獣がみるみる減っていくなぁ……」
「多分、私達はもうここにいなくてもいいんじゃない? 変にSランクの奴らに絡まれるのも面倒くさいし」
「だなぁ……。にこちゃんとも合流しなきゃだし」
とりあえずオレ達はこっそりこの場を去ることにしよう。見た感じ、Sランクの魔法少女がいればこの場はどうにかなりそうだし。魔獣の肉大量ゲットのチャンスではあるけど、Sランクの魔法少女の中にマーメイドガールみたいな奴がいないとも限らないし、大人しく撤退しとくのが吉ってもんだろう。
追手も特にいなさそうだし、時間停止は使わなくていいかな。忘れがちだけどあれ、一応寿命削るっぽいからね。まあ、多用してるけど今のところそんな兆候はない。ぶっちゃけ代償とかあってないようなもんだ。よゆーよゆー。
とりあえず変身解除しといて……。
「もうボロ布じゃないんだ……」
「まあ……また窃盗がどうしたこうしたで揉めるのも面倒くさいからな」
さて、元の場所に戻って、そこでにこちゃんと落ちあわないとな……。というか、だいぶ時間が経ってるからなぁ……。にこちゃん泣いてないかなぁ……。やっぱあそこでいちごちゃんと喧嘩しちゃったの、よくなかったかもしれないなぁ……。
「ぜろちゃん危ない!!」
そんな風に頭を悩ませていると、突然横からいちごちゃんが抱きついてきて、そのままオレは地面に倒れ込む。
「な、なんだ…?」
「0号、だっけ? 私達が魔獣と戦ってる間にこっそり逃げようって魂胆だろうけど、そうはさせない。私達はちゃんとお前の事情を知った上でこの場に来てるんだから」
「あの拳銃を持ってるSランクのあいつ。私達が動き出したら、急にこっちに銃を向けてきて……」
つまり、オレに向けて弾丸を放ったんだな……。そして、その弾丸からオレを守るために、いちごちゃんはオレに倒れ込むようにして抱きついてきたわけだ。
……ふーむ……。0号って呼んでたし、どう見たって黒だなこりゃ。
こいつらも、政府側の人間ってことか…。
ていうか、あいつらもうあの量の魔獣の処理を終わらせたのかよ。
「いちごちゃん、とりあえず逃げるぞ。べ、別にビビってるわけじゃないからな? Sランクだから勝てないとかそういうわけじゃないからな?」
「はいはい。分かってるから」
オレはすぐさま時間停止を発動しようと思ったが、ふと、Sランクの魔法少女のうち、ハルバードを振り回していた少女が、何か人のようなものを抱えていることに気づく。
まさかあれは……。
「にこちゃん…?」
「な……嘘でしょ!?」
オレ達と逸れている間に、捕まってたのか…。
ちょっと目をはなした隙に……。でも大丈夫だ。時間停止さえあれば……。
「〜♪」
うわ……この歌声は……。
「マーメイドガールかよ……」
最悪だ。最近ずっとこいつに粘着されてるよ……。逃げようとする度にやってきて、ぜろちゃんが時間停止を使うのを阻害してくる……。ぜろちゃん、マジカルなんとかのこと別に嫌いじゃないって言ったけど、たった今マーメイドガールのことが嫌いになりそうだ。
「ちょっと美澄ちゃん、君がそれ使うと、私の固有魔法で作った銃も無くなっちゃうんだけど」
「あ、すみませんフランさん。こうでもしないと、0号の固有魔法で逃げられてしまう可能性があったので。とりあえず、私の持ってる魔銃を渡しておくので、申し訳ないですけどそれで…」
「あそっか。なら仕方ないね。ごめんね、私も0号のことはよく知らないからさ」
なんかマーメイドガールと銃ぶちかましツインテガールの仲が良さげなんですけど……。え、マーメイドガールってSランクの魔法少女と接点あったの?
「はぁ……。貴方A級? 申し訳ないけど、足手纏いになるから邪魔なんだけど」
「それは、そうですね。Sランクの皆様には手も足も出ないですよ、私は。けど、私がいないと0号には逃げられてますよ?」
「ちょっと特別な固有魔法を持ってるからって、調子に乗らないでくれる? これだからA級は……」
「ちょ、ちょっとちょっと麗華さん。美澄ちゃんは仲間でしょ? それに、確かにこの子はAランクだけど、それは固有魔法が魔獣向きじゃなかったからだし、対魔法少女で考えれば、かなり貴重な固有魔法の持ち主なんだから」
「どうでもいい。雑魚、邪魔」
「切美ちゃん? 私も詳しくは知らないけど、資料見る限り美澄ちゃんは実力はちゃんとあるから! 雑魚じゃないからさ! だから協力し合おうよ!」
あ、多分違う。これ、銃ぶちかましツインテガールが仲取り持とうとしてくれているだけだな。マーメイドガールとは初対面だけど、他のSランクとマーメイドガールが喧嘩してしまわないように頑張ってるんだろう。
「なんだあの子、普通にいい子じゃん」
「ぜろちゃん……さっき銃向けられてたのもう忘れたの?」
そういやそうだった。さっきの発言撤回だ。やっぱあいつ悪い奴。
というか、にこちゃんが人質に取られてるんだよな……。時間停止もマーメイドガールに封じられてるし……。これ、割とピンチか……?
「魔法少女フランケンバレット。固有魔法は、多種多様な魔法武器を生成する、贋製現界。基本的には、自分で作った武器を使って戦う戦闘スタイル、だよ」
急に足元から声が聞こえてくる。いちごちゃんかと思ったが、いちごちゃんはオレの隣にいるし、何より声質が違った。え、もしかして幽霊か? ちょっとビビりながら、オレは足元を見てみると、そこには見覚えのある少女が転がっていた。
「へ? 誰?」
「ひどいなぁ……これでも私、有名人なんだけど。魔法少女オクト⭐︎パシーだよ、0号」
「あー。マーメイドガール達と一緒にぜろちゃんのこと捕まえようとしてきたやつか。というか、さっき話してたのって……」
「今君達の前にいるSランク魔法少女の情報だよ。いうのが遅れたけど、夜奈りんを助けてくれたの、0号でしょ? だから、ありがとう。さっきの魔法少女の情報は、そのお礼と思ってよ」
あー。そういえば、ヤッさんが魔獣に捕まってたからサラッと時間停止で助けてたんだっけ。まあ、そりゃ助けられるなら助けるよな。助けたからって特に減るもんないし。あ、まあ一応時間停止の代償で多少寿命縮むとかはあるけど。
「知らないな。ちょっと通り道に獣がいて邪魔だったんでしばいてたら、多分たまたま助ける形になっただけだ」
「私よりツンデレが上手だね。やっぱり作り物じゃかなわないかな?」
「ツンデレて……。別にデレてないが」
「ねえ、そのSランク魔法少女の情報って、他の奴らのもあるの?」
あ、そうだ。それ、せっかくSランク魔法少女の情報があるなら、聞いておいた方がいいな。この状況の打開策も見つかるかもだし。
「あるよ。あのでっかい斧? みたいなのを持ってる子は、魔法少女ジェノサイドキラー。一見斧で戦うように見えるけど、実際は自分の周囲に微生物くらいの小さい魔力結晶を発生させて、斧でその結晶を遠くに飛ばして攻撃するって感じらしいよ」
「へ、へーなるほどなぁ……。そういう能力かー」
「絶対理解してないでしょ……」
いや、あの説明じゃよくわからないのも仕方ないでしょ。なんじゃ小さい魔力結晶て。というか斧は飾りなのか。さっきあんなにぶん回してたのに。
「で、ちょっと態度がでかいのが、魔法少女レディ・オールフリー。相手の魔力を奪う固有魔法、独壇場を持ってて、魔獣はおろか、並の魔法少女じゃ勝てない相手だね。特に、魔法少女同士で戦った場合、固有魔法がある限りは西條吹雪を除いて彼女が最強って言ってもいいくらい」
魔力奪うってなんだそれ。それに、固有魔法名とか聞いてると随分と我が強そうな感じがする。というか、西條吹雪を除いて最強か。西條吹雪が最強っていうのは揺らがないんだな、ぜろちゃんびっくり。
「それで、あの制服の子は?」
「知らない…。というか、制服姿で戦う魔法少女っていうのは、少なくとも私が知る限りいない。魔法少女が変身する時、必ず何かしら自分の魔法の強化のために、勝手に頭の中のイメージを強く反映する衣装に変わるから、制服なんて普段と変わらない服装じゃ、魔法少女としての力は100%引き出せないと思うんだけどなぁ……」
ふむ。とりあえず、Sランク魔法少女の詳細な情報は知れた。
制服姿の人は、ひとまずSランクじゃないって考えていいな。Sランクならそこの魔法少女オクトパスとかいうのが知ってるだろうし。
「明日テストなのになぁ……。ていうか耳につけてくるの忘れちゃったし。まあいいか、とりあえずあの0号とかいうのを捕まえればいいんだっけ?」
「そうだよ刹那ちゃん。あの0号を捕まえるのが今回の私達の目的……ってありゃ……」
「はぁ……。だから嫌いなのよ。1人で勝手に突っ走る、野蛮な奴。Sランクなんて肩書も、アレには相応しくない」
「私達も加勢に…」
「放っておけば? とりあえず0号が何をするのか未知数だし、アレとの戦闘でそれを見極めるチャンスよ」
なんか制服姿の人が1人で突っ込んできた。
でも、見た感じ、Sランクの魔法少女達は連携が全然取れてないみたいだ。なんとか銃ぶちかましツインテガールが頑張って仲裁しようとはしてくれてるみたいだが、皆我が強いんだろうなぁ。
「いちごちゃん、とりあえず、あいつらは連携が取れない。1人ずつ誘き出して、確実に対処するぞ!」
「おっけー!!」
「人間相手に武器はなー。鞘で殴るか」
制服姿の人、武器捨てたんですけど?
いや、厳密には、刀を抜いて捨てて、鞘だけで戦おうとしてるっていうのが正しいかな。
まあ、とりあえず現状ぜろちゃんは戦力としてはぜろちゃんなので、いちごちゃんが攻撃できるように陽動を買って出ることにする。
丁度名刀『桜河坂』も持ってきていることだし、これで応戦するとしよう。
「ぜろちゃんの斬撃をくらえっ!!」
「おっと…! 武器持ってたんだ。なるほどね」
こいつ……! 動きが早い! こっちが攻めようとしても、いつの間にか背後に回られてる…!
「他よりはいい動きしてるけど……。やっぱり君も固有魔法頼り?」
「ふ、ふん! こっちの台詞だ! 最強のぜろちゃんの動きについてこれたこと、評価してやってもいい!」
とりあえず見栄をはりつつ、少し体に負荷をかけながら戦う。
「でもやっぱ他より動きいいなぁ……。魔法頼みってわけでもないんだ。でも……」
名刀『桜河坂』が弾き飛ばされる。
まずい、武器が…!
「っ! ぜろちゃん!」
制服の人の背後を取り続けて、機会を伺ってたいちごちゃんが、ぜろちゃんのピンチに駆けつける。
でも……。
「友達想いなんだ。いい子だね」
彼女の瞬発力に、なすすべもなくやられてしまう。
いちごちゃんは、制服の子の鞘によって簡単に薙ぎ払われてしまっていた。
こ、この人強いぞ……。まともな戦闘なんてしてこなかったぜろちゃんが悪かったのかもしれないが、これはまずい。
他の魔法少女相手は、ぜろちゃんの逃げ足にだけは敵わなかった。けど、この人はそのぜろちゃんの『にげる』が通用しそうにない。
「ま、そりゃそうだよね。魔法が使えるんだったら、変に近接戦仕掛けるよりも、魔法で魔獣退治しちゃった方がいい。その方が合理的だし。っとそうそう、そういえばポケットに……」
制服の子は、急にポケットをゴソゴソとまさぐりはじめたと思ったら、何かを取り出して、それを耳につける。
「そういやここに入れてたの忘れてた。っと、それで、聞きたいんだけど、君らなんで捕まえられるようなことになってるの?」
へ? 事情知らないの? 政府の回し者なんじゃ……。というか、そういえばこの人、Sランクの魔法少女達の会話に全然入れてなかったな。ハブられてたのかな?
「今失礼なこと考えたでしょ?」
「いや、そんなこと……あるなぁ……」
「あるんかい。ってまあいいけど、それで、なんで追われてるの?」
なんだ、知らんやつに事情話してもいいものか……?
昔のオレなら、話すって選択肢はなかった。馴れ合うつもりもないし、何より他の魔法少女に助けを乞うなんてこと、ぜろちゃんずプライドが許さなかったし。
けど、今はにこちゃんが向こうに取られてる状況だ。交渉も頭の内に入れないといけない。
あまり取りたくはないが、同情を誘う作戦……。やっぱなしだな。それはない。ダサいし。
「そんなことも知らずに戦ってたの? 本当に貴方は、Sランクの面汚しね。第一、貴方が魔法少女と呼ばれていることが、間違っているのよ」
あ、態度でかい人がこっちにきた。この人には事情知られてるっぽいな……。多分、銃ぶちかましツインテガールと同じく政府側の人間だろう。
「言えてるね。私が魔法少女はない。それで、この子ら何なの?」
「政府が秘密裏に作った人工の魔法少女よ。この前聞かされたばかりじゃない。私達の目的は、その人工の魔法少女の捕縛、もしくは殺処分。まさか、魔獣退治のついでにそれをすることになるとは思わなかったけど」
「へー……。やっぱり腐ってるなぁ……」
「一匹でも持ち帰れば十分でしょう。研究所を破壊して脱出してるって話だし、この0号とかいうのは殺処分するのが妥当よ」
「へ、へん! そう簡単にこのオレを殺せると思うなよ…!」
まっずい……。このままだとぜろちゃん殺されちゃう! ぜろちゃんのライフがぜろちゃんになっちゃう!! はやくマーメイドガールの固有魔法解けろ!! 時間停止使わせてー!!!
「麗華。悪いけど、私はそれ、飲めないかな」
「……何のつもり?」
てっきりこのまま殺されちゃうのかと身構えてたけど、なんか何とかなりそうだぞ?
制服の子、なんか態度がでかい人に刀向けてるよ? 仲間割れキタコレ!
仲間割れを喜ぶなんて最低だって? いいんだよ。それでぜろちゃんという尊い最強の命がこの世に留められるんなら安いもんだ。
ていうか、さっき刀捨ててたはずだよね? いつの間に拾ったん?
「賛成できないんだよ。勝手に生み出しといて、危険だから殺す? 身勝手すぎるし、胸糞悪い。だから私は、そんな命令には従わない」
「貴方……。自分の言ってることが分かってるの? それは、政府に逆らうということよ。……殺処分が嫌なら、捕縛でいいわ。だから、そんな馬鹿なことはやめなさい」
「やだね。捕縛するにしても、どうせこの子らが碌な目に合わないことは目に見えてわかるし。捕まえたかったら、私を倒してからにしなよ」
えー。またこのパターンかよ……。
花蓮ちゃん達とマジカルなんとかが言い争いしてた時と同じじゃん。
別に同情求めてるわけじゃないんだけどなぁ。オレそんなに気にしてないしさ。そりゃいちごちゃんとかにこちゃんにしてる仕打ちは許されないし胸糞だし憤るのもわかるけど、ぜろちゃんは違うじゃん?
それに、守られるの好きじゃないんだよなぁ。これはオレの求める最強像とはかけ離れてる。
でも、今はこの状況が美味しいしな……。あーもうなんだか納得できねー!
もっと魔法訓練なりなんなり積んでおくべきだったー!! 研鑽を怠らなければ、こんな事態にも陥らなかったというのに……!! ぜろちゃん、一生の不覚…!
「2人とも! そこまでにして! 私達、同じSランクの仲間でしょ? 仲間で争うなんて……そんなの駄目だよ!」
「命令違反。潰す」
……どうやら、2人が言い争いしてる間に、残りの2人がそれぞれ2人の争いをとめに来たようだ。
銃ぶちかましツインテガールは態度でかい人の頭に拳銃を。ハルバード少女は制服の子の首にハルバードを向けている。殺意高いな…。
ん? てか、ハルバード少女がこっちに来てるってことは……。
オレはこっそり、さっきまでSランクの連中がいた方向を見てみる。
そこには、マーメイドガールを倒して、にこちゃんを抱き抱えているいちごちゃんの姿が…!
いちごちゃん! 最高だよいちごちゃん!
っぱいちごちゃんよ。一家に一人いちごちゃんよ!
「麗華! 向こう見て!」
「? まさか…!」
って、流石にバレたか…! けどもう遅い。このまま時間停止して……。
って、マーメイドガールが気絶してても固有魔法の効果は継続するのか…!
くっそ……時間停止使えないぃぃぃぃ!!
「逃げるよ!!」
「へ? うわあ!?」
と、時間停止が使えないことを嘆いていたら、制服の子に抱えられていました。
え、どういうこったい?