最強は庇護なんていらない
どうする…? 時間停止は封じられた。
て、あ、まって、それオレの……。
クソ〜! 何も『桜河坂』まで取らなくたっていいじゃないか……。
「武器を取られたのに何でおもちゃ取り上げられた子供くらいのテンションなんですか…?」
「そりゃ0号の力の本質はそんなポンコツじゃないからじゃないかな? 私だって、魔法少女としての実力ってより、私自身を武器にしている節はあるからね!」
ぽ、ポンコツじゃないもん! 『桜河坂』はポンコツじゃないもん!
「ふひひっ、おもちゃで遊ぶなんて、ぜろちゃんは子供らしいところもあるんですね…。イイ……」
ヤッさん怖いんだけど……。何でもうぜろちゃん呼びしてるの? フレンドリィ過ぎない? いや、オレもヤッさん呼びしてるから人のこと言えないんだけどさ。
「さて、私の『無効詠唱』が有効なうちに、ケリをつけるといきますか」
マーメイドガールは懐に手を突っ込み、何かを取り出す。
「みっすんのおもちゃはそれかぁ」
「魔法少女法は便利ですね。この法律の穴をつけば、銃の所持も認められる。日本の立法の問題点ですね〜」
マーメイドガールが手に持っているのは、一丁の銃だった……。
偽物…………ではなさそうだ。魔法少女とはいえ、銃を至近距離で撃たれては、どうなるか分からない。
山桜花蓮ちゃんあたりなら、オレに銃口を向けるなんてことは間違ってもしないだろう。けど、マーメイドガールは違う。場合によっては、0号の処分という命を下されていたっておかしくはない…。
つまり……、ぜろちゃん本格的にピンチ!
「流石に0号にこの武器が通るとは思いませんが、しかし、彼女らを脅すには十分ってことですよぉ」
マーメイドガールの銃が、ぜろちゃんの頭に照準を定める……。
「銃とか効かないよ。無駄だからな。本当に無駄だから」
マーメイドガールは0号にこの武器が通るとは思いませんとか言ってた。だから、全力で見栄を張って、撃たれないように徹する!
「やはりそうですか。いや〜困りましたね。これでは0号を殺せません。が、それでいいんですよ」
どうやら撃っては来ないようだ。ふぅ………助かったぜ。
でも、何か別に目的が…?
「2人とも、チェックメイトです。今すぐ戦闘をやめてください。この子がどうなってもいいんですか?」
「そんな……ぜろちゃん……」
「……やられた……」
な………そうか、いちごちゃんやにこちゃんを脅すためってことか!
マーメイドガールはオレに銃が通じないと思っているから安心したのはいいものの、結局いちごちゃんとにこちゃんの行動が制限されたんじゃあな……。
「貴方たち……一体どういうつもり?」
マーメイドガールの脅しにより、全員が戦闘をやめた、けど、花蓮ちゃんは納得のいかないような目でマーメイドガール達を見る。
「落ち着いてくださいよ、魔法少女シュラインメイデンさん。結果的に、私のおかげで2人は抵抗をやめてくれたじゃないですか」
「そういう問題じゃない! その子は……保護対象よ。決してそんな物を向けていい対象じゃない!」
まあ、マーメイドガールはオレに銃が効かないって思ってるわけだからね。仕方ないよ花蓮ちゃん。
「あのさぁ、私らは政府直属の魔法少女組織なわけ。協力には感謝するけど、一般の魔法少女の出番はここでおしまい。あとは私らに全部任せなさいって話なの」
海賊ガールが面倒くさそうにしながらそう言う。そういえばオレこの子のこと殴っちゃったんだよな……。なんか今更罪悪感湧いてきた。いや、でももう過ぎたことというか、ああいうスタンスで行くって決めちゃったしな……。でも女の子の顔面殴るなんて、ちょっと酷過ぎたかな……。って、捕まってるのに何考えてるんだ?
「勝手ながら、発言をお許しください。私達は、あくまで、そちらのお方の保護のために貴方達の協力要請に応じました。しかし、貴方の手に持っているそれは何ですか? それは、保護しようとしている対象に向けるような代物じゃありません。出過ぎた真似であることは重々承知していますが、いくら政府直属の部隊とはいえ、貴方達には彼女の保護を任せられません」
「美鈴……」
ん? なんかいちごちゃんがこっち見てきてる?
何かするつもりなんだろうか。まあ、なんか喧嘩始まったっぽいし、どさくさに紛れて……ってのはできなくもないだろうけど。
「へー、良いのかなそんなこと言っちゃって。それってつまり反逆するってことだよね? 別にいいよ。でも、やるなら私とやろうね。皆私に注目して、私と戦うんだぁ」
「ふひひっ……ぜろちゃんは渡しませんよ……。だって、ワタシが捕まえたんですから。ふひひひっ……、それとも、花蓮ちゃん達も、ワタシに捕まりたい?」
「私も、お前らの上から目線は気に食わなかったんだ。いいぜ、4対2はフェアじゃねえ。私は花蓮の側につく」
状況を見るに、どうやら花蓮ちゃん、美鈴ちゃん、アネさんは政府のまわし者じゃなさそうだ。政府直属……つまり、マジカルなんとかってのに所属してるのは、海賊ガール、マーメイドガール、オクト⭐︎パシー。んで、状況的にはヤッさんもおそらくそうなんだろう。
「はぁ……。これだから一般魔法少女は…」
「安心して。絶対に助けてあげる。わかるわ、そんな奴らに保護なんてさせないから。だから……」
「だめだよー。0ご……。この子は私達でちゃあんと保護しといてあげるから。だから、貴方は目の前の私だけ見ておけば良いの」
「何度も追いかけっこしてるので、私も花蓮さんも、貴方に情が湧いてるんです。安心してください。悪いようにはしません」
「こんなクズ守って何になるんだか。全部私達に任せておけっての…。顔の恨みもあるし」
「悪いが、私はもう準備できてるぞ」
「ふひひっ……ぜろちゃんと赤ちゃんプレイするのはワタシです…!」
はぁ……。
こういう状況を望んだわけじゃないんだよな。
大体、なんだよ保護するのはこっちだだの、保護する対象に向けるもんじゃないだの。
はなからオレは保護されるつもりなんて毛頭ないんだよ。
最後に至ってはもう趣旨違うし…。
それに……。
「悪いけど、ぜろちゃんも私達も、保護されるつもりなんてないから!!」
動いたみたいだ。
「なっ、いつの間に!?」
マーメイドガールの眼前を、真っ赤な炎が駆け抜ける。
オレはその隙をついて、マーメイドガールから距離を取り、ポンコツと馬鹿にされた我が相棒、『桜河坂』を取り返す。
「保護っていうのは、弱い者のためにするものだ」
銃は怖い。だから、『桜河坂』で銃を切りつけ、マーメイドガールに銃を使わせないようにする。
「っ! クララちゃん!! 『無効詠唱』は解除しました!! 今すぐ0号を!!」
「私よりも目立っちゃって、許さないんだから!!!!」
再び触手がオレに襲いかかる。が……。
「ん。私が1番影が薄かった。貴方の方が目立ってる。だから、今からは私の見せ場」
オレの眼前には、巨大な防壁が現れていた。
マーメイドガール達も攻撃をしてきているが、全くびくともしていない。
「あの防壁がにこの固有魔法。あらゆる魔法を防御できるの。ほら、今のうちに逃げないと!」
……にこちゃん、強くね?
いや、アネさんと肉弾戦かましてた時から思ってたけど、この子、相当できる子だよね?
「ちぃっ! もう一度『無効詠唱』を…!」
っと、まずいまずい、マーメイドガールが固有魔法を発動しようとしてるな。
はやく時間停止を発動させないと。
っとその前に。
温めておいた『アレ』。やっておかないとなぁ!
「悪いけど、保護の必要性はない。何たってオレは、最強の魔法少女だからな!!」
最後に捨て台詞を吐いて、オレの得意技、時間停止を発動する。これは……決まった!
全ての動きが止まる。
「へへへへへ! これが決まりゃこっちのもんよ!!」
捨て台詞も綺麗に決まったし、かなり良い感じじゃなかったか?
保護しようとする魔法少女達。しかしオレは、オレ自身の強さを示し、保護される必要性なんてないことを証明する。そして! 最後の決め台詞! 完璧な流れだ…!
うん、気分がいい!
マーメイドガールの前に立って、ちょっとだけ煽ろうかな?
「やーいやーいおおまぬけー!」
くっ! この全能感がたまらんっ!
さっきまで争い合ってた奴らを、上から! 高みから! こうして見下ろすことができる! なんたる優越感! これだから時間停止はやめられない!!
っとそうだそうだ。ついでに。オレは海賊ガールの前に立って…。
「顔面殴ってごめん!!」
謝っておく。面と向かっては言えないけど、でもオレが女の子の顔面をぶん殴った事実は消えないし、せめてここでくらい謝罪しておかないとな。
あ、勘違いするなよ? オレはオレの中に残る罪悪感を解消したかっただけであって、べ、別に海賊ガールなんてどうでも良いんだからね!?
さて、あとは……。
「ヤッさん、悪いが赤ちゃんプレイはお断りだ!」
捨て台詞候補No2もここで消化しておこう。正直これと迷ったんだが、でもやっぱ最強の魔法少女!が1番しっくりきたんだよなぁ。赤ちゃんプレイとか言ってたのヤッさんだけだったし。
『悪いが、赤ちゃんプレイも触手プレイもお断りだぜ!!』とかもありかなぁとか考えてたんだけどね。それだったらオクト⭐︎パシーに対しての捨て台詞にもなるから。
ま、それでもやっぱり最強の魔法少女、が1番しっくりくるし、それをチョイスしたぜろちゃんはやっぱり最強だったんだなってことが再認識できた。
「よし! 満足した。それじゃ、いちごちゃんとにこちゃん連れて、離脱しますか」
一時はどうなることかと思ったが、ま、世間的には最強の魔法少女とか言われてる西條吹雪と対等に渡り合えるのはぜろちゃんしかいないしな!オレは最強なのだ!
魔法少女の戦闘練習がまともにできなかったのは残念だったが、今回の一件も、ぜろちゃん最強伝説の1ページとなるだろう。
さて、それじゃ。
「さらばだ!!」
*
気づけば、あの子達は、私達の目の前から消えていた。
政府直属の魔法少女である鮫島美澄さんと、明確に対立してしまったが、彼女はそのことを不問にしてくれると言ってくれた。
今後、あの子の保護に一切関与しないということを条件として。
「花蓮さん、良かったんですか?」
「仕方ない。こうしなきゃ、私達は今頃反逆者よ」
あの政府直属と言われる深海魔策は、多分、裏の組織だ。少なくとも、私達は鮫島美澄さんと接触するまでその存在を知らなかったし、それなりに知名度のある魔法少女オクト⭐︎パシーがそこに属しているという情報も初耳だった。
きっと、あの子は訳ありなんだろう。
悪い子じゃない。それは、ずっと追いかけてきたからわかってる。けど、もう。私は、あの子に手を差し伸べることは許されない。
「大丈夫なんですかね」
「大丈夫よ、きっと」
でも、多分もう大丈夫だ。
あの子は、西條吹雪ですら逃す大物なんだから。
それに。
「仲間の2人が強かったしね」
もうあの子は、1人じゃないみたいだから。




