オレが最強!
魔法少女ーーー『魔次元』と呼ばれる空間から、『魔門』を通ってやってくる『魔獣』の脅威から人々を守る、愛と希望に満ち溢れた、幼いながらも懸命に戦う少女たちのことだ。
オレは、そんな魔法少女がいる世界に生まれ落ちた。
より正確に言うならば、生まれ変わった、転生した、と表現した方が正しいだろうか?
つまり、二度目の生を歩むことになった。
前世はただのつまらないサラリーマンだったが、その頃からオレは魔法少女モノの女児アニメを視聴しているような暇人だった。
だからかもしれない。こうやって魔法少女の世界に転生したのは。
性別が女になり、魔法少女として活動しているのは。
「ふぅ。今回も雑魚だったな! ま、オレの実力にかかればこんなもんよ」
オレは、目の前にいる紫の猪の見た目をした動物を踏みつける。
そう、魔獣だ。
魔法少女として転生してから、オレはさっそく魔獣狩りを始めた。
本来ならば、魔法省に魔法少女としての登録を済ませ、政府からの許可をもらった上で活動する必要があるのだが、オレはそれをせずに、野良の魔法少女として活動している。
まあ、これには理由がいくつかある。
まず一つ目として、オレには戸籍が存在しない。
オレが生まれた場所、どうやら研究施設みたいな場所だったらしく、オレはそこで生み出された人工魔法少女らしい。
ちなみに、研究職員からは0号なんて呼ばれ方をしてたな。皆も気軽にぜろちゃんって呼んでくれてもいいんだぜ?
他にも1号、2号とかいうのがいた。仮×ライダーかよとでも言いたくなるかのようなネーミングセンスだったが、そんなことはどうでもいい。
もう研究施設もオレがぶっ壊してしまったからな。当然だ。誰かの犬に成り下がる気なんて、オレには全くない。
まあ、そんな出自なわけだから、戸籍なんてものはなく、仮に戸籍をつくろうもんなら、オレの正体が割れて実験体に逆戻り。そんなのはごめんだ。
で、理由二つ目。
これは単純に、オレが馴れ合いを嫌う存在だからだ。
元々オレは1人でいることが好きな人間だった。
昔から、誰かと絡むということがどうにも苦手で、気づけばそうなってたって方が正しいかもしれない。
そんなわけだから、魔法省に魔法少女の登録を済ませて、はーい2人組作ってね〜なんて言われた時にはおしまいだ。
ぼっち・おぶ・ざ・ぼっちのオレには、相方なんて到底見つけれようもないし、そもそも女の子ってどういう会話すりゃいいんだ? わかんない………女の子のことなんて、全然わかんないよ!
と、まあ、そんな大層な理由はなかったが、そんなこんなで楽しくやっている。
食糧なんてのは魔獣を食えばどうにかなるし、身だしなみも『clean』とかいうクソチート魔法でどうにでもなる。
寝床も、ホームレスさん達と一緒に人類の叡智を用いればあら不思議。簡単にできてしまいましてよ。
「あー! 見つけたわよ! あんたが噂の真っ黒魔法少女、でーもん・でーもん・でーもんね!」
「人違いでは? オレはえんじぇる・えんじぇる・えんじぇるという名前なので。ほら見て、てんしのつばさ」
「なにがてんしのつばさよ! 真っ黒じゃない? どっちかというと堕天使………ってそんなことはどうでもよくて。 ちょっとコラ! 待ちなさい! このっ! なんであの子はあんなにちょこまか逃げ回るのよ…‥!」
どうやら他の魔法少女に見つかってしまったようだ。
ちなみにでーもん・でーもん・でーもんは偽名だ。名前を聞かれたので、適当に答えておいた。
まあ、多分彼女も偽名、もしくは通り名的なものと捉えているだろうが。
ちなみに他にも偽名はいくつかあって、『桜河坂逢魔』とか、『悪の帝王・ルシファー』とか、後、『茶柱抹茶』とか、色々なバリュエーションがある。ちなみに『悪の帝王・ルシファー』については、『悪の帝王』の部分も名前だ。つまり名前を呼ぶときに、悪の帝王さんって呼ばれる可能性がある。誰が厨二病だって?
ま、そんなどうでもいいことは頭の片隅を通り越して宇宙の彼方にまで放り投げておくとして。
一応オレ、魔法省から『要救済魔法少女』に認定されてるんだよね。
『要救済魔法少女』は、生活が困難だったりする魔法少女に対して発令される特例措置で、本来ならこの特例措置を受けた場合、様々な援助を受けることができるんだけど、オレの場合は多分指名手配犯的なのと同じ使い方をしてると思うんだよね。
もちろん、魔法少女達からすればオレはただの『要救済対象』なんだろうけど、国目線は多分違う。
逃げ出した実験動物、それの連れ戻し。国目線だと、こうなるだろう。
1号はもう捕まったらしい。可哀想に。2号の方も逃げ回ってたらしいが、他の魔法少女に絆されたせいで……………可哀想。まあ、オレはオレさえ良ければそれでいいが。
まあ、そういうわけで、オレは全国の魔法少女から追いかけ回されながらも、逃亡生活を続けている。
「あっかんべー! お前よりオレのが早いもんねー!」
「ムキー! 私は君のために追いかけてあげてるっていうのに…………なんであんなに生意気なのよ…! あーもう! 頭にくるわ!」
「花蓮さん!? もしかして、あの例の……」
ちなみに、今現在オレのことを追いかけてきている少女は、山桜 花蓮
ちゃんだ。ところどころに桃色のメッシュが入った黒髪を持っており、オレに対して追いかけしてくれている少女だ。
魔法少女としての姿は巫女服姿だ。ただし、スカートの丈は膝丈ちょい上くらいで、魔法少女にありがちなステッキも、お祓い棒のようなものになっている。
巫女と魔法とかいう和洋折衷な少女の花蓮ちゃんが今話しかけているのが、視診 美鈴
ちゃん。
彼女は丸眼鏡を普段から着用しており、髪の毛もばっさりと肩にかかる程度にまで切り揃えている。髪は茶髪で、見た目はめちゃくちゃ真面目そうではあるが、実は金髪に髪を染めたことがあるらしい。
まあ、この世界、そんなに髪色が黒じゃないっていうのは珍しくないみたいで、色んな髪の色の人がいる。
なんなら黒髪の方が目立つんじゃないか?ってくらいに。
「美鈴! いいところにきたわね。先に回り込んで、あいつをハサミうちにするわよ!」
「その必要はないです。向こう側には………」
「っ!」
オレの目の前に、無数の氷の刃が飛んでくる。オレは空高く舞い、華麗に氷の刃を避ける。
来たか………。
「やっぱりくると思ってたぞ……西條………吹雪!」
「また………君……。なんで逃げるのか、わからない」
西條吹雪。色白な肌と紫色の目を持ち、水色の髪は艶やかで、いつでも光り輝いているようで美しい。魔法少女としての衣装は、氷のドレスのようなモノで、彼女の周囲では常に粉雪が舞っている。彼女が履くガラスのような靴は、まるでシンデレラのようで、そこからも彼女の美しさは見てとれるだろう。
そんな彼女は、魔法少女の中でも最高級、SSランクの称号を持つ、正真正銘最強の魔法少女だ。
「今度こそ捻り潰す!」
「………無駄だと思うけれど」
そんな彼女はオレの越えるべき壁だ。
そう、オレには目標がある。
西條吹雪を打倒し、正真正銘の魔法少女になり、そして、
「西條吹雪、お前に勝って、オレが全てを手に入れる!!」
全ての魔法少女を潰し! この世界を掌握することだ!!!!!
「あっ……」
「はい。やっぱり、私の勝ち」
ただ、目標を達成するには、ちょっぴり時間がかかるかもしれない。
アホのTS娘好き