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  作者: たかさば
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7,願う土、願わぬヒト

 ある日、土は願った。

 ―――いい土を練る事ができますように!


 ある日、土は願った。

 ―――このからだが長く砦として役立ちますように!


 ある日、土は願った。

 ―――早く雨がやみますように!


 ある日、土は願った。

 ―――新しい遊びを楽しめますように!


 ある日、土は願った。

 ―――ヒトが新しいことを教えてくれますように!


 ただ、ただ、好奇心のままに。

 ただ、ただ、意思のままに。


 土は、ただただ、土としてこの星の上にいた。


 他の土と一緒に、この星の上に有り続けるために。

 他の土と一緒に、この星に帰ってゆくために。


 土は、感情を持っていなかった。


 好きという感情も。

 嫌いという感情も。

 怖いという感情も。

 うれしいという感情も。

 悲しいという感情も。

 怒りという感情も。

 諦めという感情も。

 憂いという感情も。


 新しいことを知り、次から次へと好奇心をあふれさせることはあった。

 しかし、それは決して…感情としての、心の揺れではなかったのだ。


 他の土は、同じ土。

 他の土も、同じ星の一部。


 土と土が争うことはなかった。

 土と土が競うことはなかった。

 土と土が比べあうことはなかった。


 土は、個体でありながら、星というひとつの存在だった。


 土と土は争う必要がなかった。

 土と土は競う必要がなかった。

 土と土は比べあう必要がなかった。


 他の土と共にこの星にいる、ただそれだけだった。

 他の土と共にこの星にいる、そこに感情は必要なかった。


 しかし、土が土であるために、何かを願うことはあったのだ。



 ヒトは、何も願わなかった。


 ヒトは、ただただ、ヒトとしてこの星の上にいた。


 土と一緒に、この星の上に有り続けた。

 この星に帰ってゆく土を、見守り続けた。


 ヒトは、感情を持っていなかった。


 好きという感情も。

 嫌いという感情も。

 怖いという感情も。

 うれしいという感情も。

 悲しいという感情も。

 怒りという感情も。

 諦めという感情も。

 憂いという感情も。


 この星に来る前に、感情を持っていたことは、あった。

 しかし、それは…はるか昔の、過去だった。


 ヒトは、人ではない。


 感情を失くした時、ヒトは人ではなくなったのだ。

 願う心を失くした時、ヒトは人ではなくなったのだ。


 ヒトは、土と共にある、ヒトというただひとつの存在だった。


 ヒトは、土と争うことがなかった。

 ヒトは、土と競うことがなかった。

 ヒトは、土と比べあうことがなかった。


 土や緑や獣と共にこの星にいる、ただそれだけだった。


 土の好奇心を満たすため、土と共にいた。

 土の意思を受けるため、土と共にいた。

 土の願いを聞くため、土と共にいた。


 土と共にこの星にいる、そこに感情は必要ないと考えていた。


 ただただ、星であり続ける土のように。


 ヒトもまた、ただただ土と共にいるヒトであり続けようとしていたのだ。


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