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  作者: たかさば
5/8

5,消えない、ヒト

 ヒトは、肉と、骨と、体液でできている。


 1、はるか昔に、この星へ送られた存在である。

 2、わずかな意思とわずかな意志を持っているが、イシは持っていない。

 3、命を持っていないが、再生する体を持っている。


 ヒトは、崩れない。


 雨や風や波や振動を受けても崩れない。

 転倒しても崩れない。

 ぶつかっても崩れない。

 日差しを受けても色は変わるが崩れない。


 ヒトはたまに、崩れる。


 土に長く埋もれると、体が腐った。

 水に長く沈みすぎると、体が腐った。

 風に飛ばされて激しく星に叩きつけられると、体が破裂した。

 炎で焼かれると、体が燃えた。

 獣に食われると、体に穴があいたり、一部が無くなったりした。


 崩れたヒトは、時間はかかるが、再生した。


 腐った体は、腐った部分が落ちた後、少しずつ再生して元に戻った。

 破裂した体は、破れた部分から体液が流れ出た後、少しずつ再生して元に戻った。

 焼けた体は、焦げた部分がはがれた後、少しずつ再生して元に戻った。

 食われた体は、足りなくなった部分が、少しずつ再生して元に戻った。


 ヒトは、星に混じることはなかった。

 どれだけバラバラになっても、小さくなった体の部分から、少しづつ再生して元に戻った。


 ヒトは、消える事がなかった。


 時折森の中に入って、緑をむしった。

 時折海の中に入って、体を浮かせた。

 時折川の流れに入って、身を任せた。

 時折火を起こし、身を暖めた。

 時折獣に立ち向かい、身を挺した。


 ヒトは、この星の上で異質な存在だったので、どこにも混じることができなかった。


 星に混じろうと海に入っても、混じれなかった。

 星に混じろうと森に入っても、混じれなかった。

 星に混じろうと川の流れに入っても、混じれなかった。

 星に混じろうと風に飛ばされても、混じれなかった。

 星に混じろうと火で焼かれても、混じれなかった。


 星に混じろうと足掻いても、混じることはできなかった。


 時折海を望むことがあった。

 時折森を望むことがあった。

 時折川を望むことがあった。

 時折火を望むことがあった。

 時折空を望むことがあった。

 時折風雨を望むことがあった。

 時折色んな場所を望むことがあった。


 ヒトは、星の上で異質な存在であることを、受け入れざるを得なかった。


 この身を消すことは、できない。

 星に混じることは、できない。


 この星に来て、どれほどの時間が過ぎたのか。

 この星の上で、あとどれほどの時間を過ごさねばならないのか。


 どれほど考えても、ヒトはヒトで在り続ける事しかできなかった。


 ヒトがこの星に来た時、この星の上には緑と獣しかいなかった。


 ヒトは気ままに、緑を食した。

 ヒトは気ままに、水を飲んだ。

 ヒトは気ままに、海の獣を食した。

 ヒトは気ままに、森の獣を食した。


 ヒトがこの星に来て、しばらくたった時の事だった。


 ヒトは気ままに、星の表面にあった砂と水をこねた。

 ヒトは思うままに、星の一部を練った。


 ヒトの意思が練り込まれ、この星に、土が生まれた。


 土が動き出し、ヒトは、慌てふためいた。


 ヒトが唖然としているうちに、土は仲間を増やした。

 ヒトが漠然と成り行きを見ているうちに、土は仲間を増やした。


 ヒトが呆然としているうちに、土はどんどん仲間を練っていった。


 ヒトは、どんどん数を増やす土を見て、恐れ戦き、逃げ出した。


 好奇心旺盛な土は、ヒトを追い求めた。


 追い詰められたヒトは、土を、排除しようと試みた。


 ヒトは土を星に叩きつけた。

 ヒトは土を手あたり次第に放り投げた。

 ヒトは土をいくつも蹴り飛ばした。

 ヒトは土をいくつも踏み潰した。

 ヒトは土をいくつも殴って破壊した。


 ヒトは土を崩し続けたが、土を消すことができなかった。


 ヒトは、土と共に、この星の上で暮らすことを選択した。


 しばらくたった時の事だった。


 ヒトは意思を込めて、星の表面にあった砂と水をこねた。

 ヒトは心のままに、星の一部を練った。


 ヒトの意志が練り込まれ、この星に、新たな土が生まれた。


 ヒトの出す声を聞き、声の持つ意味を知り、ヒトの意思を知ることができる、土。


 ヒトが意志を込めて土を練った結果、ヒトの意思を聞く事ができる土が生まれたのだ。


 ヒトにはイシがない。

 ヒトは土のイシを感じることはできたが、土に意思を伝えることはできなかった。


 ヒトが新しい土を生み出した結果、ヒトは土と意思を交わすことができるようになったのだ。


 土と共に、この星の上で暮らす、たった一つの異質な存在…ヒト。


 ヒトがヒトである限り、ヒトはこの星の上で過ごす事しか、できない。


 ……どれほど、土と、意思を交わしたとしても。


 ヒトがヒトである限り、ヒトはヒトであり続けなければならないのだ。

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