1,星に暮らすもの
……広い宇宙の、とある銀河に、ありふれた星があった。
二つの燃える星と、カラフルなガス天体、小さなダークマターの渦を中央に構えた恒星系に属している、緑と茶色と青色の星。
星に、名前はない。
この星には、名前を付けるという考えを持つ存在がいないためだ。
この星にいるのは、主に土と緑と獣である。
この星では、土と緑と獣が暮らしている。
この星の上には、土と緑と獣が生きている。
土は、土をこねて仲間を増やし、繁栄する。
緑は、オレンジ色の太陽と桃色の太陽の光を浴びながら森を形成して繁栄する。
獣は、森の恵みをもらいつつ共食いをしながら群れを形成して繁栄する。
土は崩れて、星に帰る。
緑は枯れて、星に帰る。
獣は息絶えて、星に帰る。
土は仲間を造形して、数を増やす。
緑は種から芽吹いて、葉を茂らせ、実をつける。
獣は子孫を残して、群れをつくる。
星が形成され、穏やかに時を刻むようになってから、悠遠と繰り返されている……この星の、律。
この星の中でただひとつ、星に見合わない存在があった。
どの命にも属さない、異質な存在。
土と緑と獣ではない、たった一つの存在……ヒト。
この物語は、唯一の存在とありふれた存在が共に星の終りまで過ごした、ありふれた記録のひとつである。
全八回、毎週土日に更新します。