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01_【王国/騎士】ルーク・カイザード



 眼前に広がる戦場は、ルークが生まれてこの方、一度だって見たことのないような地獄だった。


 ルクルス王国騎士団に入団して十五年、歩んできた戦場の数々にも地獄は存在した。戦場が地獄に変貌するなど、ルークにとっては当然のことですらある。強力な騎士や魔術師が一人いるだけで優位は一瞬で崩れ去り、敵方の有能な軍師はやはり優位性をあっさりと逆転させてくる。


 それでもなお、今の状況よりはマシだ。


 戦場自体が既に王都の直近であり、それだけでも戦略的には十分に拙い。しかしそんなことより、敵軍の中に見えている()()が問題だった。


 巨人――『機兵きへい』だ。


 灰色の鎧を着込んだ、三階建ての家屋ほどはあろうかという巨大な兵が……こちらの軍勢を文字通りに蹂躙している。

 大木のような脚が動き、戦列を成しているせいで即座に後退できない兵たちが悲惨な音と共に潰れていく。魂を引っ掻かれるような叫び声も聞こえていた。打ち込まれた数百の矢はただ弾かれ、魔術師の放った魔法は羽虫を払うように掻き消される。


 撤退すべきだ。

 理性ではそう思う。

 しかし、何処に?

 守るべき王都はすぐ背後にある。


「……ぐぅ……ぐぐぐ……!!」


 奥歯も割れんばかりの歯噛みも、やはり意味を成さない。

 このまま蹂躙されるのを待つばかりか。二万四千の自軍が『機兵』に踏み潰され、あるいは巨大な手で叩き潰され――そう、それこそ虫けらのように――その光景を、ただ見ているしかないのか。


 いや――あるいは、その順番は近いのかも知れない。


 ルークは第三騎士団の団長だが、軍の指揮権などない。だから「あの巨人を討ち倒せ」と命ぜられれば、無理と判っていても行くしかない。行けぬとは言えない。何故なら、今まさに()()()()()()()()仲間たちを見ているのだから。


「――ルーク殿!」


 不意に名を呼ばれ、振り返る。

 斥候のパクスが息を切らしながら、そこにいた。普段は飄々としていて気に食わないところもあるが優秀な男。ルークはパクスをそう評価している。どんなときであっても冷静さを失わない……が、パクスの表情は明確に気色ばんでいた。


 絶望、ではない。

 期待のようなナニカが、かおに浮かんでいる。


「成功したようです。至急、王城へ戻ってください!」


 なにが、とは聞かなかった。

 王城で行われていることを、ルークは知っていたからだ。


 将軍などは王女の錯乱と一笑に付していたが、パクスの表情を見る限り、それが光明であるのは理解できた。頼りにするには覚束ない細糸ほそいとであるかも知れぬ。だが、それでも、あの『機兵』をどうにかできるのなら、なんでもいい。


 神だろうが、悪魔だろうが――勇者だろうが。





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