ギリシャ神話詩『デメテル讃歌』
世界の神話伝説や歴史を題材にした詩も、これで第11弾。アテナ様の次はこの御方、ギリシャ神話の豊穣の女神デメテルを讃えます。自分が尊敬する作家にして古代ギリシャの竪琴リュラ―演奏家の佐藤二葉先生が、Youtubeで公開しておられる『デーメーテール讃歌』の演奏動画にインスピレーションを受け、制作しました。この作品を、女神デメテルらオリュンポスの神々と、二葉先生や古代ギリシャ研究家の藤村シシン先生をはじめギリシャ神話・古代ギリシャを愛するすべての方々に捧げます。
詩女神よ歌え、オリュンポスの峰に座し、この世見はるかす神々の一柱、
大地に実りもたらす女神デメテルの讃歌を。
おお、髪麗しきデメテルよ。
狡知のクロノスが御子、雲を集め、雷走らせるゼウスが姉君。
西風の神の息、吹き渡る大地に波打つ麦の穂実らせて、
死すべき定めの人間に、命の糧を恵みし女神。
エレウシス治める王ケレオスの子、
トリプトレモスをしてあまねくこの世を巡らしめ、
穀物の種を播かせ給い、大地を実り豊かに変えたる御方。
エレウシスの民に己が秘儀伝え、死後の幸い約し給う御身。
神代の昔、暗き地の底、死者の国、厳かに統べる冥王ハデスに、
愛する娘ペルセポネをば連れ去られ、悲嘆の淵に沈みたる慈母よ。
御身であれば定めて知るらん、今の世にあふれる親の、子を失いし悲しみを。
ギリシャのはるか東方、黒き海の北に広がりたる、
往古、馬を馴らす民スキタイ駆け巡りし大平原。
此度、この地をめぐりて起こりし戦、
その勢いはいまだ衰えず、むしろますます増すばかり。
猛々しき軍神アレスの炎に家をば焼かれ、路頭に迷うは無辜の民。
幾万のペルセポネ、娘たちが冥界へ、無慈悲なハデスに連れ去られ、
幾万のデメテル、御身のごとき母たちが、涙、涙に暮れたることか。
神への信仰崇拝廃れし今や、
人を助けるは同じ人間、神にあらずとは知りながら、
それでも我ら時として、思わず願うは天祐神助。
なればこそ――おお、踝細きデメテルよ。
我ら死すべき定めの人の子ら、御身の前にひれ伏して、切に願わん。
大麦の粉に水を混ぜ、香り爽やかな薄荷を加えし薄粥供え。
御身が愛する娘ペルセポネ――今やハデスの妃となりて、冥界治める女王と、
あの世へ続く洞穴の、出入り口にて再会果たし、地上に春が訪れんことを。
また、戦の炎に焼かれたる、不毛の大地に今一度、
大麦小麦が芽吹きて育ち、豊かな実りがもたらされんことを。
そして、この世に生きる幾万の、母も娘も、飲食の欲を追い払い、
満ち足りて見合いし二人の顔に、きらめく笑みがあふれんことを――。