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5.熱しやすく、冷めやすく、尽きやすい

 熱しやすく、冷めやすい。


 なるほど分かり易いことだ。


 物事にすぐ熱中してしまうが、同じぐらい簡単に興味がうせてしまう。


 なるほど、まるで俺のようだ。


「最近省みることが増えたわね」


 カフェテリア。昼間にしては風が冷たいので、本日は店内窓際の席に座っている。なにかしみじみと、台詞のように言い連ねた男に、女は珍しそうに呟いた。


「私が省みろって忠告したからかしら?」

「さあなー」


 覇気なさげに、ぐでーっとした間抜け面で机に突っ伏す。眠たそうというか、二日酔いというか。身が入っていない。


「なんか、飽きた」

「なにに? 私と話すこと?」

「五十時間くらい費やしたゲームに」

「……そう」


 女は心配して損した。


「ハマると弱いんだよ。俺って。何年前のゲームだろうと漫画だろうと、一度自分の感性にザックリ刺さっちまったらとことんな。寝る間も惜しんでやったんだが、ストーリークリアして周回してたらぶっつりと興味が千切れて消えた」

「違うゲームやればいいじゃない。そんなにハマりやすいなら、どんだけでも見つけられるわよ」

「今は賢者モードなんだ。なにやってものめりこめねぇ時期なんだ」


 集中力の欠如が目に見えるのも、やることが無い故のものらしい。


 やれやれとスマホに目を落とそうとしたとき、ふいに意味深なことを呟き出す。


「ってくらい軽く死にたくなる時もある」

「……は?」


 あまりにも唐突だった。ゆっくり下げた首を凄い速度で上げる女。


「リセットボタンを押すくらい簡単に、生きることに飽きるタイミングがあるんだ。薬飲んだり、ビルの上から目をつぶって飛び降りたり、寝てる内に心臓止まってねーかなって思ったり。でもそれは一時だけなんだよ。マジで常に思ってるわけじゃないんだわな」

「常に思ってたら即精神科行きじゃない」

「だからタチが悪いんだよ。たぶん病名付けようと思えば付けられるタイプの精神状態だからな。それと同じくらい簡単に犯罪に手を染めれるような強い気持ちになる時もあるし、たぶんその時の気分で無慈悲に無惨に人を殺せる心境に落ちる時もある。いやはや、俺ってばとことん人間失格だねぇ。太宰もびっくりだろうよ」


 この手の会話はするにはするけど、なんせ今回は反応に困る。女にここまで露悪を露骨に吐露するタイプではなかったからだ。


「俺、死後の世界とか、天国地獄ってのをあまり信じてねぇんだよ。だってそうだろ? 虫一匹殺すだけ、肉を喰うだけ、セックスするだけで地獄に落ちるんだぜ? んな清廉潔白で生きてける自信も無ければ、この世はそんな頭お花畑な人間を寄ってたかって喰い尽くすようにできてんだからさ」


 伏し目がちで、へらへらと笑って、胡乱なことばかり言って。言い方は悪いが怪しい薬か向精神薬でもオーバードーズした後かと思ってしまう。


「だから無責任に今生を捨てれるように思える。死んだら無だから。全て無くなるから。言い得て妙だな、人生リセットボタンは」


 そう言ったきり、しばらく黙りこくった。

 コーヒーをじっと見つめ、じっとしていた。

 省みるクセが付いたのか、自分の言ったことをミスったとでも思っているのだろうか。


「――それで?」

「んぁ?」


 女は男に敢えて聞いた。


「今は死にたいの?」

「なんだい藪から棒に」

「こんな、絶世の美女とコーヒーしばいといて、死にたくなるなんて言うから」

「自分で言うのか、それ」


 日本人らしくない色白な肌に、紅色の虹彩が目立つ銀髪の女。その銀髪は無論地毛で、腰まで届く長い髪はケアが大変と日々こぼしている。瞳も当然生まれつき……でなく、本当の瞳の色はグレーらしい。曰くアルビノだったか、しかし実態は紅のカラコンである。


 そんでややゴシックでパンクで尖りまくりな黒で統一した服装。なんでも「威圧的で余計な男が寄ってこないから」らしい。普段から近寄り難い雰囲気を放つ恰好を好んでいる。


 思えば日々変わる服装も、気合入ってるなーって思ったりしている。メイクもしてるし、体型は全然変わらないし、あれこれ気にしているし。俺と会っていない間にどのような努力をしているのやら。


 俺と会う数時間の為だけに、最高の姿で会ってくれる。その理由は――。


 ――なんてな。


 パーカーとサルエルのだらだらファッションな自分には到底似合わない女……いや、れっきとした、紛れもない、淑女、女性だ。勘違い甚だな思考はどっかへポイしておく。


 男は嘘つきだし、意味もない嘘もつくが、本音も事実もストレートに言う。


「お前とのこんな楽しい時が終わるのは悲しいねぇ」

「そう」

「馬鹿みてぇなこと言ってすまんね」

「いつもじゃない」

「そかそか」


 普段の数倍中身の無い話は、男の不安定さをどこまでも表していた。

 そして同時に女がこの男の側にいる理由の証左でもあった。


「……ありがとう」

「どういたしまして」


 にへらと笑う男の力無い顔に、珍しく目を細めて笑う女。


「かたくなに名前を呼ぼうとしない以外、私もこの時間と、アンタのこと、嫌いじゃないから」

あとがきを書く気は無かったのですが、今回は割と直感で読んでください。


私にもわからん。

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