1.「リア充爆発しろ」撲滅委員会
コーション☆コーション☆コーション(つまりCAUTION)
マジにこっから先は私の想像とか妄想とか、想像で創造した本来の形と歪曲した世界の話とか、そのくせこの物語でクソも収束するはずもない世界観だったりとか、まあなんにせ今までの勝手具合に拍車がかかったことを書いてく予定です。
少しだけ読んで「時間の無駄」と感じた場合、即座に中断することをお勧めします。あなたがたの時間の有効期限は限りなく短いのでね、こんなクソ脊髄文学に裂く必要は無いのですよ。
以上の注意書きを読んでもなお、あなたたちの人生の約十分前後を無駄にして良いと思ったら、続きを読んでね。
以上さよなら、もう前書きもあとがきも今後は無いよ!
「リア充爆発しろ!」
雨は夜更け過ぎに雪へと変わるそんな時期に聞こえるそのセリフ。
「リア充爆発しろ!!」
フォーチュンクッキーが恋しそうな時期に聞こえるそのセリフ。
「リア充爆発しろ!!!」
真夏のジャンボリーとかレゲエとか砂浜とかビッグウェーブだとかがちらつく季節に聞こえるそのセリフ。
男たち(少なからず女の子も居るのだが)は最後にひと際大きい声で繰り返す。
「リア充爆発しろーーー!!!!!」
さて、お気づきであろうか。
彼らの「リア充爆発しろ」は恋の季節に聞こえてくるものだと。
年中無休というよりは、さる人の誕生日だったり、企業の制作した商業日に一際うるさく聞こえるものだと。
つまり彼ら彼女らは、独り身の、いわゆるボッチの方々。
恋人がおらん人たち、ってことだ。
まあ、客観的に見て言ってしまえば負け犬の遠吠えである。
自分を磨かず、愛される努力をせず、受け身で告白を待ち続ける者たちのやかましい喚き声である。
敗北者である。取り消すはずもない、敗北者である。
とはいえ『リア充』というスラングの主な意味が「恋人がいる」とか、「友人が多い」のようになったのも印象操作な気もする。アンサイクロペディア辺りでそこらへんが語ってるんじゃなかろうか。
本来はさらに日常生活の充実とか、趣味や仕事が楽しいとか、それこそオタク文化の活動にも『リア充』は当てはまるそうだ。だってそうだもんな、オタ活とてリアルの一部だ。俺らのリアルを否定するなという話だ。
そんな声高に主張するオタクたちに対するべく、急遽編成されたのは、ある集団――。
「こちら、『リア充爆発しろ』撲滅委員会の者でございます」
一様にビジネススーツに短く整えた黒髪の男女たちは、ぱっと見就活生の集団だ。だが異質なのは、一様に手元に軍用サイズかと疑うほどデカいタブレット端末を持ち、びっくりするくらいに息ぴったりに行進する姿。
敢えて言おう。イカれてると。
「な、なんだよ、アンタたち」
「『リア充爆発しろ』撲滅委員会でございます」
「それは分かってるってんだよ!」
オタクくんはがなり立てる。チェック柄のシャツが良く似合う、クラシカルなオタクくんだ。
「パトロール中に「リア充爆発しろ」との言葉が聴こえたので駆け付けさせていただきました。……どうやら抗議集会のようですね。まったくやれやれ」
気味悪いくらいに動作が流麗なこと、まさに礼儀正しさの概念がそのまま発露したようだ。
「う、うるせーよ!」
がなり立てる敗北者ども。
「ならば問おう。貴様らは、自分が選ばれる価値がある存在かと」
たった一言だった。
彼らを征したのは、先陣を切る隊章をスーツのピンバッジに付けている男が放った一言だった。
オタクくん、ひいては後ろに群れ成す者どもの核心を突くに十分たる一言だった。
「貴様らは選ばれるために自分を磨き上げているというのかぁぁぁーっっ!!」
繰り返して同じことを委員会の構成員が復唱する。
「貴様らは選ばれるに相応しいと自分を心の底から自慢できるのかぁぁぁーっっ!!」
怒号のような輪唱は、互いの声が互いの声を増幅しあい、応援団かってくらいの声量になっていた。
「貴様らは選ばれる自分の価値を証明できるのかぁぁぁーっっ!!」
うぐぅ、と。オタクくんは言葉に詰まる。
「証明できなければ、貴様らは所詮青二才よぉぉぉーっっ!!」
「自分の非を省みることも!」
「正すことも!」
「直すことも!」
「できない人間!」
助長、増長、彼らの言葉は一つの大波となりて「リア充爆発しろ」勢を飲み込みつつあった。
「嘘を吐き!」
「己を騙し!」
「自を偽る!」
「それこそ恥晒しにして、己を貶める所業に他ならないっっ!!」
今や彼らの勢いはとどまることを知らなかった。
「ならばこそっ!!」
「君は!」
「君たちはっ!!」
「「「変わらなければならないっっっ!!!!!」」」
男女の掛け合いが続く。
怒号が波、声の波濤。
鼓舞を繰り返し、繰り返し、洗脳めいて繰り返す集団。
「変われるはずだ!」
「私たち!」
「僕たち!」
「「同様にっっ!!」」
「この委員会に所属すれば――」
「「必ずや!!!」」
「――ッッ……――」
という光景を見るのは今や日常茶飯事になっていた。
こういった「リア充爆発しろ」発言をした奴らは、一人残らずつるし上げられた。
街中、学校、会社、果てはSNS上で言葉の羅列が見つかっただけで密告される始末。
「――という具合らしい」
「ふざけた集団ね」
カフェテリア、どことなく床屋を連想する赤青白のカラーリングのパラソルの下、そんな話を男女二人が交わしていた。外の席はたったの三席。昔はもっと範囲も席数も多く、なんだったら夏はビアガーデンなんかもやってたのだが、とある事情で規模は縮小しているそうだ。
淹れたてを証明する香りはおろか、湯気すら上がらなくなった冷えたコーヒーを口に付けて男が付け加える。
「ちなみに捕まった奴らは「自分磨き」をさせられるらしいぜ」
「なんだか結末がろくでもないような気がするのだけれど」
「いいや、それがそれがなんとなんと」
大仰な身振り手振りで信用を得ようとする男。それのなんとまあ胡散臭いことか。話も胡散臭ければ、見た目も笑い方も胡散臭いんだから、女の信用を得られるはずもなく。
「いいんじゃないの。正味どーでもいいわ」
「はは。反応の悪さ。辛辣だねぇ」
「だってそうでしょ。そもそも告白なんて脈アリの相手以外にするもんじゃないわ。それを見極められないヤツが悪いのよ。男も女も億千万と居ようと、それは変わらない真理でしょ?」
「……かもねぇ。好きでもないやつとは、一緒にいるとは思えんしねぇ」
「義務付けられてもしない限り、ね」
「おお、ドライドライ」
女は冷めたコーヒーを飲み干して、おかわりを頼む。
対する男はちびちび冷めたコーヒーを飲みながら言葉を続ける。
「過去の自分とはおさらばして、自信に満ち溢れた「リア充」になるらしいんだよ」
「……そう」
「ま、果たしてあいつらの思ってたスラング通りの意味か否かは知らんがな」
「だと思った」
歩道の車道側、今日も今日とて男女隣り合い、整然としたスーツ姿の変態集団が通り過ぎていく。
「「ああくわばらくわばら」」
二人は合掌して集団……その最後尾に居た、三日前に見たオタクくんを見送ったのだった。