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モブ勇者一行の帰還後日常伝  作者: 高菜AIかも
第1章
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もう一人の

「なんなのだ、このステータスはッ!?」


 異世界から召喚された勇者の力を調べていたある時、王様がそう言って指さすその先には…銀河達のクラスの中で、普段から目立つことの少ない少年・鈴木(すずき) (みなと)がいた。彼自身は勿論、彼のクラスメイト達や召喚に立ち会ったこの世界に住む者全員が思い黙ってしまった。“ステータス全てが()()()()”と…

 そんな中、一人の少年が湊に向かって涙を出しながら高笑いした。


「はーっはっはっはっは!!ヒィ…ヒィ…お前、本当に俺達と同じ世界から来たのか!!?“職業”が“盾職(タンク)”なのに防御も攻撃もスピードも一桁超えるか超えないかって…もしかして、元々はナメクジとかだったんじゃねぇーの!?ブフッ…」

「いや、まぁ…普通の人間なんですけどね。ハハ…」


 明らかに“バカにしてますよ”と言っているような態度を取るその少年に、湊は苦笑しながら斜め下を向いていた。そんな、周りが入っていくのを躊躇したくなる嫌な雰囲気を醸し出す二人に、少年が一人近づいて行き、間に割り込むように立ち塞がって言った。


谷嶌(やじま)、そういうこと言うのやめろ。見てるこっちもストレス溜まるから」

「はぁ?別にいいじゃんかよぉ…あー、しらけた。つまんねぇな、アマザキ」


 そう言って先にいた少年・谷嶌 啓人(ひろと)は湊とあとから来た少年・天ヶ崎 銀河の二人から離れていった。「はぁ…」と大きな溜息をついてから、銀河は湊の肩をポンポンと叩いて、彼にだけ聞こえるようにぼそりと呟く。


「…少なくとも俺と俺の幼馴染達はお前の味方だし、お前が成長する為に頑張るなら、必ず手伝う」


 そう言って彼も、自分の元いた位置に戻っていったのであった。


「と…取り合えずスズキ少年!君には今後どうしたいのか、考えてもらいたい。私的には、勇者の“職業”を持つ者達が魔王討伐を完了するまでの間、この王都で周りの者以上にこの世界について学び、ここから補助をする役割に就くのが一番良いと思うのだが…」


 王様のその言葉を聞いて、何かを考えこんで天井を見る湊。それからすぐに王様の方を向いた彼の表情は…何処か熱く、冷たく、重かった。


「それなら自分は…魔法を学んでもよろしいでしょうか?」

「ほう…それはどのような理由で?」


 王様は湊の目をジッと見つめそう問うた。


「主に身体への強化魔術や遠距離から障害物を設置することの出来る魔術、それと結界等を張ることの出来る術を身に付けたいのです。そうすれば自分の貧弱さや本来すべきムーブの分をカバ―出来るのではないかと思いました」

「確かにそうだなぁ…よし。では今後の君についての方針はそれに合わせてよう!よろしく頼むぞ、スズキ少年…!」

「は、はいっ!!」


 とてもいい表情で右手を目の前にいる少年に差し出した王様と、自分の両手で覆うように握手した湊に、その場にいた者の殆どが城の外に響くほどの拍手と歓声をあげたのであった―


 ―それから数週間、銀河や恭介が街の外で魔物たちとの戦闘経験を積んでいる中、湊は城の図書室で、床の上に読んで摘まれを繰り返された形跡のある数多の本の中心で、魔術を使った単体でもパーティーでも、はたまた軍でも使えるような戦術をいくつも捻りだそうと悩んでいた。


「…ぁあっ!!駄目だ!戦場に立てるまでに時間が掛かり過ぎる!!」

「どうしたんですか、スズキ殿」

「あぁ、セナさん…」


 彼の前に現れた薄茶髪の女性。名前はセナといい、彼らの召喚された王城にて司書をしている。

 セナは湊が今持っている本を取り上げると、ペラペラと数ページ捲った。


「ほほぉ…“物質設置式魔術の理論とその応用”ですか…」

「そうです。戦闘で壁役として“身体強化”系のを自分にかけても、掛け直しできない程まで魔力が少なくなってしまった場合、一度は後ろ下がってマナポーション摂取しないといけないじゃないですか?その時に遠距離攻撃きたら終わりなので一瞬でも堪えられる壁を作れるようにしたいんです」

「そうなんですか~、なら…」


 そう言ってセナは図書室の奥の方まで行き、数冊の本を縦に積んで湊の元まで持ってきて、そのうちの一冊を手渡した。


「これは…?」

「“複合魔術式とその応用”についての文献です。あとこっちは“基本魔力量の増加方法と属性別の魔力削減方法”ですね」


 湊は渡された本を開き、ペラり、ペラりとページを捲っていく。その中に気になる部分があったのか、顔を本に近付けて特定のページを開いたまま、別のページを捲り始めた。

 セナは湊が開いたままのページが気になり、後ろから覗き見た。そこに書かれていたのは同系統の魔術を同じ条件で発動した場合の必要時間と使用魔力、それと威力の差が書かれていた。


「…あぁ、そのページですか。これは確かにスズキ殿にとって最高なページですね」

「やはりそうなんですね!」

「…」


 そう元気な声で反応する湊であるが、その目線はずっと本の方を向いている。そんな彼の様子にセナは不服そうな顔をしながらそっぽを向く。だが先程も言ったように湊の視線はずっと本に向いているので彼はそんな彼女の様子に気付かないで話を続ける。


「セナさん、これに“魔術は級が上がる度、一段階下の魔術の約二倍の威力を発揮し、二倍以上の魔力を消費する”って書いてあるんだけど、防御系統の魔術障壁を二枚重ねるのと、一段階上の魔術障壁一枚…どっちの方がいいのか知っていたりする?」

「…」

「セナさん…?」

「…あー、スズキ殿がさっき言っていた場面なら二枚重ねの方がいいですね。防御系統なら重ねて発動した場合でもあまり条件が変わりませんし、例えば、自分が必ず守りたい部分だけ重なるように設置位置をずらしてもいいですね。確かスズキ殿の世界に存在するというショットガン?という速いミニ連弩砲のようなものに近い攻撃には多分有効ですよ」

「もしかして、そんな攻撃が来たことあるんですか?」

「いいえ。でも、魔物達の扱う兵器がどれほどかは分からないので可能性は全然あります。理解してください」

「そ、そうですか…」


 何故か棘のある言い方に変わったセナの言葉に疑問を持ちながらも、湊は次へ次へと本のページを捲っていく。

 それから暫くの間、湊が何度もセナに質問をしていると、


「セナさんこれは…」

「えーっとソレは…」

「湊さん、たっだいま帰りましたー!!」


 “ガチャ”っと扉が開き、3人のクラスメイト達が入ってきた。1人目は中くらいの背のハーフアップヘアの少女、大黒(おおぐろ) ひなき、2人目は少しポチャリとした体形の髪を後ろで一つまとめにした少年、和田(わだ) 英雄ひでお、3人目は湊の古くからの知り合いである銀河だった。


「和田君、ここ図書室だから静かに…!」

「おっとひなき氏、すまん」

「そうだよえいゆー。大黒さんが言った通りここは図書室…今この部屋にいるのが湊とセナさん以外にもいたら、普通に怒られる」

「そ、その通りだ銀河氏っ…!私はそれで一度怒られていたんだったッ…!」


 そう言って床にうずくまる和田に対し、手の甲で軽くペシペシと叩く銀河と、それをみて何故かナニかを考えこむ大黒。そんな様子を特に気にせず、本に半分視線を向けたまま湊は銀河達に手を振りながら言った。


「とりあえず、おかえりさん。今日の実戦で何か良いもの手に入った?」

「いやー…スライムローションぐらいしかないよ。あとこれ」


 そう言って銀河が取り出したのは黄土色と灰色が混ざったまだら模様の少し艶のかかったように見える石。他に何の特徴のない石。ただただ普通にしか見えない石…それを見てなのか、セナは「うーん…」と唸って上を向いて目を閉じたが、『まぁ、いいだろう』と思い、湊は銀河に率直な質問をした。


「なんでそれ持ってきた?」

「いや、自分でもただの石に見えるんだけど、なんとなく持っていけって言われている気がして」

「えぇ…呪われていたりしない?」

「…取り合えずこれはポケットに入れておいて…湊の方はいい案浮かんだ?」

「あぁ、それなら…」


 そう言って湊はセナに持ってきてもらった本を持ち、銀河に説明していった。それを横で聞いていた大黒達も何か新しい戦術が浮かんだのか、湊が積んでいたいくつかの本を手に取り、熟読し始める。


「つまり技術力を向上させていけば、この魔術とこの魔術を組み合わせて反射型にするのも理論上可能な訳で…」

「なら、ソレはこうしてこれを…」

「あぁっ!?その発想も使えば…セナさんこれどうですね!?」

「うーん…」

「あ、もしかしてダメ…」

「うぅ~ん…」

「…セナさーん?」


 湊はとてつもない笑顔セナに声を掛けようと思ったが、彼女は未だ上を向いているままだった。全く反応しないセナに対し、湊はローアングルの位置に行ってみたり、周りで飛び跳ねたり、大黒と和田を巻き込んで儀式のためのダンスのようなものを周りを旋回しながらやってみたりと色々したが、全部だめであった。

 もうこれ以上反応を期待できるとは思えなかった湊が、逆を向いたその瞬間、


「…あ、あぁぁぁぁぁ!!勇者殿が持っているそれって…!?」


 セナが銀河の持っていた石を指さして何かを言おうとしたその時、城内に何度も何度も鐘の音が鳴り響き始めた。それも、普通と比べ物にならないくらいには早く

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