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モブ勇者一行の帰還後日常伝  作者: 高菜AIかも
第1章
3/6

いるはずのない何か

すいません…他のも更新遅くて

 時刻は16時52分。俺達の前にはびっしりと計算式や用語の意味などが書かれたノートと、すべての解答欄が埋まった問題集…そして、完全に流体のようにグデ~ンとなった木葉がいた。別に俺達の通っている高校は偏差値がかなり高いわけではないが低くもない…簡単に言えば中堅というものだ。だが、国内最高偏差値の高校に通う学生の学力を100とするなら、うちの高校の生徒の大体は45~68で木葉は48程だろう。正直校内で中の下ほどの俺が言うのもなんだが、かなり木葉は勉強ができない…というより覚えることが苦手だ。


「よし、これでいいね。今日はここで解散しよっか」

「そうだな。木葉もう家帰るぞ~。立て~」

「うぃ~…」


 俺は力の入っていない木葉を持ち上げ、無理矢理立たせる。立った木葉はフラフラと体を揺らし、最終的には壁に凭れ掛かった状態で目を閉じて玄関へと歩いていく。荷物を置いたまま。木葉の荷物を全て持ち上げて俺と恭介達も玄関へと向かう。


「昌子ちゃん今日はありがとね。そのうち、このお礼はするから」

「うん。期待しとく」

「あとこの自律型幼馴染ちゃんはもうちょっと集中力と記憶力をどうにかしてほしいな」

「そうだな…」

「そうだね…」

「うぃ…」

「起きろ!」

「チョゲピッ!?」

そんな木葉に一発チョップを加えて三人で昌子の家を出ようと、扉を開いたその時、俺達は感じ取る…この世界ではありえない程の魔力の塊を。

,


「…お母さーん!ちょっと買い物行ってくるー!!!」


 そう言った昌子を含め、俺達は魔力を感じ取った方向へと住宅路を駆けていく。その途中、恭介達が俺に話しかけてくる。


「銀河!これって…」

「明らかに魔物だな。それも推定レベルB」

「というか近所の自然公園だよねこれ」

「銀河君どうする!?」

「…とりあえず木葉と昌子ちゃんは裏山に防音結界張っておいてくれ。恭介はこのまま俺と反応の方へ」

「「「OK!!」」」


 俺達は自分の姿を透明にした後、目の前のY字で二手に分かれ、移動速度を速くする。その途中、俺はスマートフォンを取り出し、チャットアプリを開く。


「そういえば、あいつ呼んでおかなきゃ」


 何度か着信コールが流れ、相手は電話に出た。


『はいもしもし~』

「ちょっと手伝え」

『いつ?』

「今」

『…緊急だね』

「すぐ来れるか?」

『1分待って…ツーツー 


 その言葉と共に電話が切れ、スマートフォンをポケットにしまう。魔力を感じた場所…一番近い自然公園には本来ありえない光景が広がっていた。この地域では生息しない程の大きさの生物が残したであろう木を抉るほどの噛み痕や爪痕、無残に散らばる烏たちの死骸、そしてその奥に潜む…トラック程の大きさの三つ首の奇獣。その姿を見て、俺と恭介は歪み…魔力宝庫の中から武器を取り出す。


「よりによってキマイラか…」

「アイツはまだなんか?」


 そんなことをぼやいていると、俺の横に鏡のようなものが現れ、そこから茶髪のストレートヘアに赤渕の眼鏡、そして透明感のあるローブに身を包んだ同級生の少女、朝霧 司(あさぎり つかさ)が出てくる。

「銀河ちん、こいつらをどこに送ればいい?」

「昌子ちゃんと木葉から何mかズレた座標に送ってもらえたらいい」

「おっけー…この規模の魔物は少し詠唱必要だから時間稼いでて」

「よし、恭介行くぞ」

「おう!」


 俺は紅色の片手剣、恭介は黒い大剣を持ち、正面と裏に回り相手側の攻撃が来るのを待つ。


「恭介、出来るだけこちらからの攻撃もアイツの攻撃による被害も減らすぞ」

「わかった」


 次の瞬間、いろいろな動物の鳴き声が混ざったような奇妙な音を出しながら、キマイラは俺に飛びついてくるが俺はバックステップでその攻撃を避ける。それからすぐ俺は一撃目を放つ。その刃でキマイラの地面をできるだけ最小限の体積を抉り体制を崩させる。キマイラは倒れたと同時に獅子の首から火を噴きだそうとするが、地面から現れたうっすらと黒光る鎖がキマイラの三つ首全ての口を開かぬよう縛り付ける。その鎖は恭介の生み出したもので、本人は大剣を地面に突き刺し踏ん張っている。


「よし!」


 その瞬間、司の術が起動する。俺達は一瞬だけ周りの何もかもが暗くなり、自然公園から結界の張られた裏山に移動しており、すぐ横には先にいた二人が立っていた。


「これ以外にモンスターはいなかった?」

「大丈夫、他のところからは魔物の魔力を感じないから」


「じゃあ私もここまで手伝ったんだからそのまま行きますかぁ…」


  そう言って昌子と木葉はどちら自分の杖を取り出し前方へと構える。


「“ストロング”&“ブースト”!!」


 木葉のその言葉と共に俺と恭介の四肢に魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣はその人物の特定の潜在的能力を発揮するもので、どこまでも駆け抜けていけそうなほどに脚は軽く、どんなものでも真っ二つに割れそうなほどに拳に力がひりやすく感じる。そんな状態で恭介は大剣を手に高く宙へと飛び、“オラァァ”と雄叫びを上げながら尾の蛇を上から切り落とす。それで自分なりに考えたのか、キマイラは一時退避しようとその羽で空を飛ぶが…


「行かせないよ!“ストーム・スラッシャー”!!」


 突然空に現れた昌子の放った斬撃により羽が捥がれそのまま勢いよく地面に落下する。それと同時に昌子も落下するが司の鏡のようなゲートに吸い込まれて地面近くに現れた同じゲートから綺麗に着地した。

 落下した時の衝撃も含めだんだんと体力がなくなってきたと思われるキマイラは山羊の頭からは冷気、獅子の頭から熱、龍の頭からは電撃のブレスを俺達に向かって放つ。だが、


「意味ないよ」


 そのブレスはすべてゲートへと吸い込まれていき、キマイラの頭上に出現した少し大きなゲートから複合された光線のような状態でキマイラの胴目掛けて放出される。そのブレスだったものはキマイラの右腹を中心に直径2m程の風穴を開き、完全にへたり込んだ。そこにすかさず俺と恭介…そして宝庫の中から取り出した短剣二本に持ち替えた木葉がそれぞれ別のキマイラの首を狙いキマイラの真上、正面、斜め上に移動する。俺達はそれぞれ武器に魔力を込め、俺は刀身に炎を、恭介は雷、木葉は闇を纏わせる。


「これで終わりだ」


 そう言い俺は正面から龍の頭を切り落とす。それと同時に二人もそれぞれの頭を切り落とし、首が地面にゴロっと落ちたキマイラの命は途絶えた。キマイラが死んだことを確認して、皆「ふぅ…」と疲れたように息を吐き、それぞれ安心したようにその場に座る。そこで恭介が言う。


「こいつなんでこの世界にいんだよ…」

「そうだな…」

「うん…」

「私達があっちに行く前こんな被害なかったはずなんだけどなー」


 その言葉に皆同感という風に考えこむが、司が立ち上がる.


「銀河ちん、私もう帰ってもいい?」

「あ、そうだな。今日はありがとう…今度買い物する時に荷物持ちか何かするからさ」

「おっけ~。厚い本50冊ぐらい持たせるわ」


 そう言って司はゲートの中に消えていった。それを見ながら俺達はなんとなく立ち上がり、宝庫の中にキマイラの死骸を雑に入れたり、戦闘で壊れた部分などを直して、女子二人をそれぞれの家に送って家へ帰った。

 玄関を開け、自分の部屋のある二階へと上がろうと下を向いて靴を脱ぎながら考えていると、ダダダと木の床を走る音が近づいてくる…


「駄目な方の兄さん…!帰ってくるのが遅いですよ!!」


 見上げると俺の目の前には、俺と同じ髪色のポニーテールに整った顔立ち。まだ成長しきっていない身体のラインがうっすらと浮き出たワンピースを身に纏っている俺の妹・天ヶ崎 悠香(あまがさき ゆうか)が立っており、その表情は何か起こっているようだ。


「いや、別に遅くもないしお前に怒られる理由もわかんないぞ」

「で、でも兄さんは成績がいいわけでもないですから外に出ている時間を勉強に当てるべきではないですか!?」

「いや、外に出ていたのは昌子ちゃんに勉強で分からない部分を教えてもらっていただけだし、お前の言う遅くなったって判定は木葉を送ったからだろうしな。もういいか?今日はもう休みたいんだ…」

「ちょ、ちょっと兄さん…!」


 俺は目の前に立っていた悠香のことを横にずらし、階段を上がっていく。タンタン…と音が響く途中、悠香は無意識かもしれないがボソッと言う。


「…こんなんだからあっちの兄さんと父さん達に見縊られて」

「あ?」


 階段の途中、俺はピタリと立ち止まり悠香の方を向く。俺が顔を向けると「あ、あ…」という今にも泣き出しそうな声を出しながら…ビクビクと震えながらその場に座り込む。


「に、兄さん…ごめんなさい…」

「…気にするな。俺は多分まだ怒っていないから」


 そう言い残し、俺はまた二階へと上がっていった。悠香は何故、俺の顔を見てあの場に座り込んでいたのだろうか。何故…俺はあんなことを言われただけで反応してしまったのだろう…そんなことを思いながら部屋に入り、ふと端に置いてある立て鏡を見た。そこに写っていたのは…


-うぁあがぁ、っぐうあぁぁぁぁぁああ!!!!-



 気が付くと目の前の鏡は何故か割れていた…これも魔物がこの世界に現れたことと何か関係があるのだろうか…?


「…今日はもう寝ようかな」


 そうぽつりと言い残し、ベッドに倒れたと同時に意識を手放してその日は終わった。

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