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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

復讐劇の前日談

作者: 角堂悠真



 久しぶりね聖女様。ああ、今はもう王妃陛下とお呼びしたほうが良いかしら。「何で」なんて野暮なことを言うわね。わざわざこの私が貴女に会いに来たのだから、お茶の一つくらい出してもバチは当たらないわよ。

 でも、貴女が驚くのも無理はないわ。3年前に死んだはずの者がこうして生きているのだもの。貴女と王子……いえ、国王陛下にとっては何よりも恐ろしいことでしょうね。

 あら、叫ぶなんてはしたないわ。でも残念ね。どれだけ助けを呼んでも誰も此処に来ないわよ。此処に来るまでにいた兵士はみ~んな夢の中。あと数時間は目が覚めないわね。


 まぁ、そんな事はどうでもいいわ。本題に入りましょうか。もう、そんなに怯えた顔をしないで頂戴、貴女に危害を与える気なんてないわよ。今日はただ、私の話を聞いてほしいだけ。だから貴女の声を奪ったの。安心なさいな、話が済めば貴女の声はお返しするわ。

 声を出せないというのは怖いことよね。でもあの時の彼女のほうがずぅっと怖かったはずよ。貴女は拘束もされていなければ、痛めつけられてもいないのよ。王妃という立場にあるのならば、それぐらいの恐怖ぐらい我慢なさいな。

 

 話が逸れたわね。じゃあ、懐かしい思い出話をしましょう。貴女も楽しんでくれるように頑張るわ。そう、貴女と彼女が来た時は誰もが驚いたものよ。聖女が二人も召喚されるなんて、この国の長い歴史の中でも初めてのことなんだから。

 貴女達が召喚されてから、貴女の話を聞かない日はなかったように思えるわ。聖女の力によって枯れた土地を蘇らせた事、治らないとされていた王子の病を治した事。他にも人々を救ったという話は数え切れないほどあるわね。貴女の存在は聖女として広まっていったわ。

 

 でも、彼女のことは何もなかった。だから私は彼女が気になったのよ。それで彼女のことを独自に調べ始めたの。そして驚いたわ。私は最初、貴女と同じで何不自由無い王都で人を助けた気になっている、愚か者だと思っていたから。

 そう、貴女が王都でチヤホヤされている時に彼女が居たところは貧民街だったのよ。そこで貧しい人々のために働いていたの。朝から晩まで人のために動き続け、私が彼女とあった時は倒れる寸前の状態だったわ。

 出回っている話に関しては貴女1人のほうが色々と都合が良かったのでしょう。如何にも元老院の屑どもが考えそうなことね。聖女を道具として利用できれば、教団でさえも下に置くことが出来る。そうなれば奴らに逆らうことなどできないのだから。


 だから奴らにとって彼女の存在は都合が悪かったのね。早々にこの国の貧富の差を見抜き、聖女の権限を使って教団を利用し、貧しい人々の支援をしようとした。そしてそれをよく思わない奴らが王都から彼女を追放したの。それで聖女は1人となった。

 それでも彼女は諦めなかったわ。貧民街で1人で人々を救い始めた。そんな彼女に私達は惹かれたのよ。王都やその周辺の豊かな地域では、貴女の存在しか知られていなかったけど、大半の地域では彼女の存在はとても大きなものになっていたのよ。貧しいものに見向きもせず、豊かなものしか救わない者はとても憎まれていたけどもね。


 そうしてどんどんと彼女の支持は上がっていった。それこそ反乱でも起きそうなほどに。屑どもはそれを恐れ遂に国を挙げて私達を討ちに来たわ。酷いものだったわよ。自分が守るべき国民でさえも奴らはなんの躊躇いもなく殺し、果ては子供でさえも焼き払う、畜生共の集まりだったわ。

 少なくない犠牲を払いながら、私達は後少しで勝利というところまでいったのだけれどね。とてつもなく卑劣な手段を使われたのよ。奴らは王都に住む者たちを捕らえ、少しずつ処刑していったの。それを止めたければ彼女の身を引き渡せとね。

 勿論私達はそれに応じなかった。でもある者が彼女を国に引き渡したのよ。なんでも捕らえられている者の中に妹が居たとかね。その妹は兵士に強姦されたショックでとっくに自殺していたみたいだけど。


 さて、その後どうなったかというと彼女は人々を誑かした魔女として火炙りにかけられることになったわ。その処刑は貴女と王子も見ていたでしょう。そう、私が死んだとされる日ね。あのとき程自分の無力さを呪った日はないわ。後もう少しで彼女を助けることができたのに私はそれはできなかった。

 何本もの槍で体中を刺されて薄れていく意識の中で私が見たものは、悲痛に歪んだ彼女の顔。あんな顔をさせるために私は戦ってきたんじゃないのよ。彼女にずっと笑っていてほしいから戦っていたのに。


 そして私は仲間も敵も入り乱れている、死体の山の中で目を覚ました。死んだはずなのに、私は生きていたのよ。傷は全てなくなっていたわ。まるで最初から無かったみたいにね。

 私が死んだ後の話を聞いたら、何でそうなったのかはすぐに分かったわ。あの後、乱戦状態となりながらも彼女の死刑は決行された。私達の希望を早々に奪いたかったのでしょうね。死にゆく彼女が何を思い死んでいったのか、それは分からないけれど彼女は最後に禁忌を発動させた。兵士が次々と死んでいく惨状を貴女も見たことでしょう。でもそれは、単なる魔術に過ぎないわ。本来の禁忌のカモフラージュとしてのね。

 ……彼女は自身の命と交換に私を生き返らせたのよ。

 

 だから私はこの世に留まることができているの。さてと、大雑把になってしまったけど、私達の話はこんな感じよ。ではそろそろ、私が此処に来た本当の理由でも話しましょうか。まぁ此処に来たのは貴女に3年前の真実を教えるということでもあるのだけど、それは私のあなたに対する八つ当たりでしかありませんから。

 ですがあと少しでもう1つの目的が分かることになるでしょう。ほら、来たみたいですよ。兵士からの定期連絡が来なくて、愛する貴女の身になにかあったのかと心配してくれている偉大なる国王陛下が! 


 ああもう、女性の部屋にノックもせずに入るなんて、礼儀がなってないわね。国王陛下ともあろう貴方がそんなことではこの国はどうなっていくことやら。

 さて、では国王陛下、王妃陛下、並びに兵士の皆々様、私が此処に来た真の目的は、貴方方に対する宣戦布告にございます。一週間後、我々は王都に攻め入ります。勿論今回は民に被害は出させません。彼らは皆こちらで保護しております。あのような卑劣な行為させるわけにはいきませんから。

 

 そんな怖い顔をしないで頂戴。今此処で貴方達を殺すことに意味はありません。もっと皆が見ている前で私が貴方を討つことに意味がある。

 では、一週間後を楽しみにしておいてください。貴方方は皆、殺します。

 

 そして愚弟、貴様は私が絶対に殺す。私を殺し彼女を殺し、自らの父も守るべき民すらも殺し、そうして得た玉座はさぞ気分が良かったようね。ですが残念、その玉座は私のものよ。絶対に返してもらうわ。

 彼女の望んだ世界を実現させるためならば、私は何者にもなってみせるわ。そしてそのために貴様らには死んでもらう。それが嫌ならば今度は姑息な手等使わずに抵抗してみせなさい。こちらも全力を持って応えるわ。


 ふふっ、雰囲気出ていたでしょう。これにて私の話はおしまい、皆のもとに戻るとするわ。目的は達したことだしね。さぁ、次に会う時は戦場よ。できるだけ苦しみながら殺せるように努力するわ。

 じゃあ皆様、私が殺すまで決して死なないように気をつけてね。私はその日が来るのを楽しみにしているわ。では、失礼。

 


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