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来た

「ここに、俺を殺しに来るかも知れないの?」

「霊感剥製屋をネットで調べて、ここまで凶器を得に来た。下調べも兼ねていたかも。大胆なサイコパスだからセイの身が少し心配だった。非情な人殺しだったなら、かなり心配……」

 聖も消す予定。

 初めから、そういう計画。


「でもさ、なんで、さっさと動かない? アイツとしては、凶器の所持者として俺が警察に引っ張られてからでは遅いだろ。留置所に入ったら殺せない」


「確かにそうだわ。口封じに殺すなら、セイが事情聴取を受ける前に……あ、でも、ネイルガンが見付かったのは最近よね?」

「報道は3日まえかな」

「3日で所有者に辿り付くかしら?」

「今時のネットで注文、じゃないからね。古い輸入品。親父が何処で買ったか知らない。そもそも買ったかどうかも知らない。だけどレアな物だけに、所有者は少ない」


「3日以内は無理そうね。簡単に所有者に辿り着けないと犯人も調べているわね。セイに犯行を知られているとは知らない。口封じは事情聴取に間に合いさえすればいい訳ね。事故を装うなら、即行動しそう。事件の翌日でも良かった。まだ接触が無いのは遅いような……、あ、自殺を偽装する計画かもしれないわ」

「俺が、自殺したことに?」

「そうよ」


「自殺の理由は?」

「警察に捕まる前に死ぬの。だからね、タイミングとしては凶器が発見された報道の後」

「自分で凶器を放置したのに?」

「あ、そうか。わざわざ、証拠を警察に渡したのよね」

「保身考えてないじゃん」


「それよ、初めから捕まるつもり。初めから死ぬつもり。道連れの無差別殺人よ。自分では死ねなかった。死刑になりたかった。……でも凶器が見付かって、いよいよ連行される間際になり、死刑より自殺を選んだ。これですっきりするでしょ」

犯人のプランを推理できて

マユは嬉しそうだ。


聖は嬉しくはない。

「俺って、自殺しそうなタイプ?」

「いやね。そんなタイプ分け、無いでしょ。幸せそうに見えた人が突然自殺ってあるじゃない」

「そういうものかな」

「とにかく危険が身に迫っていると用心して」

「……アイツ、此処に来るの?」

「わからない。だけどね、もし来たら、殺しに来たのだと想定して」

「……分かった」

 まだ明かではない危険に

 実感が無い。


 起こる可能性がどれ程か、

 それさえ分からぬ

 マユの推理に納得したが

 身構え怯えるのは馬鹿馬鹿しい気がした。


 結果、一夜明けた後には

 (用心しなければいけない)のが、頭にない。

 

 日ごとに夜明けが遅くなる季節

 聖の1日の始まりも、遅くなって

 8時前まで2階の寝室に居た。


 カーテンを開け、

 外を見る。

 晩秋の良く晴れた朝。

 空の色が濃い

 色づいた紅葉が美しい。


 「くわーん」

 と側でシロ。

 伸びをしながら気持ちよさそうに鳴く。


「いっぱい寝たから腹減ったな。……何食べようか」

 冷凍庫と冷蔵室の食料を思い浮かべる。

 フランスパンに

 サーモンフライを挟んで、

 茹でたブロッコリーも解凍して……


 階段を降りながらメニューを決める。


「すぐだから、ここで待ってて」

シロを残して1人で作業室に、

入ろうとした時に

何者かの気配を感じた。


「……誰か、居る?」

部屋の中を見回す。

ソファには何も無い。

入り口ドア付近に誰か立ってもいない。

気のせいか?

否、違った。


「神流さん、会いたかったで」

声が聞こえた。

小さな声だ。

部屋の中から?

もう一度見渡す。

……誰も居ないけど? 

「どこ?」

 声の主が誰かより、どこにいるのか

 気味が悪くて聞く。


「どこって、ここ。犬かな……ちゃうな、コレは熊や。小熊やな。目の前に、おるやん」

 小熊の剥製だったら、剥製棚の前に、見えている。

 すぐそこに……しかし、誰も……。


「新宿では時間が無くて、一緒に飲みたかったのに残念でたまらんかって。ほら、林のパーティで……ゴジラの前でも、都庁でも偶然、会ったやろ?」

 セイが目の前にいるかのような口調。

 だが、声は遠い。

 

「アンタとビール飲もうと…………おもてた」


「……なるほど。黒犬さん、でしたね、たしか」


 聖は、やっと声の元を見つけた。

 喋っている、口を

 小熊剥製の陰に見つけた。


「お好み焼きも買って……思ってたんやで。……手ぶらで来てもうたけど。すまんなあ」

 悔し気に言う。

「いいよ。そんな。仕方ないでしょ……」

 ビールかお好み焼きに、毒を仕込む気だったのかと、

 ちらりと思った。

 だが、責める気にはなれない。


……(手ぶら)で来るしかなかった。

 

……手も、無いのだから。

 



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― 新着の感想 ―
[一言] も、もしや、、、 ドキドキする展開!
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