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ネイルガン

「セイ、恐ろしい人だわ。……短い間に二人殺してるのね。それも一人は子どもなんて」

工房に戻った夜に

早速マユに話した。

 <黒犬>との接触の全てを。


「辺りで、騒ぎはなかったの?」

 尾行するつもりで展望室から地上に降りたが、

 人混みの中に<黒犬>を見つけられず、 

諦めて新宿駅へ向かった。

その間、サイレンが鳴り響いていた記憶は無い。

 

「犯行はパーティの直後と、聖とゴジラホテルで会ってから翌日展望室で会うまでの間ね。事件でも事故扱いでも、そろそろ報道されているかも」

 最新ニュースをチェックする。

 パソコンの画面をマユと一緒に見る。


 東京、事件、

 聖は、

 自分の見間違いで、何事も無かった結果を祈った。

 しかし、

 該当する事件が

 真っ先にヒットした。


 新宿で男児が何者かに首を刺され、病院に搬送されたが死亡。  

 また今日未明、同区内バス停留所で同じく首を刺され心肺停止状態の遺体発見。

 ……連続無差別殺人か?


「速報ね。まだ詳細は分かってないみたいね」

「やっぱり、アイツは二人殺したのか」


「……変ね」

「何が?」


「遺体発見現場の、バス停留所の画像はあるのに、子どもが刺された現場の映像は出てない。

 日曜の新宿での通り魔事件よ。大騒ぎになった筈なのにね」

「どうせすぐに捕まるよ。至る所に防犯カメラが設置されているんだ。変わったジャケット着ていたし。犯人の画像が出ればすぐに素性が割れる」

「変わったジャケット?」

 展望室で撮った動画を見せる。

 大勢の観覧客が重なって

 <黒犬>はちょっとしか映ってないが。


 動画の撮影時間は午前10時20分から3分間。

 中肉中背

 黒髪はすっきりカット

 色白

 やや面長で整った顔立ち。

 画像で見ると、

 知的な、真面目な男に見える。

 ペラペラ関西弁で喋っていた馴れ馴れしい男

 頭に刻んだイメージと違う。

 目立つジャケット以外は。

(ズボンも靴もシンプルなデザインの黒。ジャケットの下に着ている服は見えていない)


「戦争に行くみたいなジャケットね。ミリタリーショップで売っているの?」

「既成のデザインでは無いかも。……ラグラン袖でゆったりしているだろ。……あ、コレ元はフード付きのコートだ」

 フードを切り取り、裾を短くして、襟の無いジャケットにリメイクしている。

 結果、変わったジャケット、に見えるのだと気が付いた。

 


「成る程ね。この時は手ぶらね」

「うん。ゴジラの前であった時も鞄は持っていなかった」

「じゃあ、凶器はジャケットのポケットの中ね」

「そっか。外にも内にもポケット一杯だからね」


「それにしても、友人の結婚式のついでに犯行は、酷すぎる。狂っているわ」

「そうだね。従姉妹の旦那は感じの良い人だった。『黒犬』は友人らしいけど、浅い関係だといいな」

「本当にね。カナさんが気の毒。傷つくでしょうね」


 聖は、加奈なら大丈夫だと思っている。

 夫の友人が人殺しで

 自分の結婚式の帰りの凶行と知って

 心にダメージを受けるような

 柔な心臓じゃ無いと、知っている。


翌日には被害者の情報が報道された。


新宿駅ちかくのバス停のベンチで亡くなっていた<A>は

68才のホームレスの女だった。

このベンチはホームレスが身体を休める場所でもあった。

ホームレス仲間の一人が、

顔見知りのAが死んでいるのに気づき、通行人に助けを求めた。

早朝の事だ。

Aは座った姿勢で上体を前屈させていた。

黒っぽい服を重ね着していたので

ネオン明かりの下では、流血に、気が付かなかった。

死亡推定時間は前日(10月3日)14時から20時の間。


もう一人の被害者Bは都内在住の9才の男児。

「子どもが首から血を流している」

と、母親が新宿駅構内で駅員に助けを求めた。

Bは障害があり車椅子で移動していた。


母親は、いつ誰に刺されたか分からない、と言っている。

電車の中でBは眠ってしまったので、

声を掛けて返事が無くても眠っていると思っていた。

Bは茶色のタートルネックのセータを着ており

出血が目立たなかった。


救急搬送された医師によると

刺されたのは病院到着の1時間以内、

10月4日、午前10時頃と推測された。


母子は乗り換えの為新宿駅構内に居た。

母親は構内のトイレに行き、

構内のコンビニで買い物をした。

この間、子から離れたという。


「子どもは駅の中で刺された。昨日は何処で刺されたのか不明だった。それで事件現場が報道されていなかったのね」

「アイツ、新橋のビジネスホテルに泊まると言っていた。電車で新宿まで来たんだ。構内で子どもを殺して、どうしてだか展望室に来ていた」

「今頃警察は駅を調べているでしょう。防犯カメラに写っているわ。犯行時間も場所も絞られている。すぐに捕まるね」

「そうだよな」

 すぐに捕まる。 

 聖は信じていた。

 奴はサイコパス。

 無差別殺人をまた、ヤルかも知れない。

 野放しは危険だ。

 自分だけが犯人を知っているなんて荷が重すぎる。

 

 一刻も早く、<黒犬>を捕まえて。

 毎日祈った。

 重要参考人から事情聴取と、報道されるのを待った。


 二週間過ぎても

 報道は凶器特定、のみだった。

 凶器はネイルガン。

 被害者は首を刺されたのではなかった。

 釘を打ち込まれていたのだ。


「セイ、ネイルガン、って知ってる?」

「電動釘打機。金槌で打たなくていいんだ。……充電式の、親父が買っていたような」

「えっ? 此処にあるの?」

「多分。俺は一度も使って無いけど」

「……どこにあるの?」

「えーと。外の物置かな。大工道具と草刈り関係は物置に入れている」

「ねえ、物置、鍵、掛けているのかな」

マユが大事な事のように聞く。

住居でさえ鍵が無いのに

物置に鍵を付けている訳はない。


「セイ、まさかとは思うけど、確認した方がいいかも」

「何を?」

「ちゃんとネイルガンがあるかどうか」

「へっ?……何で? あるだろ。猿が持って行かない限り」

 猪もカラスも狸も、物置は開けられない。

 猿が本気を出せば開くかも。


「そうね。もちろん、あるわよね。なかったら大変な事よね」

「大変なこと?」

「いいのよ。あれば、それでいいの。余計な心配してるだけ。ちょっと確認してくれたら私の気が済むから」

「……分かったよ。明日確認します」

 聖はマユが何を恐れているのか

 見当も付かない。


「はあ? 明日? ふざけてるの?」

 マユが怒った。

 初めてマユの目が吊り上がってるのを見た。


「はい、すぐ、やります」

 懐中電灯握って外へ飛び出る。


 物置は外壁にくっつけて置いてある。

 ホームセンターで買った高さ2メートル幅3メートルほどの

 ステンレス製。

 滅多に使わぬ重い工具は左の隅っこに。

 ……ない。


「……そんなバカな」

ネイルガンがない。

ケース事無い。

猿が盗んだのでは無い。

消えたケースの隙間を埋めるように

他の工具がきちんと収まっている。


この<きちんと感>は

猿のやった仕事では無い。


自分でもないと、言い切れる。




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