表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

タートルネックとインコの羽根

(また此処だよ)

(お得意様やな)

(この山は呪われている)

(そうやな)

(おお、怖い)


駆けつけた警察官らが呟いている。

聖は

またも第一発見者となった。


事情聴取されるのもすっかり慣れた。


首が、工房の中に有ったと言ってない。

犬が咥えていたと証言した。


吊り橋に張られたワイヤーについて

自分が疑われると予測していたが

何故か、そんなそぶりは無かった。


家の中を調べられる事も無かった。

死んだ男を知っているかとは聴かれた。

「わかりません」

と答えた。

生首は、今はカラスに啄まれ

顔のパーツが崩壊している。

知人程度の間柄で

誰の顔か言い当てたら、おかしいだろう。

ぐしゃぐしゃ、なのに……。


陽が落ちて

遺体もオートバイも回収が済んで

大勢の警察官が引き上げた頃

やっと

結月薫が来た。


吊り橋を渡らず山田動物霊園への道から

歩いて来た。

「セイ、お疲れさん。風月堂のお好み焼き、持ってきたで。ビールも」

と上機嫌。


「お好み焼き、なんだ」

ちょっと嬉しい。

河原で子猿たちが食べているのが美味そうに見えた。

ああいう状況で不謹慎で、さもしいが。

香ばしいソースの臭いは食欲を誘った。


 「あれには毒はなかった。胸ポケットに農薬を持っていた。目薬の入れ物に仕込んで」

  やはり、自分を殺しに来たのか。

  殺しに来て、死んじゃったのだ。

   

「あのワイヤーは、何だったの? カラスの悪戯?」

「悪戯は悪戯やな。極めて悪質な。ただし、やったのはカラスや無い。中学生や」


「中学生、なのか」

人間であった事に驚いた。

顔見知りのカラス達か猿が、どっかに落ちているワイヤーを拾ってきて

吊り橋の上で遊んだ結果、ああなったと。

それが一番有りそうだと。


「昨日の午後にな、アイツら(中学生男子3人組)この川に掛かる橋に、数カ所同じ罠を仕掛けてた」

山田動物霊園前の橋にも同じワイヤーが張られていた。

事務所番の中川が気付いた。

橋の下に隠れて様子を伺っている犯人達の姿も見た。

すぐに警察に通報した。

 制服からどこの中学かは判明している。

 すぐに特定できるだろう、と言う。


「でも、なんで知らせてくれるとか、吊り橋を見に来てくれるとか。そういうことが隣の橋であったのに」

「それがな、速攻で一斉に橋を調べるように自治会にも連絡したんや。此処にも巡査と消防団が確認に来た」

「来たのに、なんで?」

「午後6時過ぎや。県道から歩いて吊り橋を目指した。すると、山道の途中に原付バイクが停まっていて、側に(村人では無い)男がおった」

 故障か、ガス欠かと問うた。

職務質問だ。

男は違うという。

緊急の電話が掛かってきたので通話していただけと。

そして、怪しい者では無い、この先の剥製屋の友人と

愛想良く喋る。

お好み焼きを持って尋ねたけれど留守だったと。


吊り橋を渡ったかと確認した。

男は、もちろん、と笑った。


命に関わる重要な質問と思いもせず、軽く嘘を付いた。


「ほんでな、確認の手間を省いた訳や。今、吊り橋を渡ってきたと言うんやで。ワイヤー無し、と判断するやろ」

南マコトは、

恐らく県道で消防団や警察がウロウロしているのを見たのだろう。

それで森に隠れて様子を伺っていた。

<職務質問>をクリアした後、剥製工房に、

聖の元に向かい

張られたワイヤーで首を切断。即死した。


「えっ?……来たのは今朝じゃなくて、昨日の夜だったの?」

 ……生首は喋った。

 切断直後に数秒意識が残ると何かで読んだ。

 本当に喋ったのかと考えていた。

 でも、違った。

 やはり霊現象だったのだ。


「朝早くに、お好み焼き持って、来るかいな。セイ、全然気がつかんかったんか? オートバイが川に落ちてるんや。相当な衝撃音やで。さては大音量で戦闘ゲームでもしてたんやな」

「昨日の夜は……してたかな」

 近々新作発売の戦闘ゲーム(予約してる)、

 ゲットする前に前作を、普通、やるじゃん。


「それにしても、悪人とはいえ、滅多に無い不運な死に方だよな」

「本人にしたら超不運やけど、家族にしたら事故死してくれて有り難い話かもしれんで」

南マコトを、重要参考人と確定したばかりだという。

現時点では容疑者と断定出来ない。

つまり氏名が報道される状況ではない。


「アイツが犯人と、警察も分かっているのか?」

「新宿署に大学同期の奴がおって、それに聞いたんやけど、殺された子の、母親の身辺を洗い、南マコトが出てきたらしい」

「それって、まず母親を疑ったんだね」

「そうやで。始めから言動がな、変やったんや」

「どんな風に?」

「演技が過剰やったと、聞いたで。泣きすぎたんやと」

 始めに新宿駅の改札駅員に助けを求めたとき

泣き叫んでいた。

救急隊を待つ間もずっと泣いていた。

救急車の中でも

病院で治療を待つ間も

一生懸命、泣き叫んでいた。


「親はな、子どもが怪我したら、あるまじき事態に怒り、怖い顔しているもんや。悲しみ泣くのは絶望の後のリアクションや」

 いつ刺されたか分からない、と何度も繰り返し

 一度も子に触らなかった。


「何より怪しかったのが小豆色のタートルのセーターや」

 被害者の服装だ。

 半身麻痺の子どもに、着せにくい服を無理矢理着せていた。

 

「血が目立たない服を着せてたのか」

「そうやで」

 用意周到過ぎたのが裏目に出たのだ。

「母親は覚醒剤所持の前科があり、多額の借金もあり、半年前に子どもに保険を掛けていた」

「それで、自白したの?」

「半分な。ネイルガンを打った男は、子の父親やと。そこから先は黙秘中らしいで」

 父親の名は言わなかった。

 

 過去を洗うと、すぐに劇団仲間の南マコトが炙り出た。


「なんでアイツが父親だと?」

「それはな、そっくりなんや。まるでコピーや。そんな親子おるやろ」

 事件当日新宿近辺に居たと判明し、疑いは深まった。

 だが、証拠は?

 凶器のネイルガンは聖の所有物なのだ。


「どこから盗んだかは重要では無い。拳銃やないから。南マコトが事件直前に所持していた事が問題や。家ん中調べたら物証は出るやろな」

「どんな、証拠?」


「インコの羽根や」

「え?」

「ネイルガンのケースにインコの羽根があったんや」

「……特定できるの?」 

南マコトがインコを飼っていると、加奈に聞いた気がするが。


「特定できるらしい。見付かったのは1羽の羽根やない。6羽や。ちっこい羽根やけど、色の違う6羽のセキセイインコと、わかるんやて」

 室内で鳥を飼っていた。

 インコはしょっちゅう羽根が生え替わる。

 小さな羽根は綿埃のように、何処にでも舞い降り、くっつく。


「そうか。アイツの計画は破綻していたのか」

「セイに罪を被せるのは無理やったな」

「ところでさあ、やっぱ俺は狙われていたんだ」

「そうやで」

「軽く言うなよ。俺を守ってくれると思ってたのに」


聖は薫に守られていると、どこか安心しきっていた。

もし、事故死しなければ、家に入ってきていた。

お好み焼きとビールと農薬を持って。

聖を殺しに来たのだ。



「もちろん俺なりに計算して護衛する気でおったよ」

「そうなの?……でもさあ」

 実際現れたのは何もかも終わってからじゃないの?


「そうやな。でもなあ、結果、良かったんやで」

 歯を見せてカカと笑う。

 今夜はずっと上機嫌。

 何で?

「なにが良かったのさ」

「犯人が動くのは今晩くらいかな、と。刑事の勘やな。今晩から年休取ってプライベートタイムでお前を守ろうと。1日早く来よったけど」

「……そうなんだ」

「な、よかったやろ。もし俺が夕べ、アイツより先に来てたら、えらいコトやったで」

 もし、薫が1日前に来ていたら 

 いつものようにオートバイで……。

 首無し死体に、なっていたんだ。

 

 上機嫌の謎は解けた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ