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吊り橋上の惨状

「あんた……ええなあ……自由で、ええなあ、犬もおって……」

南マコトの言葉は途切れた。

聖は生首との距離を詰める気は無い。


なんで、首だけの亡霊が居るのか

亡霊だよな。

コイツは既に死んでいる……。

いや、

生き霊かも知れない。


どっちにしても

気味が悪い。

近づいて眺める気もしない。


「さっさと消えろ」

唱えて眼を閉じる。

目を開けたら消えてればいいと。

「消えたか?」

消えてない。

生首は在る。

在るが変化している。

見開いていた目玉が今は閉じている。


実体ではないくせに

霊の類いなのに

細かい芸が出来るのか?


「ねえ、足で蹴ったら消えると思う?」

いつからか足下に居るシロに聞く。

足で蹴る、のも本当は嫌で

シロがやってくれないかと甘えてみる。


「ワン」

愛犬は主の思いを察したのか

短く吠えて、さっと生首に寄っていった。

同時に

入り口の扉がバタンと開いた。


ひゅー。


冷たい風が落ち葉を運んで中に入ってきた。


扉に鍵は無い。

老朽して隙間が在るので

時々、勝手に開くことはある。


聖は扉に気を取られ

何はともあれ寒いので

閉めようと……


するとシロが、

閉めかけた扉の間から

さっと、出て行った。


「シロ……何か咥えてる?」

シロは飼い主の声に

動きを止め

こっちを向いた。

……生首をぶら下げて。


髪をしっかり咥えていた。

首の断面から血が、

だらだら流れている。


「超リアル! 本物みたい。スゴすぎ」

感動する。

ゲームの上出来CGに喜ぶみたいに。


……本物の生首と、思いもしなかった。

忽然と湧いたように

小熊剥製の陰に在った。

喋る声も聞いた。

霊現象に、決まっていると……。


シロはスタスタと吊り橋の方に向かった。

「どこ行くの?」

追って外へ出る。

吊り橋全部が、視界に入る。


「な、なにしてんの?……お前ら、なにしてんの……」

吊り橋の上には

大量のカラスが居た。

吊り橋上に山のように盛り上がっている、


シロがカラスの群れの側に行く。

その次に

咥えていた荷物(生首)をゴロリと置いた。

数羽のカラスが群れから外れ始め

生首に貪り付いていく。


群れの本体が少し揺らぐ。

結果、何に群れているかが

見えた。

……人、のカタチだ。

吊り橋の真ん中に

人が倒れているらしい。


……死んでいる。


「こら、それはダメ。喰っちゃダメ」

聖は吊り橋に足を踏みいれた。

カラスたちは

主に従う下僕さながらに

聖の声に反応する。

さっと

啄んでいる死体から離れ、吊り橋の手すり上に移動した。

結果、状況は更に露わになった。


まず、吊り橋が壊れているのが見えた。

左側の柵が3分の1、消えている。


横たわっている遺体には首が無い。

性別は男。

黒の防寒素材の上下。

遺体の側に

シロが置いた首。


何が起こったのか?


摩訶不思議な

とても現実とは思えない光景ではないか。


おびただしい数のカラスが吊り橋に群れ

聖を見ている。

手すりの上に沢山。

……あれ?

なんか変?

手すりと手すりの間一列に……。

何も無い筈の空間に

カラスが10羽程一列に、居るではないか。


「おい、何に留まってる?」

近づいて確かめれば

吊り橋の中央に、

手すりと手すりに引っかけているように

細い固いワイヤーが張られていた。


「針金?」

触ってみれば指が赤く染まった。


「おい、お前ら何かした?」

思わず大きな声で叫んでいた。

カラスたちは

一斉に

かあかあ

ご機嫌な鳴き声。


それに混じってキイキイと

獣が河原で鳴く。


吊り橋の上から下に

河原に視線を落とす。

そこには猿が数匹。

何かを……よく見れば、お好み焼きを、食べている。

その前に

原付バイクが横倒しになっていた。


聖はこれらの光景が

どういう出来事の結末なのか

大急ぎで推測してみる。


遺体は<黒犬>、南マコトに違いない。

原付バイクで、ここに来た。

お好み焼きとビール持参で(毒入りかも)

マユの推理通り

自殺に見せかけて自分を殺しに来た。


県道からの山道を下ってきた。

慣れていなければ減速は難しい。

相当なスピードで吊り橋に。


手すりに張られた(謎の)ワイヤーに気付かない。


<黒犬>は首を切断。

バイクは柵を破り河原へ落ちた。

頭は勢い良く飛んだ。

飛んで転がって

小熊の剥製に辿り付いた。

(偶然工房の扉が開いていたのか)


「生首が喋ったなんて警察には言わないでいいか。……ややこしくなるよな」

生首はシロが吊り橋の上に移動させてしまってる。


今見ている光景だけを、通報することにした。

 結月薫にも、手短なメールを送った。





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