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蜘蛛の王 タラテラ

 

 目覚め。 日は出ているが、時計は昼よりも前を示している。 ずいぶんと規則正しい生活が身についたものだ。


 それを(しつけ)た当人はいない。 今、あいつにとって最も危険なのは俺のそばだろう。 力を身につけるまでは修行の旅に出ている。 というのも、俺の仲間の元に預けただけ。


 体を起こしリビングへと向かうと、玄関からノックの音が響く。 ノックと呼ぶのは適切かどうか。 叩きつけるような乱暴さ。 不規則なその音は焦りのようにも思える。


 扉を開けると、子どもの姿。 男の子は俺の顔を見るや否や腕を引っ張り連れ出そうとする。


「お願い! ついてきて」


 やはり焦っているようだ。 事態の説明すらする暇もない様子。

 この子ども、どこかで見たことがあると思えば、教会の住民のひとりだ。 レンと率先してよく遊んでくれているのを思い出す。


 教会に何かあったのかも知れない。 俺は子どもを担ぐとすぐさま教会へと向かった。


 教会内に来るや、信じられない光景が待っている。

 すでに、敗北せし守護者。 筋骨隆々な大男の前に、膝をつくエンヴァの姿があった。


「その白き炎。 見事であった。 さらば強き男よ」


 大男は振り上げた腕をエンヴァに向け振り下ろす。

 間に合うかどうか。 俺は子どもを置き、急ぎ防がんと動く。 巨体に似合わず動きは俊敏。


 だが、間に合った。


 大男の腕を受け止めることは叶ったが、その重い一撃は芯まで響く。 俺の足元の床が陥没するのが何よりの証明だった。


「俺の一撃を受け、なお壊れぬとは。 見事な男よ。 だが、男の勝負に割って入るなどと……」


 男はもうすでに次の攻撃の体制を取っている。 あと数発なら耐えられるだろう。 だが、連続して殴られればどうなる。 火を見るよりも明らかだ。


「ストップ。 ダイナ。 大物が釣れたってわけ」


 大男の背後から、さらに男。 赤を基調とし、白く蜘蛛の巣のように広がる紋様のスーツ。 彼の一言で、大男の拳はすんでで止められる。


「ほう。 つまりはこの男か」

「そういうわけだって。 なぁ、ダイスさん」


 このスーツの男。 俺は知っている。 シャドータウンの二代派閥。 その一つ、蜘蛛(エイトレグス)のボス。


「タラテラか。 お前が」

「見事、もう知られてるってわけね」


 タラテラの情報はない。 タラテラは秘匿主義者で、自分の関わる事実を全て隠して回る。

 タラテラとは、みんな名前だけを知る。 それ以上を知ったらものは消される。


 タラテラは焦る様子はない。 俺が顔を見ただけで名前を当てて見せる。 にもかかわらず、彼はそれが当たり前という態度をとってみせた。


「お前らの目的はなんだ?」


 俺は聞く。 やつらが簡単に明かすとも思えない。


「それは君の目的を教えてくれたら聞かせてやるってわけさ」


 案の定、彼は答えを濁した。


 タラテラが右手を振り上げる。 同時に、10を超えるスーツ姿の者たちが教会内になだれ込む。

 彼らは俺たちを囲むように立つ。 逃がさないつもりだろうか。


「かのダイスだろうと、囲めば勝てるさ。 これは卑怯ってわけ……じゃないよな?」


 タラテラの言葉。 それはあまりにもくだらない内容だった。


 俺は笑って答える。


「雑兵を集めてなにをする。 そんな小細工が通用しないから、強者というんだよ」


 さすが歴戦。 タラテラは動揺を見せない。

 それでも、彼の兵たちまでそうはいかない。 兵たちに緊張がはしるのが見てとれた。


「タラテラ。 やつの言うことに一理ある。 そんなものより、重い一言があるだろう」

「はぁ……分かったよ。 やれ、ダイナ」

「ああ。 ようやくか」


 ダイナと呼ばれた大男は、嬉しいのだろう。 いい笑顔で、こちらを見下し歩み寄る。


「エンヴァ、お前は2対2の経験は?」

「全くない。 自信もないですね」

「だろうな。 その強さなら必要ないだろうし。 今回は俺が前衛を務める。 背中、任せたぞ」


 集団戦では、陣形という概念が生まれる。


 前衛は盾の役割。 硬いか早いやつが務め、敵を止める。

 後衛は矛の役割。 魔法や隙をついた攻撃で敵を倒す。


 硬く早く、そして触れるだけで全てを破壊する力。 全てを持つダイナは、この場では俺にしか止められない。

 問題は、タラテラだ。 全く情報がない(アンノウン)男。 どう出てくるかわからない。


「この絶望とも呼べる状況で、少しも表情を変えないか。 ようやく、この力を存分にふるえる。 楽しみだ」


 ダイナの拳による攻撃を俺が避け、戦いが始まった。


 防戦一方だ。 早さでは俺が勝る。 全てを破壊する暴力を避け、ダメージをゼロに抑える。

 その間に白い炎で、エンヴァはダイナを襲う。


 白い炎は、近づくだけでその熱量を肌に伝える。 それを防御の体制を取らず、生身でダイナは受けていた。

 ダメージどころか、怯む姿さえ見せず攻撃を続けてくる。


「――破岩弾!!」


 ダイナは叫びながら、教会の石畳を蹴り上げる。 崩れた岩は弾丸となり俺を襲う。 だが、見えている。 全て避けることができた。


 俺は全ての兵を視界に捉え、攻撃を避け続ける。

 おかしいと思えた。 敵の後衛はなにもしてこない。


 ただ、悠然と立っていた。 タラテラは。


「――ホワイトアウト」


 タラテラが魔法を唱える。


 白い炎は弾け、爆発がダイナを襲う。

 ダイナの服は焦げ崩れ始めるが、その肌に火傷の損傷は現れなかった。


「さすがに硬すぎるだろう。 さて、どこまで耐えられる?」


 俺はただ避けるだけの繰り返し。 ようやく慣れてきたところだ。 攻撃するだけの余裕が生まれる。 少しずつ、攻撃を返す機会が生まれる。


「ふはは。 認めよう。 お前たちは俺が戦ったどの男たちより強い」


 それなりに強く蹴ったはずも、やはりダメージを与えない。


 エンヴァが奥の手を使っても効かず。 エンヴァが避けられないほど早く。 触れただけでものを壊す。


 俺が到着するまで、どれだけの時間戦っていたのだろうか。 この男をこのまま相手にして、問題はないのか。


 10秒持てば充分。 俺は背に手を隠して、ハンドサインをエンヴァに送る。


 ダイナの攻撃を避けそのまま、タラテラの元へと向かった。


「おいおい。 それはまずいってわけ」


 タラテラが指示を送り、兵たちが俺へと魔法を送る。 俺はその魔法を誘導し、すんで避けることでダイナへとぶつける。 無論、ダメージはないが意識を割くだけで悪くない仕事。


「人間技じゃないってわけ。 あぁ、もう。 俺まで3秒で着く」


 タラテラのいい終わり、俺は腕を伸ばした。 タラテラは半身で構えて、俺の攻撃をすからせる。


「あれ、無傷。 避けれたってわけかな」


 タラテラは、俺から距離をとった。


「……暗殺者(アサシン)か。 これでも1割も満たない」


 俺は手に持った暗器を床へと捨てる。 刀剣に火薬。 魔導書やスクロールまである。


「それは俺の……」

「悪いな。 手癖が悪くて」


 触れさえすれば盗みはできる。 俺はタラテラの懐から隠された武具を暴いた。


「なにもしなかったのではなく。 出来なかったか。 死角刺し(バックスタブ)を狙っていたゆだな。 ダイナにこれ見よがしの兵。 視線誘導(ミスディレクション)のためといえば、納得がいく」

「あーあ。 オフレコで頼むぜ」


 タラテラが両手を上げ、お手上げして見せた。


「あの男の情報通りってわけね。 戦士と聞いていたが……偽造ライセンスには盗賊と。 どっちもハイレベルだ」

「お前こそ、それだこの暗器をもち平気でその速度なんだからな」


 俺はさらにタラテラに警戒を送る必要ができた。

「エンヴァさんは、好きな女性のタイプはどんな?」


性懲りも無く、相手を変えレンは聞く。


「私ですか? うーん、人の話を最後まで聞ける方ですかね」

「そうだよね! 普通、そういう答えだよね!」

「普通……と言われても。 普通じゃないとどんな答えに?」


エンヴァは純粋な疑問だった。

レンの答えはエンヴァの常識を変える。


「二重らせん構造」

「、え?」

「二重らせん構造」


のちにこの会話があったことを知った俺。


そもそも、俺の場合はスタートラインと言われたから……


そっと言い訳を飲み込んだ。

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