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8/30

修行開始

 

「他のお子様たちが命令したら?」


 騎士団が動く可能性はある。 王子はバカ一人ではないのだ。


「……お目が高い。 が、ご安心を。 わたしにお任せください」

「アテがあるだろうな」

「当然です。 そのかわり、半年間でいい。 わたしを匿ってください」


 真剣な眼差しで、フラペコは俺をみていた。 ただ、あまりにも真剣だなと。 裏では何を考えているかと俺は気になる。 俺の経験が、こいつは何かを隠していると言っていたのだ。


 経験といっても、23年生きてるわけだ。 どの経験だろう。 考えてみる。 色々と思ったが、直感ですぐに浮かんだのはサイコロだ。 親父が狙った目の出し方を教えてくれたんだ。


 俺は集中力がないのかな。 嫌悪するギャンブルをしたくなるほど、今に集中してないのかな。 それとも……


「フラペコ、お前さ。 嘘ついてるな」


 フラペコはイカサマをしている。 俺は理由もないけど、そう思った。


「……なんでわかるの? バケモン」


 フラペコは卑怯者だが素直だ。 簡単に負けを認める。 俺はそこが好きだった。


「いいよ。 話したらお前が不利になるんだろう。 匿ってやる」

「……私も本当は嫌だったんですよ。 他のカモどもよりも、他の顧客よりも化け物ですから。 あなたは」


 なんか知らんけどフラペコは本当に笑ってた。


 玄関から外へ出て、俺が手をあげると一人の女性が現れる。 俺は彼女に事情を説明し、フラペコを預けた。


「……今のはだれ?」


 レンにはまだ、会わせたことはない。 俺は意地悪そうな顔をつくって答える。


「知らない女性」

「知らない人に身柄を渡したの!?」


 俺の仲間をレンに紹介するのはまたにしよう。 全員を語るには時間がかかりすぎる。

 どうせまた、紹介する機会があるだろう。


 ―――――――――――――――――――――――


「悪いニュースとそうでないニュースがあるよ」


 俺は家に帰るなりレンに聞く。 酒場の帰りだった。 荷物の受け取りを行い、ついでにいつもの癖で確認を行なった時だ。 その不可解について調べればさらにアンラッキーがついてくる。


「……語尾が変」

「どっちから聞きたいよ」

「どっちでもいいよ」


 レンは心底どうでもよさそうに対応しながら冷蔵庫を開ける。 中身を取り出す直前、俺はそれを妨げるようにそっと扉を閉じた。 やっとこちらを向いたレンにそっと、首を横に振ってやる。


「一つ目、フラペコが逃げた」

「嘘!? それ、やばいんじゃないの?」


 レンが焦ったように早口になる。


「さすがフラペコ。 俺の仲間たちの力を持ってさえ消息不明だ」

「どーするの?」


 レンを向き妙に間を置いた後答える。


「ほっとく」

「えー、いいの?」

「何がまずいと思うんだ。 レン、お前は」


 レンは俺が机上のお菓子を片付けるのを涙目で見ている。


「だって……騎士団が呼ばれるんじゃないの?」


 俺は彼女が可哀想になりひとつだけお菓子を投げ渡す。 それを貪りながら彼女は言った。


「フラペコがわざわざここに来た理由は?」

「えっと……下見?」

「正解」


 俺は拍手しながらもう一個お菓子を渡す。 彼女は大事そうにそれを腰のポケットにしまった。


「で……なんの下見だ?」

「んーっと。 ここがどんな街か知らないと……」

不正解だふせいかぁぁあああいだ


 俺はレンのポケットに手を突っ込むとお菓子を取り出す。


 レンは「セクハラっ!! このっ、このぉ……セクハラっ!!」


 などと暴れていたが、俺は数発は彼女の拳を至近距離で避けた。 残りの数十発は当たった。 痛かったよ。


「まだ問題やる?」

「ほんっっっとに君のセクハラ嫌い!!」

「…………あれだ。 正直すまんかった」


 結局、預かったお菓子は全て失う羽目になった。


 レンの機嫌が治ったからいいか。


「あいつはさ。 下調べしてたの。 俺の戦力をね」

「レンの戦力?」

「うん。 だから、全部見せた」


 レンはお菓子をもう食べ切った様子だ。


「こちらの戦力を知れば、ちょっとやそっとじゃ攻めて来られないって。 いくら騎士団でもな」

「……じゃあ、そっちは安心ってこと?」


 俺が拾ったニュースのうち、フラペコ失踪がそうでもないニュースであることを伝えた。


 そして、もう一つ。


「じゃあさ。 悪いニュースって?」

「……クエストが、受けれなくなりました」

「フランさんにまた失礼なことしたんでしょ」


 またってなんだよ。


 俺はあえて突っ込まず話を続けることにする。


「ここにはいくつか組織があるのは知ってるだろ? 教会の一件で俺たちに圧力がかかってるらしくて。 フランに迷惑かけるわけにはいかんでしょ」

「……その組織は悪いやつら?」

「二大上部組織の両方。 めちゃくちゃ悪いやつらだよ」


 レンは不気味に笑いながら言う。


「なら、ダイスが乗り込んで潰してきなよ」

「まーた。 アホ言ってらっしゃる」


 ため息混じりに流す。 冗談だろう。 冗談でなければこの女、やべえやつだぞ。


「で、これ」


 俺は手のひらサイズの銀のプレートをレンに渡す。


「あ、これ……こんなのなんだ」


 ライセンスカードだ。 レンは受け取ると無理やり曲げてみようとした。 一切曲がらない。 曲がるわけがない。 金属製なのだから。


「本当にこの職業で良かったんだな」


 元は未開の大陸を踏破するために生まれた冒険者。 彼彼女らは、専門の技術を磨き未知へと挑んだ。 その技術を持つものを職業(ジョブ)と呼ぶ。


「うん。 勇者……姫? 勇者姫って何さ」


 レンの希望は勇者だった。 でも、俺にとって勇者はもういた。 身内で被らせにいくのは気が引ける。


「姫さま扱いはいやか?」

「……いや? 満点!」


 ご満悦のようだ。


 その後、俺は大まかに魔法や職業によう影響を説明する。


 魔法とは心の力から生まれる魔力、あるいは精神力にて発動する。 心の力は感情によって作用される。 レンにとって有利な条件だと思う。 逆に、魔力は無感情だと回復しない。


「なんで私にとって有利なの?」

「お前すぐ人を殴るから」

「殴られるほうが悪い」

「……間違いない」


 裏社会では弱肉強食。 簡単に殴られるほど弱いやつが悪い。

 俺がそういうと、レンは静かに否定してきた。


「そういうことじゃない。 まぁ、いいや」


 俺は説明を続ける。


 魔法とは才能と経験によって生まれる。

 例えばゲス。 その人に固有で生まれる能力。

 これは完全に精神の遺伝子によって発現する。 それは経験により変化する。


「私のゲスは?」

「え、お前はゲスだ?」


 俺はやっぱり殴るやつの方が悪いと思う。


「お前、氷の魔法が使えたんだろ?」


 倒れている俺にレンは馬乗りになる。 なんとかレンの両腕を抑え、殴られずに済む。 俺はそのまま言葉を続けた。


「うん。 見せてあげよっか」

「その歳でようやく魔法が使えるようになったんだ。 かなり経験に左右されてると思うんだけど!なにかな。 氷にトラウマでもあるのか」

「私が住んでたところ。 冬はたまに雪降るよ」

「冬だけ……?」


 結局、レンの能力については不明のまま。


 続けよう。 俺はそういうと、ようやくマウントから解放された。


 魔法についても、概ね能力と変わらない。

 経験。 言い換えると過去の記憶や思い出を魔力により発現するもの。

 寒いところで氷に触れれば、感受性の高いものならそれだけで氷魔法が使えるようになる。


「まぁ、私はしばらく凍ってたしね」


 冗談かどうか判断に困る。


 職業は経験の補助だ。 自分を魔法使いだと認識して日々を過ごす。 それだけで、魔法使いとしての経験が高まる。 所詮は人。 そう思うだけで影響は計り知れない。


「じゃあ勇者姫って?」

「本当は職業って適性検査で認められたものしか選べないからな」

「じゃあ、私は勇者姫の適性があるんだ!!」


 嬉しそうに跳ねるレン。


「ここは裏社会たぞ」

「……つまり?」

「偽造ライセンス」


 レンのテンションは上から下に急転直下した。


「つまりさ、いろんな経験を積めば私は強くなれるんだよね」

「その通り。 理解がはやいな」


 えへへ。 と、レンは照れる。


「経験っていうと、旅行とか?」

「新しいものに触れるのは確かにはやいが。 早熟な印象はあるな」

「どうして?」

「経験値ってのは、自己の感受性でたまりやすい。 若いうちに新しいものに触れ続けると。 ほら、なんか慣れてきて目新しさを感じないだろ?」

「……あぁ、たしかに。 レベルが上がると経験値が溜まりづらいんだね」

「……俺、レベルの話したっけ?」


 1を知って10を知るとやら。 レンは存外、頭がいいらしい。


「じゃあさ。 私、何をすればいい?」

「死ぬかも知れないが飛躍的に強くなるのと、死ぬ危険はない上それなりに強くなれるの。 どっちがいい?」


 レンは迷うことなく前者を選ぶ。


 俺は玄関を開けると右手をあげる。 現れるのは、フラペコを移送した女。


「レンを頼む」


 女の名前は、ストーク。 俺はもう、彼女らに話は通してあった。 レンを鍛えてやってくれ。 基本的には、みんな了承してくれた。 一部しぶい顔をしたものもいたのも事実。 どうなるかは信頼しかない。


「この女。 羨ましい。 ずるい、四六時中ダイス様と二人で……」

「あのー、ダイス?」


 レンに詰め寄るストーク。 困惑して俺に助けを求めるレン。 俺はゆったりと笑みをつくる。


「俺の仲間、その幹部たち総勢8名。 全員に認められてこい」


 二人はアジトへと向かっていく。

 その間に、俺がすべきこと。 やらねばならない。 手遅れになる前に。

ある日の昼下がり。

「例えばさー、好きな人とかいるじゃん」

「好きな人?」

「ほら、好きなタイプとか」

タイプと聞かれて、俺は困った。


「……なに想像してる?」

「白くて丸い毛玉か。 こう、ふわふわしてる」

「スタートラインは人間にしよっか」

レンは何故か胸を張りながら言った。

俺はジロジロとレンを見ながら、それでもやっぱり困った。


「ほら、次は何を想像した?」

レンは期待の混じったような声色で聞く。

「二重螺旋構造かな」

「確かにスタートラインですけども!!」


結局、俺はレンの求める答えへたどり着けなかった。

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