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初クエスト

 クエスト ネズミ退治


 大きな教会へと俺たちは足を運ぶ。 宗派は不明。 というのも、街が街だけにそこは建物だけが残されていた。


 二人で中に入ると、老人か子どもが住み着いている。 表では生きられない何かの理由があるものたち。 その中でも特別に力がないものたちが集まる。


 レンは興味がしんしんですと、目を輝かせて周囲を見ていた。 ここはそんな場所ではないのに。 子どもに手を振っては警戒させている。


 俺はレンの頭を小突き、目的の場所へと急いだ。


「何をするの。 待ってよー」


 レンは後から小走りでついてくる。 何やら勘違いをしているようだ。 ここはそんないいところではない。

 弱者だからといって、警戒を解いていい場所では。


 俺たちの後についてくるように、子どもが1人ついてくる。 その様子にレンは気がついていない様子。 レンに後ろから子どもはぶつかると、ペコリと頭を下げて去っていこうとする。


 レンは何をされたか、気がついていない。 ヘラヘラと大丈夫などと笑みを浮かべている。


 俺はその子どもの首根っこを掴むと、目を合わせてやる。 子どもは罰の悪そうに視線を外していた。


 横でレンが俺に対して怒ってくる。


「子ども相手にひどいよ! そんなことするように育てた覚えはありません」


 育てられた覚えもない。


「レン。 お前、財布は?」


 レンには、財布と共に僅かばかりのゴールドを手渡していた。 俺の言葉を聞き、彼女は懐に手を回す。 だんだんと表情を青ざめながら。


「ごめんね……ダイス。 落としたみたい」


 まだ、彼女は気が付かない。 それとも、気がつかないようにしているのか。 俺はため息と共に子どものボロボロの衣類。 その内側に手を回した。


 中からは、不恰好な黒い財布が出てくる。 当然、俺がレンにくれたものだ。


「……偶然だな。 お前に渡したものと同じだ」

「あはは。 偶然だねぇ」


 レンは俺に口裏を合わせてくる。 まだ、トボケるようだ。 俺は追い討ちをかけるように言う。


「中身も同じ額だな。 多くはないが、ここの住民にしては金持ちだ」

「へぇ! すごいんだねぇ」


 いい加減、少し胸がモヤっとしてくる。 この女、人がいいにも程があるだろう。


「レン。 いい加減にしろよ?」

「ダイスも言ってたじゃん。 たまたまなんだよぉ!」


 俺はトドメと言わんばかりに、財布の中から一枚の紙切れを取り出す。


「そうか……なら、これを見ても同じことをいうか?」


 その紙切れには文字が書かれている。 およそ解読することの難しいほど、下手くそな字。 この国のものではない。 レンのいた世界の文字で漢字というらしい。


 糸海 蓮。


 俺が文字を読めないことを知ると、彼女が勉強だと無理やり教えつけてきたものだ。 初めて書いた文字として、何故か後生大事にレンはそれをしまった。


「……ダメだよ。 殺さないで」


 レンは震えた声で言っていた。 


「いや……殺すわけないだろ。 お前は俺をなんだと思ってんだ?」


 俺は子どもにこっそりと金を握らせて、背中を叩いて解放する。 子どもは距離をとった後、こちらの顔をマジマジと見てからそのまま離れていった。


「だってダイスって殺人鬼でしょう?」


 レンは逃げていく子どもへと手を振るが、そのまま彼は消えていく。


「アホなこと言うなよこの貧乳」

「あら、そんなことをいうのはこの口かな」

「なんでだよ。 一悪口と一悪口でおあいこだろ!!」


 俺だけアームロックをかけられて、何故か辛い思いをする羽目となった。


 奥に進み、地下への階段を見つける。 近づくだけで、そこから異臭のする風が立ち込めていた。 下水の匂い。 それもそのはず、俺たちが向かう先は下水道だ。


「うぅ、くさいぞ」


 レンが鼻を曲げて嫌そうな表情を浮かべる。


「仕方がない。 モンスターも現れるくらいだからな。 衛生環境も良くないんだろう」


 ただ、思ったことを俺は言った。 水の通り道の端は盛り上がっている。 靴をできる限り濡らさぬよう、そこを進みながら。


 俺の言葉を聞いて、レンは足を止めたようだ。 急に響く足音が消える。 俺は立ち止まり振り返ると、彼女は驚いたような表情だった。


「モンスター?」

「あぁ、モンスターだ」


 明らかな疑問符を浮かべレンが言うので、俺はおうむ返しで答える。


「ま、まぁ……ダイスが守ってくれるんだもんね。 その間! 私はお仕事がんばるし」


 違和感だ。 だが、その違和感の正体にはすぐに気がついた。


 そういえば、俺はまだレンにクエストの詳細を伝えていない。


 どうするべきか。 本来ならすぐに内容を伝えるべきだろう。 だが、素直にネズミを駆逐して回るぞと言う。 それで彼女はノリノリでネズミをキルして回るだろうか。


 答えはノーだ。 俺の勝手な想像だが、さっさとUターンして彼女は上へと戻るのではないか。 きっとそうするだろう。


「レン。 力が欲しいか?」


 だから俺は、彼女の興味を惹く方法で問いかける。


「え? えっと、いや。 いらないです」


 どうやら俺の見立ては甘かったようだ。 レンは人がおよそ成長過程で手に入れる強さへの探求というものを知らないで来たらしい。


 いや、エンシェント。 つまり旧人と呼ばれた彼女は、この世界の常識というものを知らない。 レンの世界では強くなくても生きていける。 そんな世界だったのかも知れない。


 俺は困った。 どうであれ、この世界では彼女に強くあって欲しい。 賞金首としてこの裏社会にやってくる。 その対象が弱ければ、それは記念日のターキーがごとし。 むざむざ食われようなどと愚かだ。


「レン。 あのな……」


 途中で口を紡ぐ。 何はともあれ、自分に多額の懸賞金がかけられる。 その事実を伝えられるストレスは多大。 レンの心の準備というのを、なんとかつくる時を待つべきだろうか。


 本当は、自分がそれを伝えるのに抵抗があるのかもしれない。 真意はともかく、俺はまだ伝えられないでいた。


「どうしたの?」

「……いや。 せめて手伝えよ」

「うーん。 まぁ、ちゃんとするよ」


 レンは嫌そうながらも俺の後をついてくる。 結局、下水道にいた12匹のネズミたち。 やつらは全て俺が倒した。


 ネズミと言っても、モンスターに違いはない。 20キログラムほどの体格に獰猛な性格。 子どもが何人か襲われていて、今回クエストとなった。


 俺が手をかける瞬間、レンは目を逸らす。 ネズミの死体を見て、彼女はあわれむような視線を送る。


 レンには、バトルは向いていないだろう。 俺は彼女の様子を見てそう思った。

 事実、クエスト終了後の帰り道。 レンに俺は聞いてみた。


「戦いは苦手なんだな」


 レンは困ったように笑い。


「人を襲う動物……モンスターなのはわかるけど。 やっぱりね」


 そう小声でいう。


 俺はレンに強さを求めたが、彼女自身はそうありたいと思わない。 それなら、別に強くある必要はないのかもしれない。


 ここで起こる危機には、俺がレンを守ってやればいい。


 俺たちは酒場で報酬を受け取ると、即座に食料の購入をする。 家に帰り、レンの食事をとった。 やはり暖かくて満足だった。

フラン

身長はレンよりもいくつか大きめ。 金髪で長めの髪を肩にかけている。 赤く大きな瞳だが、目つきが悪く目が合うと少々ビビる。 かつてダイスがこの街にいた頃にたまに食事を分けてくれた。 その頃はまだ、酒場に彼女の父親がいたが。 今は不明である。

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