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バウンティ

 

 俺たちに仇なす存在。 つまり敵だ。 敵を撃退した。 それにもかかわらず、得るものはなかった。


 壁は見事に破壊され、食事は全てが台無し。 その敵も、今は生きて逃げおおせている。 次にいつ、やつらが再び襲ってくるものかわからない。


「お掃除完了!! コンロも水道も綺麗! でも、壁はなんともならないね」


 何が嬉しいのやら、レンは微笑みながら壁の穴より外を眺めていた。 現実逃避か、何も考えていないのか。 あるいはその前向きな姿勢を見習う必要があるかもしれない。


「まぁ……これはこれでいいのかもしれないな。 景色が見えるし」


 そこからの眺めはただ通りが続いているだけだが。 一応、空が見えるのはよし。 俺は夜空が好きだ。 適当にアフタヌーンティー(午後てぃー)と洒落込むこともできるだろう。


「でも、朝食をえと……ダイスはほとんど食べてない」

「気にするな……とはいえ、お前は意外に大喰らいだからな。 とりあえず、働くか」


 俺はレンを連れて、外に出た。 先導するように俺が前を歩く。 道中、彼女にどこへいくのか問われても、俺は答えはしなかった。 その場所には、出来るだけいきたくはなかったから。


 向かうは、はずれにある酒場。 日が登るうちから空いていて、中へ入ると賑わっていた。 ここへ入ると、客どもの視線が一斉に俺へと向けられる。 できれば、ここの世話にはなりたくない。


「あのー、レーンー。 ここってさ」

「……酒場だ」

「白昼堂々と酒場にー?」

「別に飲みにきた訳じゃない。 ここに仕事があるのさ」


 話しながら、客の視線が自分ではなくレンに向けられているのを感じる。 たしかに物珍しいとは思う。 だが、いつまでもジロジロと視線が飛んでいる。 そして、ひそひそと仲間内で何かを話しているようだ。


 俺はそれを無視して、カウンターまで歩いていく。 レンは俺に離れないよう袖の後ろを掴んでいた。 周囲の視線に、レンも気が付いている様子。 不安そうに周りをうかがっている。


 カウンターにつくと、マスターがこちら向く。 若い女性。 同い年のよく知る人物だ。 マスターは俺に向けてジョッキを差し出してくる。


 いかなる目的でこようとも、あくまでここは酒場でなければならない。 それがマスターの心情らしい。 俺はジョッキいっぱいに注がれた酒を一呼吸で飲みきる。 マスターはそれを満足そうに笑い、そのまま口を開いた。


「あんたがここにくるってのは、また珍しいね。 仲直りする気になったかい?」

「……別に喧嘩しちゃいないだろう。 フランこそ、俺を嫌いになったのならさっさと突き出すはずた」

「その通りなんだけどね……ちょっとこっちにきなよ」


 マスターは裏を指差し俺を招く。 まだ、俺がこの街に住んでいた頃の仲だ。 周囲に聞かせられない話もあるのだろう。


「分かった。 レン、いこうか」


 俺がレンを連れて行こうとすると、マスターが口を挟む。


「ちょいまち。 この件はダイス。 あんたにしか話せない内容だ」

「だが、客の様子もおかしい。 この場に一人で置くのには抵抗があるぞ」

「そうだろうね。 大丈夫、あたしの店で暴れるやつなんかいないよ」


 その保証がどこからくるかは不明だ。 だが、友達のいうことだ。 俺は迷いながらレンの方を向く。


「ダイス。 いいよ! 行ってきなさい!!」


 レンは俺と目が合うと、胸をポンと叩きながらそう答えた。


 酒場の裏には、当たり前だが瓶やタルが積んであり酒臭い。 表の逆の喧騒が遠く聞こえる中、マスターもとい、フランは俺に険しい目で紙を差し出した。


「懸賞金2000万ゴールド。 いつ見てもいい額だな」


 その紙には、生死を問わず(デッドおあアライブ)捕らえたものに懸賞金を出す。 いわゆる手配書であることが描かれる。 対象となる人物は、ダイス・ポーカー。 つまり俺だ。 俺がこの街にたどり着いた時にはもう懸賞はかけられていた。 何度か襲われもしたし、次第に数も増えていく。 だが、しまいには誰一人として俺に手を出すものはいなくなった。


「これがどうかしたか?」

「貴族のもとから逃げ出した奴隷。 その後の経緯もあって多額さね。 まぁ、あんたを討伐して二千万なら割りに合わないけどさ」


 フランはため息をつきながらいう。 しかし、なかなか要領を得ない。 彼女をよく見ると、もう一枚手配書のような紙を持っている。 それが本題だろうか。


「別に今に始まったことじゃない。 で、そっちは?」

「まぁ、待ちな。 一億。 そうさねぇ、一億ゴールドもらえるなら、あんたを敵に回してもいい。 私にとってはダイス。 そういう評価さ」


 そう言いながら、フランはもう一枚の手配書を机がわりにタルの上に置いた。


 そこに描かれた顔は、よく知るものだった。 レンが生存のみ(アライブオンリー)にて三億の額がかけられる。 名前にはエンシェントヒューマンと記されているが、間違えようもなくレンだった。


「あんたに二千万しかかけない。 あのケチなお上が三億出す。 いったい何をしたんだろうね。 あたしは驚いたよ。 他ならぬダイスが三億の女を連れてきたんだからさ」

「……三億か。 とんでもないな」

「あんたがここにくるってことは、遊びに来たんじゃないだろう。 おおかた金に困ってクエストを受けにきたってところか。 ほら、三億を手にして、表に帰れる。 やるのかい?」


 賞金首というのは、えてしてシャドータウンへと身を隠す。 ここは、表で烙印を押されたものたちが集まる場所。 無法地帯だからこそだ。


 アウトローになったものは表では人間として扱われない。 だが、国への貢献が認められれば市民として表に帰ることができる。


 ……クソ喰らえだ。 もちろん、俺はレンを差し出すつもりは毛頭ない。


「エンシェントヒューマン。 差し詰め、旧人広告ってところか」

「見たところ、あの娘自体の価値は十万もない。 つまりだ。 あんたを敵に回しても十分お釣りが来るってことだからね」

「来てよかった。 忠告ありがとう」

「……あっそ。 ほら、適当なクエストも持って帰り」


 紙質の違う用紙をフランから受け取る。 クエストと呼ばれ、目標を達成すれば報酬がもらえる。

 シャドータウンといえど、金は大事だ。 これがなければ明日を生きていけない。 もっとも、クエストには明日を生きていく価値を失うものもあるが。


 俺は三枚の紙を懐にしまい、レンを迎えにいく。 レンの元には、汚らしい男が何人か群がっていた。


「……よう。 遊びたいなら相手するが?」


 レンに絡むやつらは、俺の姿を見るとすぐにヘラヘラと帰っていく。 だが、やはりレンを一人にするのは危険そうだ。


「ダイス!! 別に特に何もなかったよ」

「……何か言われたか?」


 彼女が賞金首になっていることを、彼女は知っているのだろうか。 これはいつ伝えるべきなのか。 もし、それを今初めて知って、狙われるのを避けるために俺のもとを離れるようなことがあれば。 ……余計な気を回されても仕方がない。 慎重になるべきだろう。


「んー、お菓子あげるからついてきなよって言われたー」

「…………あそ。 ほら、いくぞ」


 俺たちは酒場をあとにした。

レン イトウミ

150台の身長にしてAカップ。 つまりちんちくりん。 なのに三億の価値がある女。 おそらくこの国の王はロリコンであることが予測される。 その事実を、彼女はまだ 知らない

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