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1943年2月12日夜~重慶

 蒋介石は昨日放送されたという天皇の玉音放送の録音を聞いていた。わかりにくい言い回しではあるが、天皇は、天皇を現御神アキツミカミとするのは架空の観念であると述べ、自らの神性を否定している。また、戦況は必ずしも有利に展開しておらず、拡大した戦線を整理し、より国土を強靭化して敵に備えることへの国民の協力を求めた。さらに、今回の戦争は、アジア各国を欧米の支配から解放することが目的であり、欧米に成り代わることを望んではおらず、また望んではならないと結んだ。

天皇の放送に続いて、東條陸相の放送があり、2年前に全軍に示達した戦陣訓を撤回すること、万難を排して日本に帰り国土の強靭化に寄与することを求めた。戦闘手段を失った場合に、生きて帰るために虜囚となることはやむ得ないが、敵に決して軍機を漏らしてはならないと結んだ。


 日本に何か起きているのは確かだ。2月にいきなり内閣が変わった。1月には太平洋全域でアメリカ軍の活動が見られなくなった。景気のいい大本営発表もなくなった。どこそこに進出した部隊が、内地に向け無事に撤退したという発表ばかりだ。中国では、日本軍の大規模な活動は見られなくなって久しいが、国民党軍が日本軍を追い払うことは現実的に不可能であろう。先ほどの天皇の放送から考えると、日本の側からなんらかの提案があるのかもしれない。そんなことを考えているうちにいつのまにか眠ってしまったようだ。


 ハッとして目を覚ますと、どこかの会議室で座っていた。まわりには国民党の幹部や、軍の幹部が座っている。驚いたことに、汪兆銘や繆斌ぼくひんなどの南京政府の幹部も座っている。さらに驚いたことに、満州皇帝溥儀と張景恵ちょうけいけい総理もいる。一体だれがこれだけの人間を一堂に集めたのか。そもそもいつの間に自分はここへ来たのか。隣の人間に聞こうとして、声が出ないことに気が付いた。そして、男の声がした。


「皆さん。私は、信じられないとは思いますが、300年後の未来から来たものです。史実では、後2年半後には、枢軸国は連合国に無条件降伏し、米英およびソヴィエトに占領されます。その場合、中国はどうなるのか。それをここでお見せします。」


 1945年8月15日に日本が無条件降伏すると、同時に満州帝国は崩壊し、皇帝溥儀はシベリアのチタに連行された。満州は半年余りソ連の軍政下におかれ、ソ連は日本兵及び一般人60万人のほか南部工業地帯の使えそうな機械類を根こそぎ略奪していった。南京政府も8月16日には解散し、国民党軍がなだれこんで支配した。

 戦後の中国には、国民党と共産党が並び立つことになった。アメリカは、共産党を追い詰めるとすでに満州を占拠しているソ連の共産党軍援助を呼び込むことになり、さらには米ソの代理戦争化することを恐れて、両者の宥和を図ったが、両者譲らず内戦が継続する。そして、1946年6月に全面戦争に突入する。当初、国民党軍はアメリカの支援もあり優勢に進めるが、支援が先細りとなるなかで1947年中ごろより「土地革命」により大量の農民を味方につけた共産党軍が盛り返し始め、1948年後半の3大会戦で国民党軍は連続して敗れ、1949年10月に中華人民共和国が建国され、12月には国民党幹部は台湾に避難する。


「私は既にこの歴史に介入しています。たとえば、台湾は国民党の受け入れ先にはならないでしょう。満州も日本からの支援で少しは国らしくなります。しかし、大戦後、国民党と共産党が対決する構図は変わらない。そして、農民、労働者の支持を得られない限り、国民党が最終的勝利をえることはないでしょう。間もなく、日本から休戦の申し出があるはずです。そして、徐々に満州を除く占領地から撤退していきます。蒋介石総統。あなたはこの申し出を受けてくれますか。」


「我々は見捨てられるのか。」

 汪兆銘が静かに言った。

「私としては、国民党に再合同されることを勧めます。それが無理であれば日本に亡命するしかありません。」

「私はどうなる。」

 皇帝溥儀が叫んだ。

「日本が降伏するまでにどれだけ満州国を自立した国家にできるでしょうか。もしも、日本降伏前に国民党により中国が統一されていれば、大中国建設のため、退位されて合併するという道もあります。」

「私は日本の提案を受ける。」

 蒋介石は言った。

「しかし、中立となってしまえばアメリカの支援は受けられない。日本から武器の支援を受けることが条件だ。」

 共産党に勝つためには、農民、労働者を味方につけなければならないか。それは支持基盤の地主、資本家どもを敵に回すことでもある。難しいかじ取りになる。


「皆さんは、国の指導者です。自分のことよりも、国と国民のことを考える方々であると信じたい。共産党一党独裁の中国の民衆は、決して幸福とは言えないと思います。特に、統一後15年して始まる狂気の文化大革命は、中国という大国を20年も停滞させることになる。どうかよく考えて行動されることを願います。」

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