1943年12月7日~トラック環礁
武蔵の砲術長黛大佐は、第一主砲塔を仰ぎ見ていた。こいつが働いたのは、ウラジオ攻略戦だけである。砲撃の手順は簡単になった。というより、何もしなくて良くなった。測距データや自艦の速力、風向風速、気温・湿度・気圧を集めてでかい射撃盤で計算する必要がない。目標選定するだけで、勝手に照準してくれ、かつ、恐ろしく正確だ。
かつて、訓練で、1000トンほどの襤褸舟を、巡洋艦に12ノットで曳航させて、距離38キロで射撃したことがある。こちらは25ノットの船速だった。なにより横風のひどい日だった。10メートル以上吹いていたと思う。曳航索は800メートルほどで、下手したら巡洋艦にあたりかねない。しかし、結果は、一斉射目で命中。巡洋艦艦長は報告で、「よかった。よかった。」を連発していたが、身の縮む思いだったろう。そんな具合で、観測員や、砲術指揮所の計算要員などは不要なのだが、あえて従来通りの作業をさせている。この艦隊がいつまでもいてくれるわけではないからだ。
さらに砲塔や砲身の角度調整も自動なので、砲塔要員もいらなくなった。この第一主砲塔内には、なにか不具合が生じないか見張るために、下士官一人と水兵三人が配置されている。この間、将棋をやっているのを見つけてこっぴどく叱ってやったが、暇なのだからしょうがない面もある。
対空砲は、12.7センチ連装高角砲6基、25ミリ3連装機銃8基、13ミリ連装機銃2基と据え置かれたままだが、それぞれ、射手と2名の助手が付いている。これらも、射手の仕事は、目標を選定しトリガーをひくことだけであり、助手の仕事は、万一、射手がやられた時、一人が射手に代わり、一人はけが人を後送することである。
武蔵はカタパルトを2基備え、複葉の零式観測機7機を載せている。こちらも見た目は以前同様だが、相当性能が上がっている。最高速度が、370キロから450キロになった。アヴェンジャーより優速になったのだ。搭乗員たちは、対潜哨戒と称し、嬉々として毎日搭乗している。海面近くを飛行したりとんぼ返りをうったり、遊んでいるように見えるので、クレーンで回収作業をする水兵は不満顔である。
「これほど強力になったのだから恐れることは何もないはずだ。」
黛大佐は独り言を零した。敵の大艦隊が接近中であるとの連絡があった。わが艦隊は、第一、第二艦隊を合わせて、戦艦4、空母5、重巡4、軽巡4、駆逐艦12である。駆逐艦以外は、【彼】の改造を受けている。しかし… しかし改造を受けたのは、推進器部分と、攻撃装置、そして、各種の探知機関係であって、船体は基本的に変わらない。飽和攻撃を受けたときどうなるのかは、やってみないと分からない。
「砲術長。士官は会議室に集合とのことです。」
「諸君、早速だが、統合参謀本部より連絡があった。南北からトラック方面に敵艦隊が接近中である。彼らはトラック東方で会合し、その後、トラックに向かうつもりのようだ。南方からはイギリス機動艦隊と思われ、巡洋艦以上が26隻。北方からは、アメリカ機動艦隊と思われ、いくつかのグループに分かれて行動しているが、巡洋艦以上だけでも50以上。潜水艦が何隻かを目撃しているが、対潜哨戒が非常に厳しく、艦種まで確認できていない。
現在7日18:00、敵の会合は8日の午後と推定される。連合艦隊は、21:00にトラックを出撃し、まず南方のイギリス艦隊を迎撃する。会敵は明日、05:00と予想する。その後、アメリカ艦隊との戦闘に入る。」
参謀長宇垣少将がそう述べると、山本長官が続けた。
「明日は連続戦闘が予想される。休めるときに休んでおくように。」




